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最終決戦  作者: 一宮 沙耶
第3章 空気感染

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4話 線虫の正体

あの会食の後、あるニュースがでて、総理の暗殺のニュースすら陰が薄くなっていた。

毎日、1,000人を超える人が死んでいくというニュース。

なんの前触れもなく、突然、死亡者が急増した。

そして、脳に線虫がいることが原因らしいという報道が出始める。


うわさばかりで、報道では明確な死亡の根拠は示されない。

ただ、近親者でも亡くなる人が増え、確実に周りの人が減ってきたのが実感できた。

誰もが、根拠のない暗黒の不安に包まれていた。


俺は、人々が大勢死んでいく中で、営業部長を続けることに意味があるのか悩んだ。

常務の河田と総理が平然と賄賂で取引先を決めていたのを目にしたことも一因だ。

営業の俺がどんなに頑張っても、大したことはないと思い知らされた。


ただ、それだけではない。大学生時代に、魚の中にいる線虫を研究していたから。

それなら、俺でも、もっと世の中に役立てることがある。

そう思い、建設会社をやめ、国立の線虫の研究所に転職した。


公務員で給料は低いが、1人暮らしで問題はない。

建設会社で、人員削減のために高い退職金を得ることができたこともある。

好きな研究に専念でき、それが世の中に貢献できることが、なによりも嬉しかった。


幸いに、線虫により多数の人が死亡していたので、研究所は多くの研究者を募集していた。

俺は研究室で好きなテーマを自由に研究させて欲しいという条件を提示する。

上から目線な条件でダメかと思ったが、人材不足のおかげか、それでもいいと言われた。


ただ、それが良かった。研究者の先入観なく、一つ一つ可能性を潰していく。

その努力のおかげで、たった3ヶ月でこの道の第一人者と言われるようになる。

もともと、コツコツと研究する方が営業より自分に合っていたというのもある。


一番信頼できる助手と出会えたのも、この研究所に入れた成果だった。

助手の本間 柚月には、主に情報収集と実験を担当してもらっている。

彼女は、大局を見渡すのは苦手だが、目の前の研究を文句ひとつ言わずやり続ける。


本間さんから、収集した情報や検査結果の報告が毎朝あり、俺がその矛盾点を指摘する。

それを受けて、本間さんが検証をして、夕方にまた打ち合わせをする。

本間さんはいつ寝ているのか不思議だったが、緊急事態に、問題視されることはない。


その成果は確実に出て、線虫の仕組みは一歩一歩、洗い出されていった。

俺の目のつけどころが鋭いということもあるが、本間さんのおかげだと感謝している。


全世界の研究機関を繋ぎ、俺が主催するリモート会議が始まった。

世界各国から300人以上が参加し、ノーベル賞を受賞した有名な研究家も何人もいる。

日本の会場では、この研究所だけでなく、20人の研究者が並ぶ。

エアコンが古いのか、窓から強い日差しが照りつけ暑い部屋にもかかわらず緊張感が走る。



俺は、全世界の研究者を前に、これまでの調査結果について説明を始める。


「まず、これまで分かったことを整理しよう。まず、この線虫は、血液の中に存在していた0.1μmぐらいのロボットが筒状で、内部から巻かれた皮膚が伸びて長くなる。その後、血液から養分を吸って皮膚が厚くなっていく。この2つは同じものだったんだ。」

「昔、お祭りとかで遊んだペーパーヨーヨーみたいな構造なんですね。」

「そうだな。まず、驚くことが、最初は機械的構造物であるにもかかわらず、動物のように成長し、自分の意思をもって動くことだな。さらに、その線虫は血液の中を流れていき、というよりは泳いで行き、脳に集まってくる。そして、脳にある血液で更に成長し、皮膚も弾力がある厚みを得ていくんだ。このような微細で精密なロボットを作る技術は誰が開発したのだろうか。」

