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最終決戦  作者: 一宮 沙耶
第5章 最終決戦

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4話 潜入

最近、平和な日々が続いている。市場を歩くと、笑い声に溢れていた。

全て失ってしまった人間は強い。でも、それは、つかぬ間の仮の姿。

いつ攻撃を受けるかわからない中、軍隊の増強も図った。


その中で、河田は凛がいる伊東に逃げたという情報が入ってくる。

きっと、私達を抹殺するために体制を立て直しているに違いない。

早く抹殺しないと、また、東京のように殲滅されてしまう。


まずは、復旧が無理なぐらい破壊された甲府の基地を再構築しなければならない。

批判もあったけど、本拠地を韮崎に移し、敵の施設を再利用することにした。

韮崎には、戦闘機、戦車を格納する設備や、兵士養成ができる教練所等もあったから。


ただ、明確な攻撃ポイントを作らないように軍隊は分散した。

軍人は、自宅から軍に参画するから、どこか1点を攻撃しても意味がない。

全体でも個人でも強い、しなやかな組織を作ることにした。


また、地下防空壕を地下道で結び、地下道も整備した。

地下防空壕に逃げ込めば、軍隊との連絡ができる。

でも、このために1年の時間を要した。


どうしたわけか、河田からの攻撃は現時点でない。

河田も、組織の再構築に時間を要しているのだと思う。

まずは、時間稼ぎができた。


その頃、河田は、凛と次の作戦を練っていた。


「皆さん、今日は集まってもらって、ありがとう。御覧のとおり、甲府での戦争で超能力者はここにいる4人だけになってしまった。私と、日本の副リーダーの河田さん、そして公安部長殺害を成し遂げた、佐々木 隆一さんと柏木 結愛さん。先鋭の4人だから、まだまだ反撃するには十分。」


凛は、うな垂れる3人を元気づけようと明るく振る舞う。

ついこの前まで勝つと活気が溢れていた凛の部屋は、暗がりに包まれている。

3人の手は汗ばみ、暗い未来しかないという表情をしていた。


「元気を出しましょう。超能力者は、これだけになってしまったけど、私達の言うことに従う人間は、まだ日本に20万人いて、この伊東にも5,000人もいるんだから大丈夫。河田さん、敵の拠点について意見を聞かせて。」


韮崎での敗戦は自分のせいだと真っ青な河田の肩を後ろから凛が小突く。

はっとしたように、いつもの様子に戻り、話し始める。


「敵の甲府拠点は地下拠点を含めて壊滅状態なので、甲府を拠点に再度、軍事基地を再構築するのは難しいと考えます。さらに、その他の拠点、例えば、塩山や、大月で軍事拠点を一から立ち上げるのも大変です。そのことを考えると、我々が構築して、撤退した韮崎の拠点をベースに軍隊を再構築するのが一番簡単で、現実的かと思います。韮崎の基地には、倉庫に、戦闘機や戦車も残してきましたし。」

「河田さん、冷静な分析、ありがとう。私も、そう思う。まず、佐々木さんと柏木さんが韮崎に行って、実情を調べてもらいましょう。特に、柏木さんには、透明になってもらって、敵のリーダー会議に潜み、敵の作戦を盗み聞きしてもらう。よろしくね。」

「はい。高田さんの仇を打ちます。」


柏木さんは、高田さんの死を思い出したのか、意気込みが目に溢れる。

その様子をみて、他の2人の心にも炎が灯った。


「ありがとう。敵も、我々が韮崎に目を付けることぐらい想定していると思うし、何を考えているのかについて情報を集めて。それで、韮崎にいたとして、どうしようかしら。」

「おそらく、前回の戦争での失敗を反省し、一か所に兵士を集めず、兵士も一般の住民のように暮らし、分散していると思います。」

「なるほど。それで。」


冷静沈着な河田さんに戻っていることはいいこと。


「まず、敵の軍隊の人数、兵器の状況は調べるとして、相手の兵を一か所に集める機会をこちらから作り、その時に一気にミサイルで叩くのです。こちらから、攻撃すると情報を流せば、対抗するために兵を一か所に集結させるでしょう。その時が、今残っている大型ミサイル2機を全て投入して、一気に滅ぼせる絶好の機会となります。」

