第1話 525年で目覚める。運命の“収束”を疑うラース
――胸を貫かれた瞬間。
焼けるような痛みと、肺の奥で何かが潰れるような感覚。
視界が赤く染まり、世界が遠ざかっていく。
「……っくはっ……!」
ラースは跳ね起きた。
喉が焼けるように痛い。
胸に手を当てると、そこには傷一つない。
息を整えながら周囲を見渡す。
石畳の路地裏。
湿った空気。
薄暗い朝の光。
遠くで鳴るパン屋の鐘の音。
――また、ここだ。
何度も見た光景。
だが、今回は胸の奥に違和感があった。
「……まずは、現状把握だな」
服は相変わらずボロい。
金は持っていない。
腹は減っている。
「……いつものパターンだな」
ため息をつきながら路地裏を出て、日雇い仕事を探しつつ、今が何年かを確認する。
「王国歴525年だよ。どうしたんだい、兄さん?」
「……525年、か」
ラースは静かに息を吐いた。
前回は526年。
今回は525年。
――1年早く戻った。
「……また、ここからか」
胸の奥に重い絶望が沈む。
兵士ルートでも、冒険者ルートでも、結果は同じだった。
ラースは歩きながら、これまでのループを整理した。
最初の5回は兵士になり、訓練し、戦場に立ち、
カインが黒騎士に殺され、王国軍が崩れ、グスマンが死に、ラースも死んだ。
兵士として強くなっても、結果は変わらなかった。
そして前回は冒険者ルート。セシリア姫に抜擢され、カインと共に戦い、将軍としてのカインを支えた。
だが――
あの戦いでカインは黒騎士に突っ込み、鉄仮面を弾き飛ばした瞬間、
「アドル……」と呟いて動きを止め、胸を貫かれた。
ラースも同じく殺された。
「……どのルートを選んでも、結末は同じ……か」
運命が“収束”している。そんな言葉が脳裏をよぎる。
カインが黒騎士へ突っ込む理由は何なのか。
ラースは立ち止まり、空を見上げた。
黒騎士の仮面が飛んだ瞬間、カインは驚愕の表情を浮かべ、「アドル……」と呟いた。
アドル。
黒騎士。
この二つは確実に繋がっている。
「……情報を集めるしかないな」
そしてもう一つ。
カインと黒騎士を戦わせないこと。
だが、黒騎士を見た途端に突っ込んでいくカインを止めるのは至難の業だ。
「……それでも、やるしかないか……」
腹が鳴った。
「……まずは、日銭を稼ぐか」
兵士になる気はない。
冒険者として稼ぎながら、情報収集と鍛錬を進めるしかない。
ラースは冒険者ギルドへ向かった。
受付には、前回より少し若く見えるミーナがいた。
「ミーナか?」
ミーナは目を見開いた。
「本当にラースなのかい?随分久しぶりだね。どこで何やってたんだい?」
世間話になりそうだったので、ラースは手短に登録と装備の貸し出しを頼んだ。
こうして、ラースの“525年ループ”が始まった。
今回は、カインが黒騎士へ突っ込む理由を探すためのループだ。
ラースは静かに拳を握った。
「……今度こそ、変えてみせる」




