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最終決戦  作者: 一宮 沙耶
第1章 超能力

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4話 心を読む

煙につつまれた教会で、なにが起こったのかわからず、僕は、呆然と椅子に座っていた。

背広の肩に砂埃が降りかかっている。

逃げようと扉をあけると、外の光が差し込み、呆然と佇む女性が目に入った。


「お嬢さん、逃げましょう。」

「何が起こったんですか?」

「そんなこといいから、早く、ここから出ましょう。建物が崩れるかもしれないから。」

「はい。」


僕は、その女性の手を引いて、眩しくてよく見えない外に出た。

医者が私達をさっとチェックし、大丈夫だと診断され、その場で開放される。

新婦の安否は気になるものの、教会には入れないと言われ、この場を去るしかなかった。


「お礼とかもしたいですし、LINEを交換させてください。今日は疲れたし、お互いに大丈夫だと言われたから、帰りましょう。」


僕は、内閣府に勤めていて、今は、総理の政策立案に参画している。

官僚は給料も低いし、最近は、天下りもできず上が詰まり、出世もできないと聞いていた。

でも、僕は、世の中をより良くしたいと思い、官僚を目指した。


大学の同期が女性と時間を費やしているときに、僕は仕事に専念した。

世の中の人は何を望み、それを政府として、どう実現するのかばかりを考えてきた。

それが認められたのか、同期で一番に出世し、内閣府に呼ばれる。


周りは優秀な人ばかりで、優秀だと思っていた自分が恥ずかしいと思う毎日。

それでも、より豊かな社会を目指す心は誰にも負けないと自分に言い聞かせる。

週末でも、国民は何を求めているのかを見るために常に外でリサーチしていた。


そんな僕には、昔から趣味はない。あえて趣味と言えば仕事になる。

仕事以外では自分に自信を持てず、私生活では、彼女を持つことができなかった。

そんな僕が、今日は、新婦が高校の時の同級生だったので結婚式にでていた。

もしかしたら誰かとの出会いを求めていたのかもしれない。


彼女が亡くなったとニュースで知り、ショックを受けた。

でも、不謹慎だが、一緒に外に出た女性の姿が忘れられない。

すらっとしたスタイルで、胸は大きいが、清楚で嫌らしさはない。

長い髪の毛を陽の光が照らし、妖精が目の前にいるのかと思ったぐらいだった。


目が大きいことにも惹かれた。つぶらな瞳というものだろうか。

見ているだけで、吸い込まれそうだった。

ミステリアスだけど暖かい顔で、一目惚れって、こういうことを言うのかもしれない。


僕は、政府の秘密事項に関わることが多いので、付き合う女性にも気を使う。

ハニートラップの可能性もあり、なかなか相手のことは信用できない。

ただ、あの女性は、単なる偶然で教会で会っただけだから、そんな心配はいらない。


その後、その女性から連絡があり、心が踊った。

表参道のイタリアンレストランで会うことにした。


レストランは一軒家で、白い壁に黒いガラスのドアがあり、インテリアのセンスがいい。

店内は、大理石の床にエレガントな白いテーブルと椅子で統一され、気品が溢れていた。

客層も一流店に相応しい人が何組かいて、優雅な空気が流れる。


先に来て待っていると、彼女が少し照れながら、手を振って入ってくる。

白いワンピース姿は清楚な雰囲気を醸し出している。

最近は暑い毎日だけど、彼女からは、いい香りの涼しい風が吹いてくるような気がした。


彼女は弾むような足取りで僕のテーブルに駆け寄る。

肩にかけていたミニバッグを椅子にかけ、僕の前に座る。

走ってきたのだろうか、少し息が乱れていた。

いや、僕と初めて食事するので緊張しているのかもしれない。


「今日は、来てくれてありがとう。こんな素敵な人と一緒に過ごせるなんて、本当に嬉しいです。」

「褒めすぎですって。お名前はなんていうんですか? 私は、小川 紬です。」


紬と話すその声は、落ち着きがあり、気品がある。

僕は、柔らかそうな唇に目を奪われていた。

見つめられているのが恥ずかしいのか、手で口を覆い、静かに微笑む。


