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最終決戦  作者: 一宮 沙耶
第2章 超能力者組織の再興

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3話 人体実験

俺は、田舎の貧しい家庭で育った。名前は、木下 竜輝という。

名前だけは立派だが、いつもボロボロの服で学校に行くしかなくて、劣等感の塊だった。

俺をいじめるやつも最初はいたが、そんな奴らを殴りつけていると、誰も近寄らなくなる。


その反動か、世の中でのしあがろうとする気持ちが日に日に高まっていった。

ただ、そのためには金が必要だった。

しかし、学生のアルバイトでは、稼げる金にも限界がある。


高校を卒業した頃、ある医療機関が高額の報酬で募集していた人体実験があるのを知った。

もちろん、そんな甘い話しはないから、危ない実験だとは思った。

でも、破格の報酬というのは俺にとっては魅力的だった。


いつ死んでもいいと思っていたので、すぐに応募した。

健康診断でOKとなり、その場で注射を1回だけ打たれる。

それから毎日、血液等の検査を受けたけど、何の実験だったのかは知らされていない。


最初の説明会でしか会わなかったけど、被験者は20人ぐらいだった。

あとで聞いたところだと、半分は実験の途中で亡くなったらしい。

でも、毎日の食事は美味しいし、毎月お金も貰えて、俺にとっては夢のような生活だった。


みぞれが降る寒い冬の日に施設に入ったけど、時間は過ぎていく。

窓から梅、桜がみえて季節の移り変わりが感じられた。

その後、つつじ、紫陽花を経て、施設を出たのは、陽が強く照りつける熱い夏だった。


最近、1つ気付いたことがある。

鏡を見ながら先生の顔を考えていたら、鏡に先生の顔が映っている。

どうして先生が目の前に? いや違う。俺の顔が先生の顔になっていた。

先生にそのことを伝えると、とても嬉しそうな顔を俺に向ける。


「実験の参加、ありがとうございます。実は、この実験は超能力を身につける薬の開発だったんです。未だ、どういう人に効果がでるのか、そして、どういう条件で、どのような超能力が発現するのかは不明ですが、一定の確率で超能力を発現することが分かったんです。それだけでも、世界的発明だと言える。」

「そうなんだ。じゃあ、女性にも変われるのかな?」

「やってみなさい。あの看護婦とかはどうでしょうか。」


俺が試してみると、服装は変わらないけど、その看護婦とそっくりな姿に変わる。

看護婦は気持ち悪いものでも見るような顔をしていたが、医者は笑っていた。


「すごいですね。ところで、1つお願いがあります。実は私も超能力を持っていますが、超能力者どうしで組織を作っていて、超能力者を中心とした世の中を作ろうとしているんです。君にも、この組織に参加してもらいたいと考えています。」

「参加するとどうなるんだ?」

「組織から年に1回ぐらい指示が来るので、それを実行するっていう感じですかね。別人になりきれるというのは、とても使える能力ですよ。」

「お金はもらえるのか?」

「もちろんです。」

「逆に、断れば、どうなるんだ?」

「我々の秘密を知った以上、我々の組織に参加しなければ殺すしかありません。」

「まあ、分かった、参加するよ。いいことしかなさそうだし。」

「では、これでこの病院を退院していいです。連絡が後日いくので、待機しておいてください。」


俺はすぐに東京に出て酒屋で働く中で、翠と知り合った。

翠は俺の好みの顔立ちで、しかも親はお金持ちで金蔓としても使える。

俺は、翠と急激に関係を縮め、男女の関係を持つと、泣きながら喜んでいた。


こんなに短期間で女ができたのは俺の実力なのだと思う。

超能力を持っていることで、俺は揺るぎない自信を得た。

この時は、超能力者の組織が手を回し、踊らされていることを知らずに。


翠は、ベットの中で、胸が小さい、こんな私で、ごめんなさいとつぶやく。

俺は、そんなことは気にしなくても素敵な所がいっぱいあると伝えた。

翠は、嬉しそうに、俺の胸に顔を埋めてきた。


その頃だったと思う。組織から指示が来た。

ある議員の顔に変わり、国会議事堂に荷物を運んでもらいたいという。

荷物の中身は見えないが、物騒なものであることに間違いはない。


初めてきた国会議事堂の前に恐る恐る立つ。

黒い雲が国会議事堂を覆い、雷が鳴り響いていた。

これは爆弾で、今、自分は、議員を殺そうとしていることぐらい俺にでも分かる。


いくら荒くれで生きてきたと言っても、これまで人を殺したことはない。

初めての殺人に向かっている自分に足が震える。

ただ、断れないし、俺のことをバカにしてきたエリートに憎しみもある。


誰も周りにいないことを確認し、写真でみた議員の顔になる。

国会議事堂の入口には守衛がいたが、問題なく入り込めるだろうか。

入口を過ぎた時、守衛から声をかけられる。バレたか?