「敵は、兵を一か所に集結すれば、ミサイルで一撃されると思い、そんなことしないんじゃないかしら。」

「そうですね。だからこそ、こちらにはミサイルはもうないと偽情報を流すのです。逆に、敵も大型ミサイルはないはずですから、敵が軍備を増強する前に叩くのがいいと思います。その意味でも、柏木さんに早々に実態調査をお願いしたい。」

「分かったわ。では、佐々木さんと柏木さん、夫婦ということで韮崎に潜入してもらっていいかしら。基本は身を隠し、目障りな敵は、ひそかに佐々木さんに殺してもらう。」

「わかりました。」


翌日から佐々木と柏木は韮崎に向かい、3日後には住み始めた。

空気感染で多くの人が亡くなり、日本各地には空き家が溢れている。

だから、そんな家に突然住み始めることも不思議ではなくなっていた。


道路に沿って平屋の一軒家が並ぶ。

昔は、ここに住む人達は農業をして暮らしていたように見える。

人間関係は密で、そんなに派手なことはできない。

でも、一旦、この生活の輪に入ってしまえば、隠れ蓑としては都合がいい。


お隣の家の玄関を叩く。

70歳を超えているように見えるおばあさんが出てきた。

お昼ご飯の用意をしていたようで、これから旦那さんが畑から戻ってくるのかもしれない。


「はじめまして。横に引っ越してきた佐々木です。こちらが妻です。」

「どちらから来たの?」

「昔は横浜に住んでまして、ちょうどミサイルが落とされたときに旅行していたので助かりました。でも、自宅は跡形もなくなっていて、それから放浪の旅だったんです。この辺は、落ち着いていそうですし、定着したいと思っています。」

