第4話 アドルの失踪と黒騎士の影。カインの告白
南の国境での戦いが続く中、ラースとカインはセシリア姫の部隊の中核として戦果を挙げていた。
昼は剣を振るい、夜は作戦会議と休息。
そんな日々が続くある夜――
ラースは、隣の天幕から微かな声を聞いた。
「……いくな……アドル……」
寝言にしては苦しげで、喉を絞るような、押し殺した悲鳴のような声だった。
ラースは息を呑んだ。
――アドル。
黒騎士の仮面が飛んだ瞬間、カインが呟いた名前。
胸の奥に冷たいものが走る。
翌朝。カインはいつも通りの顔で剣を磨いていたが、その動きはどこかぎこちない。
ラースは静かに声をかけた。
「昨日、うなされていたけど……大丈夫か?」
カインは一瞬手を止め、深く息を吐いた。
「……聞こえてたのか」
「悪いとは思ったが、放っておけなかった」
カインはしばらく黙り、やがて覚悟を決めたように口を開いた。
「……アドルって、俺の幼馴染なんだ」
ラースの胸が強く脈打つ。
カインは遠くを見るような目で語り始めた。
「アドルは……俺と同じ村で育った。
よく一緒に遊んで、よく喧嘩して……兄弟みたいな存在だった」
声は穏やかだが、その奥に深い痛みがあった。
「でも、10歳の時に……突然いなくなったんだ。
誰も理由を知らない。黒づくめにさらわれたわけでもない。
ただ……ある日、姿が消えた」
ラースは静かに耳を傾ける。
「その5年後だ。村が黒づくめの連中に襲われたのは」
拳が震える。
「アドルの失踪と関係があるのかどうか……今でも分からない。
でも、あいつがいなくなって……そして村が滅ぼされた。
俺の中では、全部が繋がってしまっているんだ」
カインの声には、憎しみと、後悔と、喪失が混ざっていた。
ラースは静かに言った。
「……アドルは、どんな子だった?」
カインは少しだけ微笑んだ。
「優しくて、強くて……俺よりずっと頭が良かった。
剣の才能もあった。あいつがいれば、きっと……」
言葉が途切れた。
ラースは確信に近い感覚を覚えた。
――黒騎士の素顔を見た瞬間、カインが動きを止めた理由。
それは、黒騎士の顔がアドルに“似ていた”からだ。
だが、確証はない。
アドルが黒づくめにさらわれたわけでもない。
失踪と襲撃の間には5年の空白がある。
すべてが繋がっているようで、どこか噛み合わない。
その“わずかなズレ”が、逆に不気味さを増していた。
ラースは深く息を吸い、カインの肩に手を置いた。
「カイン……お前が何を背負っているのか、少しだけ分かった気がする」
カインは驚いたようにラースを見る。
「だが、ひとつだけ言わせてくれ。お前がどれだけ強くても……“動きを止めたら”死ぬ」
カインは苦笑した。
「ラースさんは心配性だなぁ。でも……ありがとう」
ラースは拳を握った。
――黒騎士。
――アドル。
――5年の空白。
――カインの心の傷。
未来を変えるには、この因縁の正体を暴かなければならない。
「……絶対に、変えてみせる」
ラースは静かに誓った。




