2話 気象を操る
俺が能力に気づいたのはTVの報道を見ていた時だった。
今年の夏は干ばつで農作物が大打撃を受けているとニュースキャスターが言う。
俺は、大雨でも降ればと思い、部屋から空を見ると、積乱雲が大雨を連れてきた。
また、買い物に出かけ、雲一つもない夜空をみて、雷が落ちればきれいだろうなと思った。
その瞬間に雷がなり始め、稲妻が空に轟く。
最初は偶然かと思ったが、まさかと思い、試しに頭の中で、雹をイメージしてみた。
そうすると、窓から、街中に雹が降ってくる。
これは偶然ではないと思った。
もともと、俺は、高校の時は成績がクラスでトップだったけど、それから伸び悩む。
三流大学しか合格できずに、会社に入っても、いつも無視されて惨めだった。
どうして、俺は特別な存在になれないのだろう。
今だけじゃなく、このままではこれからも同じだと諦めていた。
だって、なにをしても、周りは三流大学の出だとバカにしている。
そんな奴にチャンスなんて巡ってくるはずもない。
そんな中で、特別な能力を身に着けていることに気づいた。
いつの間に、こんな能力が身に付いたのだろう。
そして、この能力はどう使えば、世の中のために役立てることができるのだろう。
最初は、そんなことを考えていた。
でも、そんな形でこの能力を使うのは俺にとっていいことなのだろうか。
俺のことをこれまでバカにしてきたやつらをひざまずかせたい。
そのために、俺に授けられた能力だと思えるようになってきた。
ただ、人に言える能力ではない。
まず信じてもらえないだろうし、異常者として警戒され、殺されるかもしれない。
でも、そのうち、超能力者は俺だけではないという情報が入ってきた。
しかも、政府が超能力者を恐れ、抹殺しようとしているらしい。
俺は、自分が超能力者だとは更に言えなくなった。
その時、凛さんが現れ、同志で自らの身を守ろうと言われる。
凛さんは、自分も超能力者だと笑って言った。
その笑顔には、どこにも邪悪な気持ちは感じられなかった。
政府の抹殺計画も聞き、俺は組織の一員になることを決めたんだ。
しかも、凛さんは、俺の能力は戦争での兵器にもなりえる大きな能力だと褒め讃えた。
俺も、悪い気はしない。
今日は、科学技術庁長官、経団連会長、経済同友会代表幹事が会食をする日。
17時半に庭園を鑑賞しながら、会食会場に行くと凛さんは話していた。
俺は、ホテルの一室を予約し、庭園への出口でホテルの中から外を眺めていた。
品川近くにそびえ立つ高級ホテルの前に、こんな優雅な庭園があることは知らなかった。
池の周りを着物を着た女性が優雅に歩くと風情があるのだろう。
宮家の邸宅があったと紹介されている。
池の周りにいろいろな花が咲き、昔風の木の橋がアーチ状にかけられている。
奈良の寺院から移設されたと書かれた大きな鐘が吊るされている。
昔ながらの日本の優雅さに浸れる空間が広がっていた。
時間通りに3人は和やかに俺の前を通り過ぎ、料亭へと歩く。
まだ周りは明るく、雲一つないいい天気が庭園を囲む。
科学技術庁長官には護衛がいたが、一般人との会食だから席を外せと指示されていた。
残りの2人も、経済界の人で狙われることはないと過信しているのか、護衛はいない。
3人の護衛はいなくなり、お寺のような建物の前で、大笑いをして記念写真を撮っている。
今のうちに笑っておけばいい。
こんな低俗なやつらが、社内のトップにいるなんてこと自体が許されることじゃない。
俺は世直しをする正義の味方。
今が絶好のチャンスに違いない。
まだ明るい空が広がる中、急に周りは暗雲に包まれ、目の前に閃光が走った。
あまりのまぶしさに、しばらくは目が見えない。
でも、1分ぐらい経った頃だろうか、目の前には黒焦げとなった3人が倒れている。
