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最終決戦  作者: 一宮 沙耶
第5章 最終決戦

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1話 脱出

「さあ、今井さん、逃げましょう。」


月明りが窓から漏れる拘置所で、見たことがない女性が、寝ていた私の手を引っ張る。

25歳ぐらいで、ショートボブヘアに、Tシャツ姿の小柄の女性が私を見つめている。

表情に余裕はなく、眉はつり上がり、息は荒く、手は震えていた。


この部屋で、いつも1人で過ごす私には、突然のことすぎて何が起きたのか分からない。

知らない女性が、拘置所から私を逃がそうとしてる。

脱獄するところを射殺する敵の罠?


そんな感じはしない。その女性の顔には逃げ切らなければという必死さが滲む。

若く、愛らしい顔からは、こんな大胆なことをする人には思えない。

そんな姿で、拘置所からの脱出を誘導していることに思考が追いついていかない。


女性の後ろに目を向けると、部屋のドアは開いていた。

ドアの鍵を持っているのだと思う。

外に出ろと言わんばかりのピリピリした風が廊下から部屋に流れ込む。


煌々と光る電灯に照らされた廊下にでると、その女性は走り始めた。

この廊下では、いつも縛られている手が自由なのは違和感を感じる。

その女性を追い、私も全速力で走った。


息を切らせながら、私はその女性に話しかける。


「どういうのことなの?」

「最近、警察が超能力者に乗っ取られて、あなたは、超能力者の組織が暗殺した総理の犯人として濡れ衣を着せられた。」

「最近、足しげく私の所に来て超能力者について話していた弁護士の話しは、本当だったの?」

「詳しくは後で話しますから、まずは逃げましょう。」


警備員の配置を知っているのか、誰とも会わずに進めた。

1階に降りると、トイレに誘導され、紙袋を渡される。

そこには普段着が入っていた。


もう1年も、こんな服を着たことはない。

柔らかい綿の袖に手を通し、タイトなスカートを身にまとう。


いかにも2人の女性刑務官のように出口をゆっくりと出ていった。

私を誘導した女性は、入口の警備に笑顔で手を振り、警備の人は敬礼をする。

出口の前の道路にはタクシーが待っている。


私は、言われるまま車の後部座席に乗った。

行き先はタクシーアプリで既に指定されているのだと思う。

車はすぐに動き始める。


どこに連れていかれるのだろう?

右手に荒川が見え、菖蒲園を右に曲がると日本橋が見えてきた。


余罪があると何回も言われ、拘留されてから1年が経っていた。

でも、周りに見えるビル群の姿は全く変わっていない。

それはそう。私にとっては長い時間でも、たった1年しか経っていないから。


霞が関を通り、昔の官僚の頃の大変だった頃の記憶が蘇る。

目の前に首相官邸が現れ、車が止まった。

車を降りると、暫定で総理を務める副総理がほっとした顔で私を迎え入れてくれた。


「副総理、お久しぶりです。どうして、私はここに連れてこられたんですか。しかも、拘置所から脱出させるなんて副総理のすることじゃない。」


副総理は、私が建設省にいた時の部長で私をよく知っている。

佐藤総理と違い、人に対する配慮がきめ細やかで、その分、出世は遅れていた。

副総理は、これまで起きたことを話し始める。


日本だけでなく、全世界に超能力者がいること。

超能力者は、世界を支配しようとテロ行為を起こし、現政権を脅迫していること。

佐藤総理も超能力者に殺され、私は濡れ衣を着せられたこと。

そして、直近で、多くの要人が暗殺されたこと。


「今井さんは防衛相にも顔がきく。今後、超能力者とは戦争になるかもしれない。だから防衛大臣と連携して日本を守ってもらいたい。」

「そんな大役を言われても、官僚を離れてだいぶ時間も経っていますし。」

「今井さんは、官僚だった時にとても優秀で、民間企業での経験も積んで、更に活躍できる幅が広がったと聞いている。君しかいないんだ。お願いする。」

「でも、超能力者とはどう戦えばいいんですか?」


多くのしわが刻まれた副大臣は笑みをこぼす。

薄くなった髪の毛は、これまでの苦労とこれからの苦悩を象徴しているよう。

本当は、日本は、このような苦労人に支えられてきたと思う。


「今井さんは、坂上さんを知っていると聞いたぞ。」

「坂上さんって、どの坂上さんですか?」

「今井さんがいた建設会社の営業部長だった坂上さんだ。」

「ええ、知っていますが、その坂上さんがなんなんですか?」

「坂上さんは超能力者になる過程を研究していて、多くのことを明らかにした。そこで、坂上さんと一緒に仕事をしていたのが、ここにいる本間さんだ。」

「あの坂上さんが、超能力者の研究を? とても意外です。それにしても、本間さん、今日はありがとう。」

「いいえ、副総理のたってのお願いだったので。しかも、私も超能力者に狙われているようで、副総理に守ってもらっているから、そのお返しです。」


総理の車は昆虫型のロボットに爆破されたと副総理は話しを続ける。

しかも、総理と一緒に飲んだ河田が総理殺害に関与しているらしい。

そんなことがあり得るのかと頭が混乱する。


たしかに、あの夜の河田の目は闇に包まれていた。

普通に暮らしている人が見せる目ではない。

あの時に、総理を殺し、人類を支配しようと考えていたと思うと再び寒気が襲う。


バカな様子にすっかり騙されていたけど、逆に、それだけ手ごわい敵なのだと思う。

今から思うと、あの宴席に、この闘いのメインキャストは偶然にも揃っていた。

しかも、坂上さんの助手が私を拘置所から連れ出した本間さんだというのも奇遇。


「超能力者は、血液中に入ったロボットが線虫に成長し、脳内に入ることで能力を得る。その線虫を研究していたが、高熱も冷凍も殺す効果はなかった。だが、一定の波長のビームを当てると、線虫は死滅することが分かった。これが相手の欠点だ。もちろん、多くの超能力者は、人間の体だから、銃撃をすれば殺せる。この2つの方法で我々を守ってもらいたい。」

