第2話 冒険者再スタート。魔法習得への道
冒険者ギルドの扉を押し開けると、前回と同じ喧騒が耳に飛び込んできた。
依頼書の貼られた掲示板、武具を磨く冒険者、受付で談笑する人々。
だが、ラースの胸にあるのは、前回とは違う“焦り”だった。
――525年。
――あと1年半で、カインと出会う。
――そして、またあの戦いが来る。
「……時間がない」
受付に向かうと、そこにはミーナがいた。
前回より少し若く見える。
1年早い世界だからだ。
「ミーナか?」
ミーナは目を見開いた。
「本当にラースなのかい? 随分久しぶりだね。どこで何してたんだい?」
世間話になりそうだったので、ラースは手短に登録と装備の貸し出しを頼んだ。
「はいはい、ナイフと採取籠ね。あんた、また冒険者に戻るのかい?」
「……ああ。色々あってな」
こうして、ラースの冒険者生活が再スタートした。
薬草採取、小型魔物の討伐、村への護衛。
前回の経験が身体に残っているため、ラースは驚くほどスムーズに依頼をこなした。
1ヶ月もすると、ギルドの掲示板にラースの名前が載る。
【昇格:Cランク】
「おめでとう、ラース。早いねぇ」
ミーナが笑う。
だが、ラースの胸は晴れなかった。
――強くなるだけでは、未来は変わらない。
――カインが黒騎士へ突っ込む理由を探らなければ。
そしてもう一つ。
――魔法が必要だ。
黒騎士の剣速、帝国軍の魔術師隊、そして“アドル”の正体。
どれも、今のラースでは太刀打ちできない。
「……魔法を覚えないと、勝てない」
ミーナに相談すると、彼女は少し考えてから言った。
「魔法を習いたいなら……引退した老魔術師のヴァルドさんがいいかもね。
ただし、気難しいし、金もかかるよ?」
「構わない。紹介してくれ」
紹介状を受け取り、ラースは王都の外れにある小さな家を訪ねた。
扉を叩くと、白髪で背の曲がった老人が出てきた。
「なんじゃ、わしに何か用か?」
紹介状を渡すと、老人は鼻を鳴らした。
「その年から魔術を習いたいとな。
奇特なやつじゃ。……まあ、ええわ。ほれ?」
手を差し出してくる。
握手かと思ったが、掌は上向き。
「……?」
「金貨一枚じゃ。今日の分をはよ出せ」
「……高いな」
「魔法を舐めるでないわ」
ラースは金貨を渡した。
「毎度。では庭に出るぞ」
庭に出ると、ヴァルドは言った。
「まずはどの程度できるか見せてみぃ」
ラースは生活魔法の水を出した。
「ほほう。生活魔法としてはまずまずじゃ」
次の瞬間、ヴァルドが手を向けた。
ドンッ!!
衝撃がラースの身体を揺らし、足が地面にめり込むほどの圧がかかった。
「なっ……!」
「今のが“マナ”をそのまま外に出したものじゃ。魔法を使うには、まずこれができんといかん」
ラースは息を整え、真似してみる。
体の奥にある何かを掴むような感覚。
それを手のひらへ集め――
「……っ!」
体から何かが抜けるような感覚と共に、ラースはその場に倒れ込んだ。
家の中からヴァルドの声が飛ぶ。
「10回連続でやっても倒れんようになったら来い」
ラースは息を切らしながら笑った。
「……これが……魔法か……」
冒険者稼業の合間に、ラースはひたすらマナ放出の練習を続けた。
最初は1回で倒れた。
3日目で2回。
1週間で5回。
そして1ヶ月後――
「……10回……いけた……!」
ラースは汗だくになりながらも立っていた。
再びヴァルドの家へ。
「もう来たのか。……ふむ、見せてみぃ」
ラースは庭でマナを放出して見せた。
「よし。では次じゃ」
また金貨一枚を要求され、ラースは苦笑しながら渡した。
ヴァルドは掌にマナを集め、言った。
「これを“水”に変換する。生活魔法と同じく、イメージが重要じゃ」
マナが渦を巻き、水の玉へと変わる。
「ほれ」
「……すごい……」
ラースも挑戦する。
掌にマナを集め、水をイメージし――
「水!」
一瞬、大きな水玉ができたが、すぐに弾けて消えた。
ラースはその場にへたり込む。
「気合を入れすぎじゃ。まずは小さく変換の練習をせい」
ヴァルドはそう言って家に戻った。
翌日から、ラースは指先にマナを集め、水や火へ変換し、打ち出す練習を続けた。
1ヶ月後――
「……よし!」
指先から水玉が飛ぶ。
火の玉も飛ぶ。
右手でも左手でも、指10本同時でも撃てるようになった。
威力は低いが、牽制には十分。
「……これなら、戦場で使える」
ラースは拳を握った。
――カインを救うために。
――黒騎士の正体を暴くために。
――未来を変えるために。
ラースは静かに歩き出した。