「これはまだ検証できていないが、どうも、この線虫は人間の思考をコントロールできるようだ。」

「脳内に入り線虫の形になると、電波のようなものを発し、更に受信もしている。この送受信を通じて人間の思考をコントロールしていると考えられる。」

「その電波らしきものは認識できましたが、暗号化されていて内容は解析できませんでした。」


参加しているメンバーの多くは、将来への不安からか、沈黙を続けていた。

いずれの研究者も、研究に行き詰まり、どの方向に進むべきか悩んでいた。

どの国の会議室も、暗闇に包まれたように見える。


「次に、この球状のロボットだが、空気感染で広がったと考えられている。現在、空中にこのロボットが浮遊していることが確認できている。そして、これに感染した人間は3種類に分かれ、日本では約48%が死亡、約2%が生存、約50%が感染せずという状況だ。これは人種によって違い、欧米人は8割が死亡とでている。なお、50%の感染せずは、この球状のロボットは一旦血液中には入ったにもかかわらず感染していない。個体差が大きい。」

「死亡した主な原因は、体内で線虫が増えていく中でショック死に至ったものだと我々も結論に至った。」


今、生きている人は、基本的に、今後とも感染することはないと伝える。

その発表に、参加者の顔には、不謹慎とは思いつつも安堵の表情が溢れる。


「そして、2%の人は、脳には線虫がいるが生存している。そして、これは正確な検証ができていないが、どうも、思考がコントロールされているらしい。2%の人達は、我々の横に普通の人間として存在していて、誰が、そうなのかは脳を開いてみるまでは分からない。この会場にもいるのかもしれない。レントゲン等でも見つけることは困難で、更に、脳から線虫を除いても、また脳内で繁殖し、きりがないことも検証済だ。」

「誰が、この球状のロボットを空中に撒いたかも、まだ謎のままだ。」


まだわからないことが多すぎて会場は沈黙で覆われた。


「どうして、映画みたいに、直接、攻撃とかしてこないんでしょうか?」

「よくわからないが、すでに、半分が死亡していることで、彼らの目的は達成しているのかもしれない。」

「いや、我々を大勢殺すことは望んでないのかもしれない。むしろ、思いの外、我々の体がこの球状のロボットに弱く、人類の半分以上が死に絶えてしまったことに、戸惑っている可能性もある。また、半分は感染していない。これは相手にとって想定外だったということかもしれない。」

