3話 爆破
いきなり強い熱風を受け、椅子の背もたれに叩きつけられた。
砂埃が目の前を舞い、耳の中で金属音のような音が鳴り響き、よく聞こえない。
教会で陽葵の結婚式にでてた私には、突然のことで状況が整理できない。
新婦入場の後、神父が立つ床の辺りから眩い光が飛び散った映像が蘇ってくる。
私は、後列の席に座っていたおかげで、大きな怪我はない。
私はコルト国によって超能力を身に着け、前列座っていても怪我することはなかった。
ただ、傷が瞬く間に治る所を見られれば超能力者として殺害ターゲットになる。
そんな様子を見られることがないよう日頃から細心の注意を払っている。
砂埃が薄まると、床に倒れ、真っ黒なウェディングドレスを着た陽葵が見えてきた。
陽葵の目は天を見上げ、まばたき一つしない。頭から流れる血が床を染める。
新郎の頭には、大きなコンクリートが落ち、2人とも生きているようには見えない。
神父の後ろで素敵に光を放っていたステンドグラスのガラスが床に散乱している。
壁も崩れ、後ろのビル群が見える。奥の天井も床に落ち、雲ひとつない青空がのぞく。
青空の中を、鳩が飛び立っていった。
外に茂る木々は、新緑の葉が生き生きと成長していて、生命力が溢れる。
一方、本来は白いはずの壁は崩れ、灰色のコンクリートがむき出しになっている。
非常にアンバランスな光景だった。
陽葵は、超能力者として日本で初めて出会った仲間。
超能力は人によって異なり、陽葵は、時間を移動できる超能力を持っていた。
いきなりの爆破で、超能力を使い、別に時間に移動する余裕はなかったのだと思う。
私は、脳を支配している人を操って戸籍を作り、鷺宮 凛として日本で暮らしている。
ギスタンでの本名がリンだったから、凛という名前にした。
子供の頃と違い、日本国籍を有しているからか、誰も私のことを外国人だと疑わない。
やっと、1つの国民の輪に入れた気持ちになれ、穏やかな日々を過ごしていた。
最初は、医療機関で働き、大勢の人に偽って血液にロボットを注入していた。
脳を支配できる人、超能力者を生み出すために。
ロボットを入れたと伝えていないから、本人は、どうして超能力者になったのか知らない。
ある日、突然、何かの超能力が使えるようになったと気付き、驚く。
そして、多くは、誰にも言えない能力に、自分は異常だと孤独に苛まされていた。
超能力者は、会えば相互に超能力者だと感じるものの、今は少人数すぎて会う機会はない。
現在の日本には、脳を支配している人が約1,000人、超能力者が約50人いる。
私は、超能力者になった人達に、密かに近づく。
そして、超能力者には、外国では超能力者が迫害されているという情報を流布した。
しかも、先手を打たないと迫害されると不安を煽り、密かに組織化を図ってきた。
本当はそんなことをしたくないのに、家族のことで脅され、心が屈折していく。
ただ、孤独に悩んでいた超能力者は、多くの仲間がいたことに喜んでいた。
また、自らの身を守るために、組織の一員として活動したいと自ら手をあげる。
現在は、1,000人を操り、日本の支配に動いていた。
それは、国の枠を超え、超能力者という種族が世界を支配する仕組みに移行すること。
そうしないと、超能力者の命が危ういので、自分を守るための行動。
超能力者は、誰もが死という恐怖を乗り越えるために、どんな指示でも身を投じた。
一方で、私は死ぬことがなく、その能力を皆に伝えてはいない。
それを言うことで、皆とは立場が違い、仲間として見てくれなくなるおそれがあるから。
全世界の超能力組織から日本のリーダーに指名されたとだけ伝える。
なにか、とてつもない能力があるらしいと神格化され、尊敬を受けていた。
信念もなく、優柔不断な私が日本のリーダーになるのがいいのかと悩むことがある。
でも、家族を人質にされている私には選択肢はない。
優秀な参謀を横において、その人達を通じて組織を束ねていくしかない。
河田さんという参謀を得て、次のステップに移行する。
テロを起こし、政府に自分達をトップに据えろと政府に要求を突き付けた。
政府はテロに屈することはできないと、暗殺する超能力者の特定を進めていく。
目の前で起きた事件も、その一つに違いない。
お互いに、相手の全貌を特定できずに、交戦状態がエスカレートしていた。
陽葵は、少し派手に活動しすぎたんだと思う。
そんなことを考えて立ちつくしていたら、ふと、肩をたたかれて我に返った。
ランニングウェアを着た、背が高い女性が私のことを心配そうに見つめている。
汗が額から滴り、手で汗をぬぐっていた。
「ねえ、大丈夫?」
「少し痛いところもあるけど、目立った怪我もないみたい。大丈夫。ありがとう。」
「まずは、外に出ましょう。」
前列に座っていた人達は、ほとんどが床に倒れて全く動かない。
後列に座っていた人達で自力で歩ける人は外に出て、救急車を待っていた。
「何が起こったのかしら?」
「よくわからないけど、爆弾が爆発したみたいね。テロとかじゃないかしら。そういえば、最近、テロと言われる爆発事件がいくつも発生しているし。」
超能力者の結婚ということで、超能力者が多く出席していた。しかも前列に多く。
政府は、超能力者でない人の犠牲も覚悟で、この結婚式を狙ったに違いない。
「あなたは新婦の友達?」
「ええ。」
「新婦はかわいそうね。でも、あなたは怪我とかなさそうで、本当によかったわ。」
「あなたは、怪我してないようだけど、結婚式に参列してたの? でも、服装は結婚式っていう感じじゃないけど。」
「偶然、近くをランニングして通りかかっただけなの。でも、爆発の音が聞こえて、なにが起きたのか見にきたんだけど、とんでもないことが起きていて。」
ただ通りかかった人が危険な爆破現場に入ることは不自然。
いかにも怪しい。政府の手先に違いない。
でも、暖かく私を見守る表情からは、ただの親切心で声をかけたようにしか見えない。
「怪我はなくても、念の為、病院に行って、診てもらったほうがいいわよ。一緒にいきましょう。」
病院で、私の血液等を採取し、超能力者かを検査するつもりなのかもしれない。
目の奥に潜む本意を覗きこもうとするけど、よく分からない。
「いえ、怪我はなさそうだし、大丈夫。もっと、深刻な人がいそうだから。」
「そこまで言うならいいけど。でも、なにかの縁だから、服も切れたりしているし、ご自宅まで、近くに停めている私の車で送っていくわよ。」
「そこまでしてもらうのは悪いわわ。タクシーで帰る。今日は、どうも、ありがとう。」
ランニングをしているのに、車が近くにある?
