2話 夜の校舎
「殺される。逃げないと。」
三日月の夜、窓から淡い光が入る小学校の校舎で私は1人逃げていた。
暗がりで姿は見えないけど、背後から殺気と走り寄る足音が私を追い詰める。
逃げても、少しづつ距離は狭まり、あと少しで追いつかれてしまう。
走る廊下には割れた窓ガラスが散乱している。
廊下の先は壁となり、右か左かと選択を迫られる。
そんなことを考えている間にも、足音は近づき、音が大きくなる。
右には遠くに明かりが見える。
でも、その明かりは私を殺そうとする人が持つライトかもしれない。
恐怖で足が思ったように動かない。
鳥肌が達、体が凍りついたみたいに重い。
でも、逃げないと。
暗闇が広がる左へと走ることにした。
床にあった箱につまづき、ガラスで腕と膝を切ってしまう。
足の裏も、さっきからガラスで傷だらけ。
でも、そんなことを気にしていたら殺される。逃げないと。
殺気がすぐ後ろまで迫ってきている。
どうしよう。もう体力が限界に来ている。
息が乱れているけど、見つかるから音はあまり出せない。
もう、足は、傷だらけで血が止まらない。
服に目をやると、いたる所から血がにじみ出てることに気づく。
やっと校庭にでることができた。
目の前には、大きな体育館があり、私は、その壁の影にかがみ込み隠れる。
少し休まないと、これ以上、走れない。もう、息が苦しい。
砂利のうえを歩く音がし、誰かが私に近づいてくる。どうしよう。
このまま、息を潜めていたほうがいいのかしら。
それとも、走って逃げたほうが・・・。
もう、すぐそこにいる。
これ以上、ここに隠れていたら、見つかって殺されてしまう。
私は、最大限の力を振り絞り、そこから走って逃げた。
でも、追ってくる男の人の速さには逃げ切れない。
私は、振り下ろされた包丁で、後ろから切りつけられた。
地面に倒れて動くことができない。
そして、長い間、私の死体は見つかることなく、腐っていく。
私は、自分の顔が半分腐って目玉が顔からぽろりと落ちるのを見て悲鳴をあげた。
深夜2時過ぎに、布団の上にいる自分に気づく。
汗でびっちょり。どうして、毎晩、こんな悪夢をみるのかしら。
私は殺されるようなやましいことなんて何一つしていない。
怖くて、すぐには眠ることもできず、温めたミルクを飲んで落ち着くことにした。
そして、あれは夢に過ぎないと自分に言い聞かせ、また眠りにつく。
強い朝日が窓から差し込み、目が覚めた。
早く起きないと会社に遅刻する。
私は、IT会社でシステム開発をしている。
仕事は忙しく、納期も厳しいから、毎晩、あんな怖い夢をみるのかしら。
お昼休みに、職場の同僚に相談してみても、ストレスのせいと言うだけ。
でも、私は向上心もないから、適当に仕事をしていてストレスなんてない。
彼との関係も上手くいっていて、リア充だとSNSで発信もしている。
あの校舎は、田舎の学校のような感じだった。
でも、私は、そんな田舎で子供時代を過ごしていない。
私を刺した、あの男性の顔はみることもできていない。
私は、窓から陽の光が燦々と差し込む休憩室でお昼休みを終え、午後の仕事を始めた。
どうして、こんな夢をみるのか心にざわつきを抱えながら。
週末、彼に相談することにした。
「陽稀、ちょっと聞いてよ。私、最近、夜、悪夢にうなされていてさ、本当に怖いんだけど、どうにかなからないかな。」
「そうなんだ。でも、たかが夢じゃん。別に、現実世界で、傷つけられたりされるわけじゃないんだろう。気にしないのが一番だよ。そのうち、出てこなくなるって。それでもだめなら、あとは、霊媒師とかに相談してみるとか。」
「そうだんだけどさ。少しは、大変だねとか声をかけられないの? なんか相談して損した感じ。」
「なにをそんなに怒ってるんだよ。ちゃんと相談にのってるじゃないか。」
翠は、夢のことを本当に悩んでいるみたいだ。
大きな瞳は僕を見つめ、怒った顔を初めて見せた姿には驚いた。
翠は、僕の職場の後輩で、半年前から付き合っている。
翠は、いつも僕を立て、笑いかけてくれていた。
将来の夢を語る僕をずっと見つめ、一緒に夢を叶えたいと言ってくれた。
ただ、僕は、それ以上の関係に進むと嫌われるかもと心配だった。
キスをする勇気もない僕が焦ったかったんだと思う。
翠から、小さな声で結婚してと耳元で囁かれたんだ。
その日を契機に僕らは婚約し、親同士も合意のうえでの付き合いをしていた。
でも、なんで悪夢に悩んでいるのだろうか。
仕事はそんなに大変じゃなくて、マイペースで進めているようだし。
過去に、そんな経験があったとも聞いていない。
そういえば、翠には、過去に付き合っていた人がいるらしい。
その人のことは一切話さないが、誰でも隠したい過去の1つや2つはある。
でも、そういえば、翠は、お腹に手術の痕があることをすごく気にしている。
どうも、その男性と関係があるような気がする。
あの夢は、そのことと関係しているんだろうか?




