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最終決戦  作者: 一宮 沙耶
第3章 空気感染

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2話 総理暗殺

「グォ、ゲボ・・・。」


息ができない。何が起きたのかわからないし、苦しい。

気付くと、顔には布がかけられ、手足は縛られ、どこにいるか分からない。

しかも、ゴミの悪臭が漂う水の中でもがき苦しんでいた。


息を吸おうとすると、液体が口から入ってしまう。

ここに来る前に、河田が俺を拘束し、注射を打ったことを思い出す。

必死でもがきながら、3ヶ月前の河田との会食シーンが頭をよぎった。


その晩は、佐藤総理と料亭で、立派な鰻料理を囲み和やかな会食をしていた。

三木建設の営業部長である俺と、当社の河田常務、今井本部長が、佐藤総理を囲む。

河田常務と佐藤総理とは腐れ縁だと聞いていた。


河田の名前は当社の常務としてもちろん知っている。ただ、直接話したのは今回初めてだ。

俺が働きかけているプロジェクトを進めるうえで総理の力が必要になった。

そこで、河田と一緒に総理と懇親会をやれと社長指示があり、この席が設けられる。


4人にとってはかなり広い、上品な和室。

畳や障子の新鮮な和紙の香りが部屋を包み込む。

窓からは庭園が広がり、池や多くの緑葉に覆われた木々がライトアップされている。


エアコンで涼しい部屋の中、長方形の無垢のテーブルで3人が総理を囲んでいた。

席に着くと、先付けの美味しそうな茶碗蒸しの様子に目が奪われる。

ビール瓶も、上品な木の受けに置かれ、品格を表す。


2人の仲居さんが、お料理、お酒と、笑顔で足しげく用意する。

この料亭では、総理が来るということで、全ての部屋は貸切られ、他にお客はいない。

河田が中腰になり、満面の笑みで総理にお酌をする。


「この純米大吟醸の日本酒は絶品ですよ。どうぞ1杯。」

「ありがとう。ただ、美味しいからと言って飲みすぎると酔払ちゃうしな。」

「お酒は、酔うために飲むんですから、今夜はどんどんいきましょう。ところで、今回の都市開発計画について、あらかじめ情報をいただき、ありがとうございます。」


河田はテンポのよい会話でいきなり仕事について切り出した。


「いや、その方が双方の利益のためだと思ってね。」

「そうですね。業界トップの当社がリードすれば、品質、工期は安心できますし、デザインも一流のものにできますよ。また、それを仕切った佐藤総理は、また来年も続投ですね。素晴らしい。」


河田は、あまりに大げさな拍手を佐藤総理に向ける。

総理の顔の周りを上から下に、下から上にと佐藤総理も拍手の嵐でうるさいに違いない。


「お世辞とわかっていても、そこまで度が過ぎると嬉しいもんだな。」

「いえいえ、佐藤総理あっての私ですから。では、いつものペーパーカンパニーの口座に振り込んでおきます。」

「よろしく。」


あたかも当然かのように賄賂の話しが語られている。

もちろん違法行為だが、総理も河田の様子からは普通の会話にしか聞こえない。

政治家の周りでは、こんなものなのだろうか。


「それにしても、このお店の鰻づくしコースは、私の経験でいうと日本一ですよ。その中でも、この白焼きは絶品です。」

「そうか。美味しそうだな。赤坂のこんな所に、こんなに鰻を美味しくいただける料亭があったなんて知らなかった。」


仕事、賄賂、お料理と、話しはテンポよく切り替わる。

これが、違法行為を違法と感じさせない河田のお得意芸なのかもしれない。


「そうなんですか。食通の佐藤総理なのに、このお店を知らないとはびっくりです。逆に、今夜、ご紹介したかいがありました。それにしても、いま、この皿を持ってきた仲居、背は低いですがスタイルが良かったですね。着物なのに、胸の谷間が見えそうじゃないですか。ポロって着物から落ちたりして。あはは。また、腰の形もよくて、つい手が伸びてしまいそうでした。」


