第4話 526年で止まる死に戻り。運命の壁
――斧が振り下ろされる音。
――首筋に触れた冷たい刃。
――視界が闇に沈む瞬間。
そのすべてが、もう何度目か分からないほど繰り返されていた。
「……はっ……!」
ラースは跳ね起きた。肺が焼けるように痛い。喉は乾ききり、呼吸が荒い。
だが、すぐに気づく。
――この景色、見覚えがある。
石畳の路地裏。
湿った空気。
薄暗い朝の光。
遠くで鳴るパン屋の鐘の音。
前回とまったく同じ場所。同じ匂い。同じ空気。
「……また……ここか……」
ラースはゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。
胸の奥がざわつく。嫌な汗が背中を伝う。
「……今は……何年だ……?」
足を引きずるように街へ出て、通りすがりの商人に声をかけた。
「すまない……今は……王国歴、何年だ……?」
商人は怪訝そうに眉をひそめたが、淡々と答えた。
「526年だよ。何言ってんだ、あんた」
その瞬間、ラースの心臓が止まりそうになった。
「……526年……?」
声が震える。喉がひりつく。
「……なんで……だ……?」
529年に戻った。次は528年。次は527年。次は526年。
なら、次は525年に戻るはずだ。
なのに――526年のまま。
「……どういうことだ……?」
ラースは路地裏に戻り、壁に手をついて崩れ落ちた。
頭がぐらぐらする。視界が揺れる。
「……なんで……戻らない……?」
死ぬたびに若返る。
死ぬたびに過去へ戻る。
その法則が、突然途切れた。
「……ふざけるなよ……」
拳を握る。
だが、怒りよりも先に来るのは“恐怖”だった。
――戻れない。
――ここが限界なのか。
――この先は、もう変えられないのか。
胸が冷たく締め付けられる。
「……どうすれば……」
ラースは頭を抱えた。
何度繰り返しても、何度強くなっても、何度足掻いても、未来は変わらなかった。
そして今、時間すら味方してくれない。
「……俺は……どうすればいいんだ……」
路地裏の静けさが、ラースの絶望を深く深く沈めていく。
こうして、ラースは初めて“運命の壁”を意識した。
――死に戻りには限界がある。
――このままでは、何も変えられない。
その事実が、ラースの心に重くのしかかった。