肉が焼けこげたような匂いが辺りに充満する。
焼けた遺体からは、煙がでていた。
それからしばらく雨が降りつけ、煙を消していく。
遺体は、あっという間に水溜まりの中にいた。
誰か分からない焼け焦げた遺体の手が空に向かって伸びている。
さっき、経団連会長がお寺のような建物を指さしていたから、そいつは会長なのだろう。
本人達は、何が起きたのかわからないままこの世を去ったはずだ。
もっと、自分達の存在が世の中に貢献していないことを知って死ぬべきだったと思う。
いや、そんな価値さえない奴らだった。
俺は、世直しをしただけ。罪悪感なんて一欠片もない。
科学技術庁長官の護衛は走り寄ったが、ホテルの警備員に首を横に振っている。
諦めた顔で、スマホで誰かに連絡していた。
俺は、自分の部屋に戻り、明日の朝まで隠れていることにした。
救急車、パトカーの音が鳴り響き、ホテルの周辺は朝まで騒然としていた。
朝のニュースでは、落雷によって3人が死亡したと伝えられる。
俺の仕事はここまで。
当面は、他の4人には会わないし、連絡も取らない。
この時には、俺は、政府から超能力者としてマークされていることを知らなかった。
翌朝、日差しが降り注ぐ中で、明るい将来が見えたような気がした。
自分の能力に自信が持てたせいか、俺を見下した奴らへの怒りがつのってくる。
超能力者をリーダーに世界を組み替える。この考えは本当に正しい。
組織に入って良かったな。超能力もないやつらが、威張っているんじゃないよ。
今回の落雷は、気象予報士からは疑問が多いと問題提起がなされた。
超能力者の容疑がある俺が近くにいて、政府は、俺が気象を操ると疑いを持った。
今回の事件で、俺は目立ってしまったのだろう。
最近、通勤の際に誰かに見られている気がする。
それは、自宅の最寄りの駅を降りて、住宅地を歩いているときだ。
周りを見回しても、不審な姿はないが、誰かの気配を感じる。
鋭い視線、殺気が肌を刺し、鳥肌がたつ。
肩のすぐ後ろに目が、俺の背中を刃物で突き刺すように浮いているようだ。
政府に目をつけられたのかもしれない。しばらく静かにしておくしかない。
その後も、不審なことは続いた。
エスカレーターを降りようとすると、後ろから誰かがぶつかってくることがあった。
ホームの先頭で電車を待っていると、後ろから押されることもあった。
ただ、振り返っても、英語の単語帳に集中する女子高生がいるだけで、怪しい人はいない。
ある時は、家の小物の置き方が変わっていた。
普通の人なら気付かないだろうが、俺はこだわりがあり、動かしたのは間違いない。
なにか不審なものがないか探したのだろう。
ただ、捕らえられ、どこかに隔離されるということはなく、日々は過ぎていく。
まだ、俺が超能力者だという確信がないのだろう。
俺は自らの能力を隠す力が、政府の奴らを上回っているに違いない。
俺は夜道を歩きながら、自分が誇らしかった。
戦争で兵器にもなれる力を持ちながら、相手にはバレないで過ごせる。
道端の電灯が遠くまでつらなり、それ以外は暗闇が隠し、とても美しく見える。
俺の将来も、こんな風に、光に導かれ、明るい未来に向かっているのだと思う。
その時だった。ヘッドライトをつけていない車が突進してきた。
そして、俺は、後ろに大きく飛ばされる。
どうして、こんなときに車に轢かれてしまうのだろうか。
俺は宙に浮き、そのまま道路に叩きつけられる。
後頭部が道路にぶつかった時、これまで感じたことがない激痛が走る。
そして、俺の体は何度かバウンドをして道路に横たわり、もう動くことができない。
道路に仰向けになりながら夜空を見上げる。
綺麗に光る星々が、俺を照らす。
でも、口に血が溢れていく俺の目からは、満天の星は少しずつ消えていった。