河田の下品さも群を抜いている。


「河田くん、いまどき、女性の前でそんなことを言うと、セクハラと言われちゃうぞ。」

「今井さんは、体は女性でも心は男性ですから、そんなこと言わないですよ。そうだよな、今井さん。」

「ええ。そんなことよりも、もう1杯どうぞ。佐藤総理。」

「昔から、今井さんは立派だ。建設会社に転職してからも大活躍だと聞いているぞ。女なのに、すごいな。」

「ありがとうございます。佐藤総理のご指導のおかげです。」


総理は、女性蔑視というか、時代遅れのおじさん。

だが、それ以上に、河田の話しには品というものがない。


俺と同じ東大出らしいが、酒ばかり飲んで脳みそが腐っているんじゃないだろうか。

今井さんがこんな会話を軽く受け流しているのは立派だ。さすが元、キャリア官僚。

しかも、まだ40歳で美人ときている。


それにしても、総理の背広は高級感が漂う。

いかにも良い生地を使っているのが見ただけで分かる。


2世議員なので、お金に余裕があるのだろう。

山口に大きな庭園があるご実家でお生まれのようだ。

明治維新からの家系なのが羨ましい。


俺は3日間、同じワイシャツを着てクリーニング代を節約している。

総理はそんなせこいことをするなんて考えたこともないのだろう。

ワイシャツもパリッとしている。


2時間が過ぎて会食は終わり、総理をお見送りしていた。


「坂上さん、お土産を渡して。」


俺は、料亭から手渡されたお土産を、そのまま総理のお車の前席に置いた。


「佐藤総理、かさばりますがお持ち帰りください。どうぞ。」

「佐藤総理、ここのお土産、うな重なんですけど、お土産の域を超えていて、本当に美味しいですよ。ご家族の方にご賞味いただければと思います。今夜は遅いので、明日にでもお召し上がりください。チンすれば、明日夜までは持ちますので。」

「ありがとう。妻も息子も喜ぶよ。今日は、本当に美味しかった。ありがとう。」

「ありがとうございました。」


総理は車に乗り込み、料亭を出ていった。

赤いテールランプが線のように流れていく。

もう、頭をあげていいだろう。そして、河田、今井さんも見送った。


今日も終わったな。俺は営業部長をしているが、人と一緒にいると本当に疲れる。

周りからは誰とも親しくできるのはすごいことだと言われる。

でも、本当は人付き合いは疲れる。1人でいるときが一番楽だ。

俺のタクシーも来た。家に帰ろう。


タクシーからは、夜の10時を過ぎても、煌々と光るビルがみえる。

働き方改革と言われて久しいが、大勢が働きつづける光景が目の前を通り過ぎていく。

みんなストレスを抱えて、機械でもできる仕事を終わりも見えずに続けているのだろう。


今日も疲れた。毎日がトラブルの連続で、部下は思ったように動かない。

お客も、便乗してか、考えられないような要求を出してくる。

それをさばいているだけで、1日が終わり、それからが俺自身の仕事をする時間だ。

俺も、ゆとりという時間が欲しい。


そういえば、河田はどうして、長い間、常務なんてやれているんだろう。

社長の紹介で当社に来たと聞いているが、日頃、何をしているのか全くわからない。

しかも日頃の会話では仕事の話題は全くなく、くだらない雑談ばかりだともっぱらな噂だ。


いつも、腑抜けた笑顔で、平和ボケしているとしか思えない。

ただ、社内で猛獣として恐れられている管理部長を、上手く手なづけている。

過去の常務は、ずっと無視されてきたのにだ。


そもそも、河田には所掌範囲というものがない。

営業で案件を持ってくる気配はないし、内部統制とか管理系の業務をしてるわけでもない。

もちろん、個別プロジェクトをリードしてはいない。


明確な部下や秘書はいないから、秘書等を通じて河田のことを聞くこともできなかった。

常務だから秘書がいてもいいが、面倒だと言って秘書を置いていないと聞いたことがある。

秘書から情報が漏れることを嫌っているのかもしれない。

今回のように、賄賂等で裏工作をするのが仕事なのかもしれない。


バカなふりをしているだけなのだろうか。

表情をみる限り、本当にバカだとしか思えない。

黙っていれば、威厳があるように見えるのが得しているのかもしれないが。


まあ、別に邪魔してくるわけではなく、社内の動きとかの情報源としては使える。

だから、今後、付かず離れずの関係を維持していけばいい。

ただ、あれだけ実績がないのに、長年、常務を続けられている理由には個人的興味はある。

タクシーの窓に映る自分の顔を見ながら考えていた。


府中で高速を降り、辺りは暗くなり、住宅が増え始めた。

家の中では、1週間を平穏に過ごせたことを家族で祝福し、晩酌をしてるんだろう。

そろそろ眠ろうなんて話しているのかもしれない。


俺も、無事に自宅に到着し、ドライバーに料金を支払い、今日もお疲れさまと伝えた。

このドライバーは60歳前後にみえるが、こんな深夜まで働いて1人身なのだろうか。

離婚して、30歳ぐらいの子供に会えずに寂しい人生を過ごしているのかもしれない。

孤独な時間、車の窓に子供の姿を思い浮かべているのかもしれない。


数年前に離婚して1人で暮らす自宅の玄関のドアを開けて入る。

真っ暗な玄関の電気をつけ、今週も、よく頑張ったと自分を褒めてあげた。


やや飲み過ぎたのか、眠くなり、お風呂に入るのも面倒だ。

背広とワイシャツを脱ぎ、下着のままベットに入る。


何時間、寝たのだろうか。

鳥の囀りが聞こえ、窓から朝陽が入り込んできた。

もう朝か。でも、今日は土曜日だから、もっと寝ていよう。


そう思っていた時、玄関のベルが鳴った。

どいつだ、俺の休息を邪魔するやつは?


出てみると、驚いたことに、そこにいたのは警察だった。

昨晩、総理が乗っていた車が爆破され、死亡したのだというという。

そう、俺の悲劇は、あの会食から始まっていた。

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