第5話 夜の惨劇・顔のない遺体
洞窟の中は、焚き火の小さな炎が揺れるだけで、外の気配は完全に途絶えていた。
レオン、ミリア、エリス、ラース、シャーリー。
順番に夜警を行うことになり、ラースは疲れ切った身体を横たえた。
だが――胸の奥の不安は、眠りを許してくれなかった。
レオンが洞窟の入口に座り、外の気配を探っていた。
その時――草を踏む、微かな音。
レオンはそっと外を覗いた。
「……ガルド?」
そこには、致命傷を負って倒れたはずのガルドが立っていた。
血の跡も、傷も見えない。ただ、無表情で立っている。
「ガルド!? 無事だったのか!」
レオンは思わず駆け寄った。
ガルドはゆっくりと笑った。
「ああ、なんとかな」
その笑顔は、どこか“作り物”のように見えた。
「お嬢たちも無事か?」
レオンは安心したように背を向けた。
「こっちだ――」
その瞬間。
――ぐさっ。
レオンの首に大剣が振るわれる。
何が起きたのか理解する暇もなく、レオンの身体は崩れ落ちた。
ガルドの背後から、仮面の男が静かに歩み寄り、レオンの頭を持ち上げた。
焚き火の光が、白い仮面を照らした。
ミリアとエリスは、何事もなかったかのように夜警を終えた。
だが――その動きには“違和感”があった。
ラースが眠りの中で薄く目を開けた時、エリスの顔が焚き火の光で照らされた。
「……?」
何かが違う。だが、何が違うのか分からない。
エリスはラースに気づくと、いつものように微笑んだ。
「交代よ、ラース」
その笑顔が、妙に“硬い”ように見えた。
ラースは洞窟の入口に立ち、外の気配を探った。
風が止み、森が息を潜めている。
その時――外に“人影”が立っているのが見えた。
「……ガルド?」
ラースは息を呑んだ。
ガルドは、致命傷を負って倒れたはずだ。
なのに、今、立っている。
「……あり得ない」
ラースは洞窟に戻り、まずシャーリーを起こした。
「シャーリー、起きてくれ」
「……交代の時間ね?」
「違う。敵がいる。みんなを起こしてくれ」
シャーリーは頷き、レオンたちを起こそうとした――その瞬間。
「きゃっ! 何をするの、ミリア! エリス!」
ミリアとエリスが、シャーリーを羽交い締めにしていた。
その傍らには、白い仮面の男が立っていた。
ラースが振り返るより早く、背後から腕が伸び、ラースは羽交い締めにされた。
「……っ!」
その時、ラースは洞窟の奥を見てしまった。
焚き火の光に照らされた――三つの遺体。
レオン。
ミリア。
エリス。
だが――顔がない。
皮膚ごと、まるで“剥ぎ取られた”かのように。
「……な……んだ……これは……」
今、目の前にいるミリアとエリスは――別の何かだ。
理解が追いつかない。思考が崩れる。
仮面の男が、無言でラースの胸に刃を突き立てた。
「……っ……!」
血が溢れ、視界が赤く染まる。
シャーリーも同じように刺され、倒れ込んだ。
ラースは最後の力で、シャーリーの方を見た。
シャーリーの瞳が、涙で濡れていた。
――こいつら……
――一体……何なんだ……
闇が、ラースの意識を飲み込んだ。
こうして、ラースの新しいループは幕を閉じた。




