第3話 初戦闘、外見は美少女、中身は番長
アンヴァー警報が鳴り響く中、美幼女の姿に変えられてしまった才牙(中身は男子高校生)は、泣くのをやめ、凄まじい殺意を宿したスカイブルーの瞳でチーポを睨みつけた。
「ちっ!ああ! やってやんよ!!」
その言葉には、世界を救う使命感など一切ない。ただ**「妖精ポイントを稼ぎ、元の姿に戻り、テメエを殺す」**という、個人的かつ強烈な復讐の炎だけが燃えていた。
「それでこそ魔法少女や! 最高やで、才牙!」
チーポは喜び勇んで才牙の周りを跳ね回る。
才牙は、目の前の強敵に立ち向かうために、すぐに戦力を確認する。
「どんな魔法が使えんだ? 動画で見たことあるけど、結構派手なのもあったろ? 」
才牙の期待に満ちた問いに対し、チーポは悪びれる様子もなく、あっさりと、そして残酷な真実を告げた。
「バリアだけや」
「……は?」
才牙は、思わず間抜けな声を出してしまう。
「バリアだけや」
チーポが放つ二度目の絶望的な一言。攻撃魔法? 治癒魔法? 超スピード? 全てなし! 使えるのは、敵の攻撃を防ぐ**『バリア』**ただ一つ。
「な、なんでだよ!? どうやってバリアでアンヴァーをぶっ倒すんだよ!?」
その瞬間、才牙の体から一気に力が抜け、華奢な膝が地面に崩れ落ちる。
絶望の淵で、才牙はチーポに言われるまま、半信半疑でバリアを発動させた。
才牙(幼女)を中心に、わずかに周囲の空間が歪む程度の、うっっっっすい、円形の透明な膜が広がった。
「ナニコレ!?」
「バリアや」
「ふっっっざけんなあぁぁぁぁあ! 何だこの薄いの!! こんなんで防げるかあぁぁぁぁあ!!!」
防御力のカケラもないように見えるその膜に、才牙の怒りが頂点に達した。しかし、チーポは怒りを爆発させる才牙に対し、衝撃的な反論を叩きつける。
「バカにすなあぁぁ! 薄くても高性能何や! 日本のコンドームと一緒や! 日本のコンドーム舐めんな!!」
「例えが下品! くたばれ卑猥キノコ!!」
最早、世界を救う戦いのことなど頭にない。才牙は、目の前のキノコに全集中して怒鳴りつける。
「それに、どうやってアンヴァー倒すんだよ!? バリアだけなんだろ!?」
「魔力を込めて殴ればええんや! 才牙は殴るの得意やろ?」
チーポの言葉に、才牙は**「ぐぬぬぬぬぬぬ」**と、幼女の姿からは想像もつかない凄まじい形相で唸り声を上げた。
そう、チーポは知っていた。辰宮 才牙という男子高校生は、ただの一般人ではない。
彼は、この地域一帯ではヤクザすら道を譲るという、地元では知らぬ者のない**喧嘩上等、最強の『喧嘩番長』**だったのだ。
けたたましい警報が鳴り響く街中――人々は慌ただしいものの、その顔には**「慣れ」**の色が浮かんでいた。ここ最近、アンヴァーの襲撃頻度は上がっており、市民にとって避難訓練は義務化された日常となっていたからだ。
警報と共に、最新の街区のビル群は、巨大なギミックの音を立てて地下深くの格納シェルターへと沈んでいく。人々もまた、速やかに近くの個人用シェルターや共同避難所へ向かう。
しかし、どれほど対策を講じても、避難率をゼロにはできないのが現実だ。
避難シェルターが遠い場所。昔ながらの木造建築で、地下格納に対応していない家屋。中には、**「家を見捨てる」**という行為ができず、残ってしまう人も少なくない。
さらに、人類の反撃の要である魔法少女の数は、絶望的なほどに少なかった。
世界中で、政府の正式な認定を受けている**【魔法科】所属の魔法少女は、わずか74人**。この広大な世界において、即座にアンヴァーに対応できる戦力はほとんど存在しないに等しい。
そのため、政府に反抗する**【ノーマッド】**――違法な魔法少女たちも、実質的に黙認される傾向があった。
――静寂に包まれた街の空間が、グチャリと不快な音を立てて切り裂かれた。
そこから現れたのは、全身に赤い血管が走り、異様な形の二つの口を持つ巨大なトカゲのような怪物、【アンヴァー】。次元の裂け目から現れたその巨体は、着地と同時に残された家屋を容赦なく破壊し、**獲物(生物)**を求めて周囲を嗅ぎ回る。
その視線の先――避難シェルターへ向かうことができず、瓦礫の影に隠れてしまった子供と母親が、絶体絶命の危機に瀕していた。
まさにアンヴァーがその鋭い爪を家族に攻撃を繰り出そうとしたその瞬間!