「でも、防衛大臣と私だけでは・・・。」

「自衛隊の兵士は今井さんの部下になる。また、超能力者の詳細は、本間さんに聞いてくれ。多くの優秀な人が政府を応援してくれているから大丈夫。」


私は、総理官邸に入り、本間さんからこれまでのことを聞く。

直近は民間企業にいたとは言え、超能力者が政府を脅迫していたとは全く知らなかった。

また、現実の世界で、超能力なんてものがあるとは想像すらしていなかった。


そして、弁護士に知っていることを全て伝え、坂上さんに伝えるようにお願いした。

弁護士は、高齢だけど、あるべき姿に向かうべきとの考えが強く、感覚は私と似ている。

より良い日本を作らなければという使命感を共有できた。


それから3カ月ほど、私と本間さんは、甲府にかくまわれていた。

政府要人が次々と殺され、私や本間さんも危ないからと。


甲府にいると、遠くに山々がそびえ、東京とは違う綺麗な空気に包まれる。

駅周辺には高いビルもあるけど、すぐに住宅地となり、のどかな雰囲気が広がる。

超能力者と抗争を続けていることが嘘のように思えた。


そんな時、坂上さんが死んだと言うニュースが流れ、すぐに現実に引き戻される。

坂上さんは、世の中にロボットというデマを流して、人々をかく乱した罪に苛まれていた。

それに耐えきれず自殺したと報道されている。


でも、本間さんは、そんなはずはないと言う。

ロボットについては全て事実で、坂上さんは全霊をかけて真相を究明していた。

そんな坂上さんが、自ら死ぬはずがないと泣きながら話す。

誰かがデマを流している。ロボットを浸透させた敵の仕業に違いない。


本間さんに聞くと、坂上さんは、河田からの連絡を受け、外出したという。

坂上さんも、河田の手にかかり殺されたのかもしれない。

なんとしても河田の計画を阻止しなければならない。


私は、これまでも国家レベルの案件をいくつも手掛けてきた。

今回は、人類を守るという更に重大な任務。

目標が定まれば、そのための道筋を作り、前進していくことは得意。

これまでの経験と、私の能力を傾け、全霊をかけて取り組むとの決意をする。


まずはこちらの兵力、敵の兵力、欠点等の情報を整理しなければならない。

そのうえで、最も効果のある一手を生み出さなければ。

そのために、アメリカ等と連携して新たな武器の製造も考えるべき。

日本に閉じこもって考えている状況ではない。


翌日、私の所に防衛大臣が訪れる。

超能力者のアジトは一旦判明したものの、突入するともぬけの空だったという。

そして、現在、どのぐらいの超能力者がどこにいるのか全くわからないらしい。


自衛隊がいても攻撃先がわからず、今は無策だと悩んでいた。

私は、アメリカのホワイトハウスに連絡をし、アメリカの状況も情報収集をした。

その中で、超能力者はコルト国から全世界に展開されたらしいとの情報も得る。


まだ、調査が十分でない中で、とんでもない事件が起きる。

政府要人の職場や自宅に殺人バグが放たれた。

小バエのように小さく、飛び回って口の中に入る。


口に入っても、本人は気付かないまま、バグは内臓の奥へと入り込んでいく。

金属でできているので、胃液等には影響を受けずに中へと進んでいく。

その翌日には、内臓に産み付けられた無数の卵が羽化し、お腹を破り出てきた。


当人は、直前まで気づかず普通に暮らしているが、急に倒れ苦痛に失神し、死に至る。

国会議事堂での討論中に、衆議院議長がワイシャツをかきむしり倒れる。

むき出しになったお腹を破り、黒く丸いクモのようなバグが無数に溢れ出た。

そのバグは、他の議員の体にまとわりつき、その口にも入っていく。


議場は悲鳴の嵐となり、議員は逃げ惑った。

ある議員は、手にまとわりつくバグを必死に振り払っているが、追いつかない。

転び倒れた議員の顔を、無数のバグが真っ黒に覆った。


逃げ出せた議員が議場の扉を閉める。

まだバグに襲われていないから外に出してくれという悲鳴が漏れる。

扉を開けろと怒鳴り声が飛び交うものの、扉を開ける勇気は誰にもなかった。

翌日には、議場からの声も途絶え、床に倒れた無数の議員達の姿が全国に放映される。


バグはそれほど遠くまで動くことはないらしい。

しかも2回目の羽化で繁殖は止まり、どこかに消えていった。

だから、国会議事堂でのバグの被害はこれでとどまる。


でも、バグは次から次へと放たれた。

政府要人の自宅は、信じられないほど正確に把握されていた。

そして、副総理を含む30人の大臣、長官等は殺害される。


これが超能力者の仕業だという証拠はない。

ただ、確実に政府関係者とその家族だけが殺され、超能力者の仕業としか考えられない。


私のことは、まだ敵に伝わっていないのか、殺人バグの攻撃を受けることはなかった。

そんな時、敵の主要人物の姿を監視カメラが捕らえたという情報が私のもとに入ってくる。

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