1話 作戦の見直し
「今日は集まってもらって、ありがとう。私達の日本組織は、ここにいる6人と、我々が支配している約800人だけになってしまったわね。私の力が足りなかったため。ごめんなさい。」
「いえ、凛さんのせいじゃないです。政府には、長い歴史を乗り越えてきた公安の中に、何人もスペシャリストがいるためです。」
次々とメンバーが暗殺され、組織が崩壊しつつあることでコップを持つ私の手は震える。
日本に生き残った6人全員の超能力者を第2拠点に集めた。
東京本部が襲われることを想定して設置していた山梨韮崎の拠点に。
第2拠点は、韮崎駅南口から1分ぐらい歩いた所にある、見た目はごく普通の一軒家。
正面は白壁で、両脇の壁が茶色のトタン板が張られている。
この家は、仲良しの親族が頻繁に訪れていると思われ、政府の監視下から外れている。
ごく一般的な家に見えるけど、2階には、廊下に囲まれ窓がない会議室がある。
会議の音が漏れないように慎重に作られた部屋。
目の前には、男性2人、女性3人、日本で生き残る全ての超能力者が座る。
「いえ、私のせい。今後、これまでを振り返り、抜本的に闘い方を変えなければいけないと思う。まず、先日亡くなった陽葵から、政府は、東京本部の場所をつきとめ、我々が1カ月後にイベント会場を爆破するとの情報に基づき、テロ行為を阻止する準備を進めているとの情報が入ったの。だから、東京本部からは全面的に撤収し、1カ月後のイベント会場の爆破もやめることにした。」
席上の人々からは、そこまでかとの声が漏れ、顔には落胆の表情が滲む。
この前まで70人もいた仲間が、この6人だけになってしまったことにショックを受けて。
窓がない部屋を電球が照らしているものの、部屋は闇のように暗い雰囲気が漂う。
「そもそも、こんな状況になってしまったのはどうしてなのか、忌憚のない意見をください。」
「いいですか、凛さん。」
「ええ、河田さん、どうぞ。」
「まず、超能力者を生み出すスピードが遅いと思うのです。このままでは、元の数にもどすのに5年はかかり、それ以降も伸び悩みます。」
「どうしたらいいのかしら。」
「ロボットをより小型化し、空気感染で一気に日本中に広げましょう。この開発はお任せください。」
コルト国から提供されるロボット自体を変えるなんて発想はなかった。
血液の中で育ち、脳に入り込んで超能力者を生み出すテクノロジー。
その基本を習得すれば、応用するのは日本人の得意技。
優秀な河田さんを守ってきたかいがあった。
河田さんは優秀な技術者であり、政界、経済界に広い人脈を持つ。
そんな人が超能力者になれたのは、私にとって幸運だった。
「それは画期的ね。河田さんにお任せします。是非、実現させてください。」
「すでに研究は進めているのでお任せください。なお、研究の過程で、男性の超能力者が女性と子供を作ると、その女性と子供も超能力者になる変種のロボットも生み出しましたが、その実験もやってみていいでしょうか?」
「やってみましょう。そうなると、空気感染以外にも超能力者が増えるということね。」
「そうではあるのですが、まだ、女性や子供が超能力者として生き続けるかが検証できていません。」
「そうなの。実験で検証していきましょう。」
我々のテクノロジーは河田さんの肩にかかっている。
河田さんは50代の男性で、東京大学医学部を卒業した天才。
それに、人の考えをコントロールでき、思ったとおりに動かせる超能力を持っている。
そんな能力を持っているのに、日頃は、ふざけたおじさんにしか見えない演技派。
私が一番、頼りにしている人。
次に、27歳の彩華が手を挙げている。
「彩華、なんでも言って。」
「これまで超能力を過信しすぎて、個々人の能力に任せすぎていたのだと思う。これからは、5人ぐらいの超能力者を1つのチームにして、こちらの活動ももっと複雑化、高度化する方がいい。」
「なるほど。そうしましょう。河田さんの活動で、超能力者の数はもっと増えるはずだから、チームで動くこともできるはず。」
「超能力者の数増大は、この河田に任せてください。」
「よろしくお願いします。外国でも、超能力者は劣勢にあると聞いているし、河田さんがロボットを空気感染できるようにするまで活動を休止する。政府には、日本では超能力者は一掃できたと思わせるの。」
「今は、ひっそりと隠れているしかないですね。」
日本では、超能力者は全滅したと誤解されることで生き残る。
誰もが、それしか今打てる手はないと下を向く。
「河田さん、空気感染ができるのはいつ頃かしら。そして、それが実現できれば、その1年後に超能力者はどのぐらいになっている見込みなの。」
「空気感染の研究が完成するのはあと3年。その後1年以内に、国民の2%が感染し、その1%が超能力者になると見込んでいます。2%なので240万人に感染し、その1%の約2万人が超能力者になるでしょう。」
「すごい・・・。」
「感染者の99%はロボットにコントロールされ、我々が思うように動かすことができます。」
「それは朗報ね。感染しない人も、河田さんが支配できるし、私達の力は強固なものになるはず。でも、私達の力を過信せずに、着実に進めましょう。私は、まず、河田さんが開発したロボットを試してみる。男性を感染させて、女性と子供を作るように誘導する。そして、その結果を検証するということね。」
「では、空気感染の研究とともに、先日、変異したロボットを凛さんにお渡しします。」
「お願いするわ。」
第2拠点は、いつ殺されるかも分からないという、どす黒い不安に包まれる。
それでも、組織再構築に向けて鋭い目をお互いに向け、みんなが勢いよく立ち上がる。
その直後には、暖かい親戚の集いだったという顔を作り、第2拠点からみんなは去った。
ただ、その晩、河田さんから話したいことがあるから会いたいと連絡が入る。
「相談って、何?」
「私が何を言いに来たか、わかっているでしょう。凛さんは、全世界の超能力者組織から任命された日本のリーダーだから誰もが従っていますが、真剣味に欠けます。元々、凛さんは、政争や人を殺すことはお嫌で、拉致されたご家族の命で脅されてこの対応をしていることは知っています。でも、このままだと、これを知らない人からは、凛さんは死なないから、自分達が死んでもどうでもいいとやる気がないと思われてしまいます。」
痛いところをついてきた。
「政府が我々超能力者を暗殺することを強化している中、我々は毎晩、殺される恐怖に怯え、真剣なんです。申し訳ないですが、もう少し、本気なところをみんなに見せてください。そして、死なないという能力があることは決して周りに言わないでください。リーダーが死なないことはいい事なので、引き続き、凛さんを日本のリーダーにはしていきますので。」
「ごめんなさい。そんな気でもないのだけど、誤解を与えてしまっているわね。これから気をつける。」
「よろしくお願いいたします。」
私は、人と争ったり、自分の力を誇示したりするのは好きじゃない。
ただ、周りと仲良しで笑って過ごしたいの。
争いがない、穏やかな時間を過ごしたい。
だから、組織のリーダーなんて無理。
本気じゃないという指摘も、そのとおり。
でも、家族の命は私が守らなければならない。
どうして、こんな事態に巻き込まれてしまったのかしら。
他の人でもよかったのに。
私は、その人に支配されてもよかったのに。
窓から見える空は、瞬く間に雨雲に包まれ、あたり一面、豪雨が降り始める。
私が進む先を象徴しているかのように、ただ、呆然と見つめていた。