車でここに来て、そこからランニングをすることもないとは言えないけど違和感はある。
疑うような目つきを送っている自分に気付き、言葉少なく彼女とは別れることにした。
翌週の土曜日、私が住む月島の駅前で後ろから声をかけられる。
振り返ると教会で出会った女性がいた。
東京は広いのに、月島で会うなんて偶然があるはずがない。
やはり、私のことを疑って、後をつけているに違いない。
私は、警戒する目で彼女を見つめていた。
「あれ、この前の人じゃない。無事のようで、良かったわ。」
「あのときは親切にしてくれて、ありがとう。ところで、月島で会うなんて偶然ね。月島に住んでるの?」
「いえ、月島に友達がいて、友達の家から帰ってきたところ。ところで、この辺って、初めて来たんだけど、もんじゃとかお好み焼きとかのお店が多いんだね。もんじゃって食べたことないし、お店に入ろうと思ってたんだけど、1人だと勇気がでなくて。付き合って欲しいな。土曜日の夕方に1人で野菜とか買い物しているみたいだし、時間あるでしょう。」
私は、しばらく黙って、その女性を見つめていた。
「そんなに警戒しないでよ。女性どうしだし、襲ったりなんてしないからさ。今更だけど、私は今川 琴音。琴音って呼んで。」
断り続けて疑いを残すより、この場で超能力者だという疑念を払拭しておく方がいい。
「分かったわ。今日はご一緒させていただくわ。私は、鷺ノ宮 凛。凛と呼んで。」
「凛さんね。よろしく。」
月島駅前の通りに立ち並ぶもんじゃのお店に2人で入る。
土曜日のもんじゃ店は、この辺に住む家族連れで賑わっていた。
明るいテーブルと丸い椅子が並び明るいけど、机の上は油でまみれている。
軽く、安く、もんじゃを食べるお店なのだと思う。
マスター1人でお店を回し、忙しくしている。
もんじゃは子供の頃、日本で時々作っていたから、普通の日本人のふりができていい。
具材を鉄板の上に広げ、もんじゃを作るだけで間が持つのは良かった。
琴音は、小さなへらで不思議な物を見るようにすくい上げ食べる。
初めてのもんじゃに、意外と美味しいと驚いて、目を丸くしていた。
私は、飲みながら、職場の愚痴を話し続け、つまらない普通の女性を演じる。
陽葵の悪口も言い、結婚式も義理出席で、陽葵との仲はあまりよくなかったと伝えた。
琴音は、そんな私を微笑みながら、ずっと暖かく聞いている。
琴音は、自分のことをほとんど話さないので警戒心は解けなかった。
でも、明日には私の話しなんて覚えていないぐらい酔っ払って、ろれつも回っていない。
1時間ぐらいで別れ、大声で笑いながら千鳥足で帰る琴音を見送った。
私と別れた琴音は、地下鉄に乗ると1つの錠剤を飲み、冷静な顔に戻る。
行き先は国会議事堂前駅で、調査報告をするため、内閣府に向かって進む。
土曜の夜でも、内閣府があるビルでは職員が働き、煌々と光が窓から漏れる。
官房長官の部屋に入ろうと厳かなドアを開けると、厳しい目が向けられた。
重厚なデスクに座っていた官房長官は、ソファーに移動し、琴音に座れと手を出す。
「あの爆破事件で脳内にロボットがいるとして超能力者と特定できた15名は殺せたが、生き残った人の中で超能力者はもういないのか。」
「生き残った人達は、いずれも超能力者ではないと考えています。いずれも、そんな素振りは一切見えません。どこにでもいる普通の人達です。」
「情に流されるなよ。もし、怪しい動きがあれば、その人は、すぐに殺すからな。」
「はい、わかりました。」
私の周りでも、不穏な空気が流れ出していく。