親子はふわりと輝くシャボン玉のような薄い膜に包まれた。才牙が焦りの中で展開した、あの**「うっっっっすいバリア」**だ。
アンヴァーはそれを無視して、巨大な爪でシャボン玉めがけて攻撃を続けた。凄まじい衝撃波が周囲に響き渡る。
しかし、その中で包まれた親子は、まるで何も起こっていないかのように無傷だった。アンヴァーの猛攻の衝撃すら、バリアは完全に吸収していたのだ!
そして、アンヴァーが防御を破れないことに苛立ちを覚えた、その一瞬の隙。
遥か上空から、銀髪の幼女が、まるで流星のように加速し、アンヴァーの醜悪な顔めがけて、**強烈な飛び蹴り(ドロップキック)**を叩き込んだ!
幼い姿からは想像もつかないほどの凄まじい質量とスピード。それは、**この町のヤクザさえ避けて通る**『伝説の喧嘩屋』**の蹴りに、魔法の魔力が上乗せされた、究極の一撃だった!
「テメェの相手は、この俺だあぁぁぁぁぁ!!!」
才牙の強烈な飛び蹴りによって吹っ飛んだアンヴァーは、地面を大きく抉りながら停止した。
巨体を揺らし、よろよろと立ち上がったアンヴァーは、怒りに燃える赤い瞳を才牙(美幼女)に向け、二つ目の口を大きく開いた。口内にエネルギーが収束し、極太の破壊ビームが閃光となって才牙めがけて放たれる!
しかし、才牙は微動だにしない。
「薄くても高性能」なバリアが、ビームを完全に受け止め、衝撃も熱も通さず、一切のダメージなく防ぎきったのだ。才牙の身体には傷一つない。
自身の攻撃が無効化されたことに動揺するアンヴァーに、才牙は容赦なく一気に距離を詰める!
その華奢な手足は、驚異的な速度でアンヴァーに肉薄。ヤクザすら恐れた
**「伝説の喧嘩屋」**の拳に、魔法の力が乗せられる。
「テメェ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
魔力を込めたその小さな拳が、アンヴァーの巨体に真正面から叩き込まれた!
鈍い、そして肉を断つような衝撃音と共に、アンヴァーの体の一部が肉塊となって勢いよく吹き飛び、怪物は耳をつんざくような悲鳴を上げた。
吹き飛ばされ、部位を欠損しながらも、アンヴァーは本能的に才牙への反撃を繰り出す。しかし、その全ては**「紙一重」**で回避された。
それは、魔法による未来予知などではない。何百回、何千回という喧嘩の修羅場を潜り抜けてきた、
**辰宮才牙の生来の天才的な『勘』**だった。
そして、才牙の身体は反射的に動く。回避した直後には必ず、アンヴァーの急所めがけてクロスカウンターのような強烈な一撃が叩き込まれた。攻撃魔法を持たないはずの幼女の拳が、アンヴァーを一方的に嬲りつける!
たまらず距離を取ろうと飛び退いたアンヴァーの背後には、うっっっすい、しかし絶対に破れない膜が広がっていた。
そう、才牙はアンヴァーが出現した際、咄嗟の判断で自分とアンヴァーを丸ごと、巨大なシャボン玉に閉じ込めたのだ!
最強の盾は、今、**絶対脱出不可能な『決戦場』**へと姿を変えた。
才牙(幼女)は、一歩ずつアンヴァーに詰め寄る。その瞳に宿るのは、元の姿に戻るための執念と、純粋な喧嘩師の喜び。
「逃すわけねーだろ…… さあ、タイマンといこうぜ!!」
その迫力に、アンヴァーは意思があるのかわからない巨体を小刻みに震わせた。まるで、力の強い獣を前にした子羊のように。
逃げ場を失ったアンヴァーは、パニックに陥り、闇雲に爪や牙による攻撃を繰り出した。
しかし、全ては紙一重で回避され、その直後には魔力を込めた幼女の拳が、確実に怪物の身体を抉り(えぐり)、破壊する。
アンヴァーは悲鳴を上げながら、何度かその凄まじい攻防を繰り返した末、ついに力尽きて動かなくなった。
才牙は、勝負ありと見てバリア(シャボン玉)を解除する。すると、アンヴァーの巨大な死骸は、あっという間に光の粒子へと変わり、跡形もなく大気中に溶けて消えていった。