「坂本議員、今日も暑いですね。お疲れ様です。」


守衛はそう言って、俺に敬礼をしていた。

やはり俺の能力はすごい。誰もが騙されている。

俺は、議場の自席にカバンを置き、トイレに行くふりをして議場をでた。


議場では、老人達の笑い声が響く。

こんな人生の終わりの奴らに俺達が支配されていたのか。

もう棺桶に足を入れているのだから、あの爆弾で死んでも、大差はない。


俺はトイレを通り過ぎ、忘れ物をしたと国会議事堂を出た。

さっき敬礼をした守衛は、大変ですねと笑いかけてきた。

お前の役割は、怪しいやつを止めることだろう。役立たずが。


国会議事堂をでて10分ぐらいだっただろうか、後ろから大きな爆発音が聞こえる。

振り返ると、窓のガラスは粉々に飛び散り、黒煙が建物を包む。

建物で特徴的な中央の四角錐の屋根は半分、崩れるほどのダメージを受けていた。


俺は、すぐに公園のトイレで自分の姿に戻り、家への帰途についた。

TVでは、国会議事堂が爆破され、多くの政治家が亡くなったと報道されていた。

しかも、犯人は議員だと判明し、その議員は国会議事堂の前で逮捕されたと言っている。


捉えられた現場の映像が流れ、あの守衛が議員を押さえつけている。

来てすぐに出ていき、その直後に爆破されたことを不審に思ったと話している。

その議員は、今日、まだ国会議事堂には入っていないと嘘を言っていたとも話していた。


議員の顔がTVに流れた。その家族は驚き、時間が止まったことだろう。

自宅に報道陣が集まり、泣き崩れる奥様にマイクを向けていた。


そんな事件の後も、私生活は翠との平穏な生活を続けていた。

ただ、初めて翠と体を重ねてから3ヶ月ぐらい経った頃だろうか。

翠から妊娠したと深刻な顔をして相談された。


俺はすぐに結婚しようと伝えると、翠はうなづき、床にしゃがみこんで泣いていた。

でも、奇妙なことが起こったんだ。急激に翠のお腹は大きくなっていく。

妊娠4ヶ月後なのに、もう臨月のような大きさだった。


翠に異常なことが起きているのは、俺の超能力が原因に違いない。

俺はかつて人体実験をした病院に詰め寄った。


「妻の子供が、あんな急激にお腹の中で育っているのは、俺が受けた人体実験のせいなんだよな。副作用はないと言っていたじゃないか。」

「薬には、常にリスクを伴います。薬自体に変異が生じることもありますし、被験者の特徴で想定された効果とは違う症状が出ることもあります。ただ、今回は、あなたには特に問題は発生していないようですし、我々の責任はないと考えています。」

「何を言っているんだ。翠は明らかにお前達の実験のせいで、死ぬかもしれないんだぞ。」


翠の状況を見ていた俺は、淡々と答える医師に声を震わせ、机を蹴り上げた。

でも、医師は、怒鳴る俺に全く動揺することなく、冷静に穏やかに話す。


「あなたは、すごい力を得たと喜んでいたでしょう。それはこれからも変わらないんですよ。いいじゃないですか。」

「喧嘩を売っているのか? 俺は、これから妻や子供を持てないんだぞ。子供ができたら、妻が死んでしまうかもしれない。」

「奥様が死ぬと決まったわけでもないでしょう。」

「とても、正常に生き続けることができそうにもない。子供も、どうなるかわからない。そもそも、政府の要人を殺害するなんて犯罪、協力したくなかったんだよ。俺は組織から脱退する。そして、超能力者による組織の存在を公表し、翠は政府の医療機関に送り、助けてもらうんだ。」


目の前の医師を睨みつけ、部屋を出ようと立ち上がった。


「いいんですか? そんなことを言えば、我々はあなたを放っておけません。政府も超能力者であるあなたを殺すでしょう。すでに多くの議員を殺した犯罪者なんですから。奥様の安全も危ないと思いますよ。」

「お前達よりは政府の方が信頼できる。もうお別れだ。」


あまりの無責任な言葉にイラついて帰るときだった。

工事現場の横を歩いている時、俺の頭に鉄パイプが何本も落ちてくる。

あまりの早い組織からの攻撃に、俺は反撃できず、意識は遠のいていった。

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