第5話 夢であるように
チーポの解除魔法により、辰宮才牙は再び、元の姿――身長180センチを超える強面の男子高校生の姿へと戻った。
「うおー! もどったー!」
才牙はまず自分の大きな手を見つめ、次に周りを見下ろす。視線の高さ、体全体の重み。それは、ついさっきまでまとっていた銀髪の美幼女の身体とは、似ても似つかない、見慣れた自分の手足と高い身長だった。心底ホッとした表情を浮かべ、才牙は深く息を吐き出す。
「な? ワイは嘘は言っとらんやろ? 約束通り、ちゃんとおまんを元に戻したで!」
「よし、じゃあ死ね」
才牙は、安堵の表情を瞬時に凄まじい殺意へと変え、何の躊躇もなく、チーポめがけて鉄拳を放った!
ゴンッ!
凄まじい衝撃音と共に、チーポはまるで弾丸のように遠くまで吹っ飛んだ。しかし、チーポの身体は、才牙の怒りの鉄拳を食らっても、余裕の表情であるチーポは**「ワープ!」**という一言と共に、瞬時に才牙の肩に舞い戻ってくる。
「な、なんで……?」
才牙が疑問の声を漏らすと、チーポは得意げに鼻を鳴らした。
「アホか。自分の契約した魔法少女の攻撃でダメージ負うわけないやろ、それは変身前も同じや。ワシらは『パートナー』や。更に契約した魔法少女の元には、瞬時に駆けつけられるんやで、便利やろ?」
チーポの言葉に、才牙の顔は完全に血の気を失い、まるで死人のように青ざめた。
「な、な、な、な……契約なんていつの間に!? 俺は『賭け』に乗っただけで、『契約』はしてない!」
「アホやな。魔法少女に変身したら、それはもう契約成立なんやでぇ」
チーポは、あの時の賭けの言葉を、悪魔のように繰り返す。その声は、才牙には嘲笑にしか聞こえない。
「才牙もちゃーんと許可したやろ? **『魔法少女になれなかったら去る、なれたら契約する』**って。魔法少女変身ビームで変身した時点で、条件は達成や! 約束は守らんとなぁ?」
才牙は、自ら誓ってしまった賭けの言葉と、目の前の卑猥キノコの奸智に満ちた笑顔に、全身から力が抜けていくのを感じた。
元の姿に戻れた喜びは、永遠に続く魔法少女(男)としての契約という、最悪の事態によって打ち消された。
(嘘だろ……。俺は、あのキノコにハメられたのか……!?)
「……ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ……」
才牙は、激しい頭痛と共に、二度と戻らない日常を思い、膝から崩れ落ちた。
「ま、まあ俺はもう変身しないからな!」
辰宮才牙は、目の前でニヤリと嘲笑うチーポに対し、虚勢を張って宣言した。契約はしてしまったかもしれないが、変身しなければ戦う必要はない。「男」として生きることを放棄さえしなければ、あの地獄のような戦闘とは無縁でいられるはずだ。そう信じ込むことで、才牙は自身の精神を保とうとした。
しかし、チーポは何も言わず、ただ含みのあるニヤけ面で才牙を見つめる。
「何だその顔は!?」
「何やろなー(笑)」
チーポは「ほななー」という挨拶とともにワープで何処かへと去っていく
チ含みのある笑いと、『もう逃げられない』という確信に満ちた目線と共に。
才牙は背筋に冷たいものを感じたが、これ以上、この卑猥なキノコと無駄な議論をする気力は残っていなかった。
その日、才牙は重い足取りで家に帰り着くと、熱い風呂に入った。熱湯に身を沈め、無理やり体から毒気を抜き、深い布団に潜り込む。
そして、強く、強く、目を閉じる。
(そうだ。俺は疲れていたんだ。あれは全部、疲労とストレスが原因の、くだらない夢だったんだ……)
アンヴァーの襲撃も、美幼女への変身も、卑猥なキノコとの契約も、そして自分の拳が怪物を吹き飛ばしたことも――
全てを「無かったこと」として、強引に記憶の蓋を閉める才牙。
彼の日常は、わずか一日で、世界を揺るがす戦場へと変貌してしまった。しかし、彼はまだ、魔法少女として生きる運命から目を逸らそうともがいていた。
だが、瞼の裏には、ニヤニヤと嘲笑うチーポの卑猥なキノコのフォルムが、いつまでも焼き付いて離れないのであった。




