第3話 528→527→526年。終わらない敗北と死
――斧が振り下ろされる音。
――首筋に触れた冷たい刃。
――視界が闇に沈む瞬間。
そのすべてが、まるで“昨日のこと”のように鮮明だった。
「……はっ……!」
ラースは息を吸い込み、跳ね起きた。
見慣れた石畳。薄暗い路地裏。湿った空気。
だが、前回とは違う。
「……528年……?」
街の噂話を拾い、今がいつなのかを確認した瞬間、ラースの背筋に冷たいものが走った。
前回は529年。今回は528年。
――また、1年早く戻っている。
「……ふざけるなよ……」
拳を握る。
だが、怒りよりも先に来るのは“恐怖”だった。
死ぬたびに若返る。
死ぬたびに過去へ戻る。
だが、戻る速度が速すぎる。
兵士募集所へ向かい、前回と同じ面接官に同じ対応をされ、同じように採用される。
訓練初日から、ラースは圧倒的に動けた。
槍も弓も、生活魔法も、周囲の兵士が驚くほどの成長を見せた。
「おっさん、すげぇな……」
「……まぁ、ちょっとな」
だが、ラースの胸は重かった。
――どうせ、また同じ未来が来る。
西門に帝国軍が迫り、初日は城壁からの迎撃。
翌日、カイン将軍が援軍に駆けつける。
そして――カインが黒騎士の鉄仮面を弾き飛ばす。
その瞬間、カインの動きが止まる。
「……またかよ……!」
ラースの叫びは、戦場の轟音にかき消された。
黒騎士の剣が、カインの胸を深々と貫く。
白いマントが赤く染まる。
王国軍の士気が崩壊し、撤退が始まる。
その最中、グスマンが弓を受けて倒れ、ラースはファイヤーボールを受けて倒れ、帝国兵がグスマンの首を刎ね、ラースの首を刎ねる。
――また、守れなかった。
「……はっ……!」
目覚めた瞬間、ラースは空を見上げた。
青空。鳥の声。平和な王都。
だが、胸の奥は凍りついていた。
「……527年……」
また1年早く戻っている。
「……なんなんだよ……これ……」
怒りとも悲しみともつかない感情が、胸の奥で渦巻いた。
兵士になり、訓練し、グスマンと再会し、友情を深め、戦場へ向かう。
前回よりも強くなっている。槍も弓も、魔法も、すべてが前より上達している。
「ラース、今日もすげぇな!」
「……ありがとう……」
だが、ラースは知っていた。
どれだけ強くなっても、未来は変わらない。
西門に帝国軍が迫り、初日は城壁からの迎撃。
翌日、カイン将軍が援軍に駆けつける。
そして――カインが死ぬ。
王国軍が崩壊する。
グスマンが死ぬ。
ラースも死ぬ。
――また、同じだ。
「……はっ……!」
ラースは跳ね起きた。見慣れた石畳。湿った空気。遠くで鳴る鐘の音。
「……526年……」
また1年早く戻っている。
だが、胸の奥に湧き上がったのは、予感でも推測でもなく――
ただの絶望だった。
どれだけ強くなっても、どれだけ準備しても、どれだけ努力しても、未来は変わらない。
カインは死ぬ。
王国軍は崩れる。
グスマンは死ぬ。
そして自分も死ぬ。
何度繰り返しても、何度足掻いても、結果は同じ。
「……どうすれば……」
ラースは頭を抱えた。
希望は砕け、心はすり減り、ただ暗闇だけが胸に広がっていく。
――終わらない敗北。
――終わらない死。
ラースはまだ知らない。
次に目覚めたとき、“戻れる限界”があることに気づくことを。