「僕は、佐々木 一郎です。何を頼みましょうか。まず、飲み物で、シャンパンでいいですか?」

「ええ、美味しそうですね。」


はにかむ目の前の女性は、先日会ったときと変わらない。

やっぱり、期待していたとおりだった。

僕は、微笑みながら、店員にシャンパンをオーダーする。


「突然でびっくりされると思うんですけど、僕、小川さんに一目惚れなんです。」

「え、積極的ですね。まずは友達からということで。」


私は、一郎さんと名乗る男性の目を真っすぐ見つめ、驚いたように長い髪をかき上げる。

メイクも、大抵の男性が好むというものを学び、身に着けている。

これが私の仕事だもの。


私は、醜い女。いつの間にか超能力を身につけてしまった化け物。

手で人に触れると、相手が何を考えているかが分かる。

私に気がある男性の気持ちを利用して、情報を盗む犯罪者。


私自身は、この能力があって良かったなんて思ったことはない。

手に触れた人は、みんな、どす黒いことを考えていた。

私を犯してやろうかとか、あいつを騙して金を奪い取ってやるとか。

過去に何度も包丁で人を殺していながら、捕まらず、普通に暮らしている人もいた。


でも、人のことは言えない。

私だって、醜い化け物。みんなと一緒に暮らす権利なんてない。

だって、自分の考えていることが分かる人と一緒に暮らしたくないでしょう。


どうして、こんな醜い力を得てしまったのだろう。

どんなにメイクで清楚に繕っても、醜いことは自分が一番知っている。

むしろ、醜いからこそ、バレないようにメイクでごまかす。

そんな自分が大嫌い。


そんな時、凛が暖かい声をかけてくれて、超能力者は私1人ではないことを知る。

凛が、お互いに支え合うために組織を作っていると聞いて、超能力者のグループに入った。

そして、時間とともに凛を尊敬し、なんでも言うことを聞いてしまう自分がいた。

結局、いつも、自分に自信がなく、人に頼ることしかできない。


凛の指示は犯罪行為でもある。

そんな指示に従っていいのか心に葛藤はあった。

でも、この組織を抜ければ、また私は一人となってしまうという不安に負けたの。


今朝、凛から内閣府の情報を盗むために、教会にいくようにと指示を受ける。

でも、その人は政府の人だから、きっと悪い人で、情報を盗んでもおあいこ。

さっさと仕事を済ましてしまおうと思い、教会で、その男性の近くに座る。


見た目は悪そうな人には見えない。爽やかな、ハツラツとした笑顔が似合う男性。

でも、政府の人なんて結局はみんな同じ悪人。

そんなことを考えているとき、教会で爆破事件が起きた。


爆破は想定外だったけど、内閣府の人の目をみて、私に声をかけるように促す。

そして、バージンロードで佇んでいると、期待どおり彼が声をかけてくれた。

彼は、私の手を握って、外に避難させてくれる。


初めてだった。悪どいことなんて考えていない政府の人がいるなんて。

また、自分に自信もないからか、常に謙虚で、真っすぐ前を見ている。

なんの曇りもなく、本気で私を助けようとだけ考えて手を握る男性が目の前にいた。


誰かを貶めたいとか、足をひっぱるという気持ちは全く感じられない。

必ず明るい将来があると思って仕事に打ち込んでいて、輝いて見えた。

しかも、こんなに醜い私に好意を持ってくれている。


凛の指示で、彼にお礼をしたいとメッセージを送った。

5分も経たないうちに、彼から会いたいとの返事が返ってくる。

彼と会い、おしぼりを間違えるふりをして彼の手に触れて情報を盗んだ。


盗んだ情報は2つ。

記者である新郎のことは全く知らなかった。

次は、次期の内閣官房参与は日瑞自動車会長に決まったということだった。


超能力者でもない新郎のことを調べる理由はわからないけど、私には関係がない。

日瑞自動車会長は、超能力者は抹殺すべきと発言していて、要注意人物だった。

そして、一郎は超能力者については何も知らない。


その情報を組織に送り、私の仕事は終わった。

ただ、一郎への気持ちが抑えられずに、私は、彼との関係を続けていた。

こんなに醜い私には、一郎と付き合う資格はないのに、自分の気持ちを止められない。


組織からは超能力を持たない人と親密になることは禁止されている。

最近、政府の攻撃が強まっているのは、身内から情報が漏れているのが原因だと考えて。