「人間の脳に入り込み、人間を操ることで、直接、手を下さずに我々を征服しようとしているのでしょうか。」

「2%の人は何をやっているんですかね。」

「それは、まだはっきりしていない。」

「で、今、打てる手は何があるんでしょうか。」

「残念だが、現時点では分からないことばかりで、打ち手を絞り込むことができない。」

「じゃあ、これまでの研究はスタートラインに立っただけということじゃないですか。」

「いや、実態が分かっただけでも十分、意味がある。今後、我々を支配しようとしているとしても、少しは相手のことが分かっただけでも時間が稼げた。」


会議で幾つの仮説はでたものの、いずれも確証が得られていない。

議論は発散してしまい、再度、集まり、データを持ち寄って議論することにした。

敵がいることは分かったが、それ以上のことは何も分からない。


目に見えない敵がすぐそばにいて、虎視眈々と我々を支配しようとしている。

空気中に放出されたロボットだけが敵の武器ではないかもしれない。

次々と目に見えない攻撃が仕掛けられているのかもしれない。


これまで、外を歩いても安全だと過信していたことが間違いだったと気づく。

空気を吸うだけで、ずっと攻撃を受け続けていたと気づいたことは衝撃だった。

しかも、自然界のウィルスとかではなく、明らかに誰かの策略で。


この事態は人類にとって極めて危うい状況で、少しでも早く前進しなければならない。

俺は、疲れた体にむちを打ち、研究し続ける覚悟を固めた。

ただ、今夜は行き詰まっていた。


そこで、研究所の帰りに別れた妻がやっているスナックを訪れる。

元妻は、勝手にホストと家を出ていき、金を巻き上げられて捨てられた。

だから、元妻からは何も要求してこないし、俺は何の未練もない。


しかも、俺達には子供はいない。

だから、もともと別居していたようなものだったし、別れても、誰も困らない。


子供がいたら、どんな生活をしていたのだろうと思うこともある。

でも今更、そんなことはどうでもいい。

俺は、人に関心はない方だから、子供が欲しかったわけでもない。


ただ、たまにはこの店に来て、営業協力をしてあげている。

少しは、俺の人生の中で、同じ時間を過ごした人だし。


新宿の職場から、西荻窪の自宅に帰る途中、高円寺駅で降りる。

そこから少し歩いた場末の侘しいお店。美恵子という元妻の名前のネオンが見えてきた。

古びた木造の建物のドアに、消えかかっている照明が光を当てる。


お店に入ると、8席だけのカウンターがあり、小さな画面にカラオケの映像が流れる。

床を歩くとみしみしと音がして、カウンターにはタバコの焼け跡がいくつもある。

こんな寂れたお店にくるお客なんていないだろうと思うが、まだ続いているのは不思議だ。


しかも、最近は、この辺は人が減り、収入は激減しているのだろう。

少しは、生活するために役立てればと思っていた。

元妻は、カウンターの奥に立ち、誰もいないお店の中で苦笑いをする。


「また来たの。私に未練があるんじゃないの。」

「何を言っているんだ。今日は、ちょっと待ち合わせをしていてな。」

「あら、お客を連れてきてくれるのね。じゃ、少しはサービスしないと。」

「サービスって言っても、いつものピーナッツだろう。まずは、ウィスキーロックをくれ。」

「相変わらず、偉そうね。そんなんじゃ、次の奥さんは来ないわよ。まあ、土下座しても無理か。」

「無駄口きいてないで、早くお酒を出せよ。」


いつものピーナッツをガラスの器に載せ、ウィスキーのロックを俺の目の前に置いた。

俺が頼むのは、何も言わなくても、安いウィスキーだと知っている。

自分も小さなグラスにビールをつぐので、渋々、元妻と乾杯する。


「そういえば、今、何をしているの?」

「なんだ、まだ俺のことが気になるのか?」

「よしてよ。こんな太ったおじさんに、そんなことあるはずないじゃない。それよりも、この前、あなたが来て、1時間ぐらいして、このお店を出ていったじゃない。その後すぐに、人相が悪い2人の男性があなたを追って出て行ったのよ。何やっているか分からないけど、危ないことしているんだったら気をつけた方がいいわ。」


そいつらは、ロボットを空気中に巻き散らかした敵の一味かもしれない。

むしろ、ボディーガードをつけて、おびき寄せるのもいいかもな。


「ありがとう。気をつけるよ。あ、来た来た。山崎先生、こんな所にお呼びしてすみません。ここなら、いつも誰もいないし、こそこそ話しにはいいかと思って。」

「失礼ね。」

「山崎と申します。こちらは?」

「昔、別れた妻で、口は硬いから大丈夫ですよ。」

「そうなんですか。」


逮捕されている今井さんが総理暗殺について何かを知っているという情報が入った。

逮捕者には弁護士以外は接見できないので、話しを聞くには、弁護士を介するしかない。

そこで、その弁護士に連絡することにした。


男性は、元妻に頭を下げ、私に弁護士の名刺を差し出す。

高齢だけど信念は持っているように見えた。

よれよれの背広と白髪の様子だと、うだつが上がらない人生を過ごしてきたのだろう。

でも、力強い目からは、ブレることがない真っ直ぐの視線が私に向いていた。


弁護士は真剣な顔で私に話し始めた。


「総理は、あなた達と会食した後、帰るタクシーのエンジンの動力源となる水素ボンベが爆破されて死亡しました。水素ボンベはトランクにあって、今井さんが、トランクに唾を吐きかけた姿が監視カメラに写っていたことを理由に警察は今井さんを逮捕しました。」

「確かに唾を吐きかけていたのは記憶していますが、それと爆破とどういう関係があるのですか?」

「唾で、爆弾を車にくっつけたと考えているのです。」

「それはいくらなんでも、無理があるでしょう。」

「そうですね。今井さんは、犯行を一切、否定しています。でも警察は、今井さんが犯人だと言い続け、余罪でもう1年以上、勾留しています。これは異常です。」


俺の後を追っていった男性とか、俺達は誰かに狙われているのかもしれない。

警察も、その協力者として、取り込まれているのだろうか。

それとも、俺達が気づかずに何かを見つけ、危険人物としてマークされているのだろうか。


「他には、何か情報はありますか?」

「まだ、1回しか今井さんと会っていないの、今はこのぐらいです。」


あまり有益な情報はなかったな。

ただ、今後も情報を聞くことができるパスができたのは今日の成果だった。

その時、弁護士の何気ない質問に、俺は背筋が凍った。


「ところで、河田さんって知っていますか?」

「多分、当社の常務だった河田のことだと思いますが、何かありましたか?」

「今井さんが、河田さんには気をつけろと言っていたものですから。」

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