第3話 絶望の戦場、そして死に戻りへ
翌朝。
蹄の音で目が覚めた。
「帝国軍が来たぞー!」
破城槌が運ばれてくる。
魔術師隊がファイヤーボールを撃ち込むが、いくつかはすり抜けて城壁に直撃した。
ドォォン!
揺れる城壁。
更に帝国軍からファイヤーボールが撃ち込まれる。
火球が城壁に直撃した余韻がまだ残っていた。
石壁は黒く焦げ、熱気が肌にまとわりつく。
耳鳴りがして、世界が少し揺れて見える。
「くそ……また来るのか……」
ラースは震える手で槍を握り直した。
汗で滑りそうになる。
腕は昨日の投石で限界を超えている。
肩は痛みで痺れ、足は棒のようだ。
それでも、戦場は待ってくれない。
そのとき――
遠くから、地鳴りとは違う“軽やかな蹄の音”が聞こえてきた。
ドドドドドッ……!
「味方です! カイン将軍の部隊が来てくれました!」
叫び声が城壁の上に響き渡る。
その瞬間、兵士たちの顔に光が戻った。
「カイン将軍だってよ!」
「助かった……!」
「これで勝てるぞ!」
士気が一気に跳ね上がる。
さっきまで死を覚悟していた兵士たちが、まるで別人のように声を上げた。
ラースも胸の奥に熱いものが込み上げた。
――助かった……のか?
「出撃準備!」
号令が飛ぶ。
ラースは槍を握り、列に並んだ。
足は震えているが、もう逃げられない。
「ラース、行くぞ!」
グスマンが隣で笑う。
その笑顔が、妙に頼もしく見えた。
「開門!」
重い木製の門が軋みながら開く。
外の空気は血と土の匂いが混じり、むせ返るほど濃い。
ラースたちは槍を構え、城外へ飛び出した。
視界に広がるのは――
混沌。
叫び声、怒号、金属がぶつかる音。
馬が嘶き、兵士が倒れ、血が土を濡らす。
「前へ! 押し返せ!」
槍衾が形成され、ラースも必死に槍を突き出す。
腕は震え、狙いは定まらない。
それでも、敵兵の突撃を受け止める。
「うおおおおっ!」
グスマンが吠え、敵兵を突き倒す。
その背中は大きく、頼もしい。
ラースも必死に槍を突き出した。
手応えはない。
だが、突き続けるしかない。
そのとき――
援軍の中から、一騎の馬が飛び出した。
白いマントを翻し、金の装飾が施された鎧を纏う若い騎士。
その姿は、戦場の中で異様なほど輝いて見えた。
「カイン将軍だ!」
兵士たちが歓声を上げる。
カインは馬を駆り、一直線に敵将――黒騎士へ向かっていく。
黒い鎧に身を包み、鉄仮面をつけた不気味な騎士。
その存在は、まるで死そのもののようだった。
「将軍、危ない……!」
誰かが叫んだが、カインは止まらない。
馬の蹄が土を蹴り、風を切る音が響く。
黒騎士も剣を構え、迎え撃つ。
二騎が交差する瞬間――
金属がぶつかる甲高い音が戦場に響いた。
キィィィィンッ!
カインの剣が黒騎士の鉄仮面を弾き飛ばした。
「やった……!」
誰かが叫んだ。
だが――
次の瞬間、カインの動きが止まった。
「……え?」
ラースの視界がスローモーションになる。
黒騎士の剣が、
カインの胸を――
深々と貫いていた。
白いマントが赤く染まる。
カインの身体が馬上でぐらりと揺れ、
そのまま地面へ崩れ落ちた。
「カイン将軍が……!」
「嘘だろ……!」
「敵将カインを討ち取った!」
帝国軍の叫びが戦場に響き渡る。
その声は、
まるで呪いのように王国軍の士気を奪った。
「こ、後退せよ!」
指揮官の声が震えている。
兵士たちは一斉に後退を始めた。
ラースも走り出した。
足がもつれそうになる。
心臓が破裂しそうだ。
「ラース、急げ!」
グスマンが隣で叫ぶ。
だが――
その直後、グスマンの身体が前のめりに崩れた。
背中に、矢が三本、深々と突き刺さっていた。
「グスマン……!」
ラースが叫んだ瞬間、視界の端に赤い光が走った。
ファイヤーボールが飛んでくる。
避けられない。
ドォンッ!
爆風がラースの身体を吹き飛ばした。
背中が焼けるように熱い。
息ができない。
視界が揺れる。
「っ……あ……」
地面に倒れたラースの前に、
帝国兵が歩いてきた。
その手には、
血に濡れた斧。
グスマンの首を腰に吊るしたまま、
帝国兵はラースを見下ろした。
――ちくしょう。
――こんなところで……俺は……。
斧が振り下ろされ、
視界が闇に沈んだ。