組織の副リーダーである河田さんからは、禁止ですと突き刺すような目で念を押された。


超能力者として抹殺される恐怖はあったから組織から出る勇気はない。

でも、それ以上に、輝いている一郎と一緒にいると、安心に包まれる自分がいた。

一郎の胸の中で、汚れた私も、少し清らかになれた気がした。


男性に心を許せば、情が移り、自分の身も危ないことぐらい分かっている。

でも、一郎は、私から情報を得るために近づいてきたわけではない。

清らかな心を持ってる一郎のことは忘れられなかった。


超能力者の組織では、命令に背くと殺されると噂されていた。

でも、凛はそんなことをする人じゃない。

いつも、笑顔で包み込んでくれる、優しい人だもの。


もしかしたら、組織の中にも強硬派がいるのかもしれない。

でも、凛なら、私の幸せを第一に考え、強硬派を鎮めてくれると思う。


ただ、組織が、一郎と別れるように、いくつも手を打っていたことを私は知らなかった。

一郎からひどい言葉を私に放つ能力を持つ人を派遣したりして。

でも、一郎は、そんな能力では揺るがない強固な意思を持っていた。


私がいつ確認しても、一郎の私への愛情には一点の曇りもない。

だから、安心しきっていたのかもしれない。

私は、尾行された経験もなく、常に見張られていることに気づかなかった。


今日は、一郎の車でドライブに誘われて、箱根の温泉に来ていた。

冬の箱根は、木々の枝には葉はなく、寒々しい風景。

でも、一郎と一緒にいられる時間が楽しくて、とても暖かい風景にしか見えない。


道路には、昨日、降った雪が積もっていて、光を浴びてキラキラと輝いている。

このまま、汚いものを隠しておいてね。私が化け物ということも。

少しだけでいいから、幸せな時間を消さないで。


ホテルに着いた頃には、また雪が降り始めた。

車から降りると寒い。はく息は、真っ白になる。

一郎は、私の手を取り、自分のコートのポケットに入れてくれる。


私は、雪がわずかについたコートに頭を重ね、一郎を笑顔で見上げる。

一郎とだと、手に触れることに何の不安もなく、暖かい気持ちになれる。

人の温もりは、本当に暖かいと初めて思えた。


予約したスイートの部屋に入るとバルコニーに温泉があった。

温泉につかりながら、一郎と二人だけの時間を過ごせる。

一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいけど、この時間は1分でも大切にしたい。


「雪が降ってきてきれいね。」

「ああ。やっぱり温泉というと雪だね。」

「こんな静かな風景の中で一郎と2人で過ごせるなんて、本当に幸せ。私、昔から、あまり周りの人に馴染めなくて1人で孤独な時間が長かったから、こんな幸せの時間が来るなんて思ってもいなかった。」

「僕もだ。会ったときから紬のことで頭がいっぱいだった。どうか、僕と結婚してもらいたい。」

「本当! 嬉しい。こういう日を待っていたの。ありがとう。」


一郎と結婚し、子供を作り、暖かい家庭の映像が浮かぶ。

お庭で子供が暖かい陽を浴びて遊び回り、それを一郎が笑顔で見守っている。

私が、お昼ご飯を作り、そろそろお昼にするわねなんて声をかけている。


私は、外の雪景色を見ながら、一郎の肩に顔を傾けた。

一郎は、私を優しく抱きしめ、唇を重ねてくれる。

そして、暖かい布団のなかで、一郎の腕に包まれ、心穏やかに眠りについた。


翌朝、障子から朝日が溢れ、目が覚めると、横で一郎が笑顔で見守ってくれていた。

これからも、ずっと、一郎が横にいて朝を迎える日が続いて欲しい。

凛なら、一郎と一緒に暮らすことを、笑顔で許してくれるはず。


雪はやみ、地面の雪が陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

私達の輝かしい未来を称えるような、清々しい朝だった。


浴衣姿で朝食を取り、荷物をまとめ、一郎の車で帰りの道を走る。

でも、坂を下る時に、突然、ブレーキが効かないと一郎が言い始めた。

気づいたときにはもう遅かった。私達の車は山の壁に激突し、炎に包まれる。

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