「それは大変だったね。この町内会長に相談して仕事を紹介してもらいなさい。この道路をまっすぐ行ったところの突き当たりの角の家の水島さんという方だから。」

「親切にありがとうございます。では、これからも、よろしくお願いいたします。」


まずは信用してもらえたみたい。

目立たず、でも情報収集をしっかりやる。これが今回の私達の任務。


私は、できるだけ今井に近づけるように仕事選びをした。

ただ、透明人間として、会議に入り込むために、近すぎてもいけない。

今井の秘書とかだと、透明人間になっている時に、不在だと疑われる危険もある。


2週間かけて情報を集めると、今井の作戦本部は山の麓にある大きな美術館だと分かった。

そこで、そのすぐそばにある陶器専門店で働くことにした。

お客は少なく自由な時間は多く、美術館の前で出入りする人もよく見える。

アルバイト料はあまり出せないけどという店主に、それでいいと言うと雇ってもらえた。

アルバイト料が少ないことは、時々、透明人間になって抜け出す言い訳にもなる。


窓から、今井、その他の軍事関係の幹部が通るのを監視する。

そのうちに、毎日、15時から1時間、作戦会議が開かれていることを突き止めた。

やっと期待に応えられると思ったとき、これまでの苦労を思い出していた。


私は、高校を出るまで私よりも優秀な人はいないと思っていた。

高校でも学年トップで、学校の先生もいつも私の見方をしてくれた。

日本トップの大学に入り、私の目に飛び込んできた素敵な男性がいた。


私なら、優秀だし、性格もいいし、それなりの容姿だし、彼女になれるはず。

何の疑いもせずに、彼を誘った。でも、その返事は想像もしていないものだった。

地味で、どこにでもいる女性には興味ないと。


冷静になり、周りを見渡すと、私以上に優秀な人はどこにでもいた。

日本でトップの大学なんだから当然のことだった。

しかも、私のように秀才ではなく、何も学ばなくても理解してしまう天才ばかり。


アイドル界で活躍する美人も数は少ないけどそれなりにいた。

ごく普通の女性の一人にすぎないと悟った私は、これまでの自分が恥ずかしかった。

ただ、誤解して浮かれていただけ。

それから、自信をなくし、陰でひっそりと過ごす自分がいた。


それと関係があるのかしら。ある時、透明になっている自分に気づく。

そして、透明になり、周りの人に近づくけど、誰も私の話題なんてしていない。

名前すら憶えられていなかった。


でも、一方で、誰も見ていないところで、悪いことをしている人もたくさんいた。

付き合っている人に黙って浮気をするとか。

人を脅迫して、思い通りにさせるとか。

その中で、私は、人間の心はそんなに単純じゃないことを知った。


私は、そんな悪どい人にはなりたくなくて、せめて誰かの役に立ちたかった。

凛と出会い、自分が存在する意義を知った。

敵の情報を得て、同志を守れる自分が初めて誇らしく思えた。


今日、14時半に美術館の裏から侵入する。

いつも、この瞬間が一番緊張する。部屋に入れば、黙っていればいい。

でも、入るときはどうしても自動ドアや扉を開かざるを得ない。


ホテルとかではお客として入ることもできるけど、こんな対策本部はそうはいかない。

誰も見ていないことを確認し、裏のドアを開ける。

ドアの鍵を閉めないという敵の不用心はラッキーだった。


私は、施設に張り子込み、早めに来ている軍部の幹部がいる部屋に行く。

ミーティングをする部屋を特定するのは、それほど難しくなかった。

壁によりかかり、様子を見ることにする。



開始予定の15時の5分前には、写真で確認していた今井が現れる。

こいつが今井なんだ。高田さんを殺害する指示を出した憎いやつ。

偉そうに周りを睨みつけていて、人間としても卑劣な人なんだと思う。


今井が、口火を切り、会議が始まった。


「我々の調査結果により、敵は伊東に結集し、我々を殲滅しようと準備をしていることがわかっている。敵が我々を攻撃するのが9月1日。敵は8月20日に、伊東から熱海・三島を経て、御殿場方面と南部町方面の2手に分かれ、私達を挟み撃ちにする計画だ。」

「敵は、ミサイルで我々を集中攻撃することはないのでしょうか?」

「先の戦争で、我々と同じように、敵はミサイルを使い果たしたから、そのようなことはない。」

「それで、敵をどう攻めるの?」

「敵が8月20日に伊東に軍隊を集めているときに南北から挟み撃ちにする。まだ襲ってこないと油断している時に攻めれば、混乱し、内部から崩壊していくに違いない。」

「超能力者に脳を支配されただけの人を殺害したくはないけど、やむを得ないわね。分かったわ。では、そのために、いつ、ここを出発すればいいの。」

「8月10日に韮崎にこちらの兵を全て集め、伊東に出発しましょう。」


やっと、今井を滅ぼす情報を手に入れることができた。

私は、あせらず、会議メンバーとともに対策本部がある美術館を退出する。

近くの公園のトイレに入り、体を元に戻し、何もなかったようにトイレを出る。


公園では、子供達が、こんな戦時中なのに、穏やかに遊んでいた。

噴水の池に入り込み、水かけをして、みんなで大笑いをしている。

水飛沫が太陽の光を浴びて虹を作り出し、宝石のように輝く。


私にも、いずれ、こんなにかわいい子供ができるのかしら。

可愛らしい息子と手を繋ぎ、買い物に出かける姿が目に浮かぶ。

夫が息子を肩車をし、高いと息子が喜ぶ。


最近は、佐々木さんと一緒に暮らし、結婚した私も想像できる。

夫と暮らす穏やかな生活。そんな日々が来て欲しい。

誰もが手に入れている幸せでしょう。私が手に入れても許されるでしょう。


でも、目の前で撃たれた高田さんのことを思い出し、心を鬼にして進むことを再度誓う。

家に帰り、凛のもとに情報を送る。


これで、あの公園で遊んでいた子供達も、韮崎にいるみんなは灰になる。

公園の先できのこ雲があがり、爆風が押し寄せ、子供達の体が焼け落ちる姿が見えた。

肉が焼け落ち、ドクロだけになって飛ばされ、壁にぶつかり粉々になる。


ごめんね。こんな世の中に生まれてきてしまったことが不幸だったの。

私のせいじゃない。

超能力者に生まれ変わり、もっと豊かに一緒に暮らしましょう。


その頃は、みんなが超能力者で、それぞれが才能を発揮する。

その力で、これまでの科学よりも加速的に、私達の生活は豊かになっているはず。

笑顔で溢れる生活が訪れているはず。


そこに行くためにも、今井とその軍隊を滅ぼさなければならない。

今井が、慌てふためき、火に包まれ苦しみながら死んでいく映像が見えた。

これで、高田さんの仇も撃てる。

まだ、最後まで油断できないから直前まで韮崎にいて、直前で伊東に戻ればいい。


窓からは、暑くて熱気と湿気で空気が揺れる。

その様子が、今井が苦しむ姿と重なり、笑みが漏れる。

佐々木さんと、まだ早いけどと言いながら祝杯を上げた。

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