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第22話 妖精と精霊

「とにかく、何としても再度サイカくんと接触し、話し合いの場を設けるわ。彼女をこのままにしておくわけにはいかない。……それと、リンコ」


リンコは空中で一回転して柊の正面に浮き上がった


「なにー? 部長さん」

「サイカくんの契約妖精に心当たりはない? あれほどの規格外の魔法を行使させるのだから、そのパートナーもまた、通常の個体とは一線を画す、高位の存在であるはずよ」


柊は確信していた。妖精界でも王族に近いような、気高く厳格な上位妖精に違いない、と。


「ん〜、同期の連中にも一応聞いてみるけどさ。あのサイカ、あれは多分『オリジン』か『アストラル』の系譜よ〜」

「……やはり、そうよね」


柊が重々しく頷く傍らで、葵が不思議そうに首をかしげた。 「オリジン? アストラル?リンコ、それって何?」

「葵に話したことなかったっけ? オリジンは妖精っていうより精霊なの。七つの原初――火、水、土、風、雷、光、闇を司る、魔法システムの根幹を成す存在。オリジンは私たち一般妖精とは格が違いすぎて、話しかけることすら許されない雲の上の存在なのよ〜、アストラルは私もよく知らないの~なんかめっちゃ大規模な魔法を得意とする妖精よ~」

「へー色々あるんだね」

「おそらく、契約妖精もまた、サイカくんの過酷な運命を案じているはずだわ。妖精側からのコンタクトも視野に入れて捜索を続けなさい」


 一同が了承して、いったん解散となるなか、刹那がふと疑問に思った事をリンコに尋ねる


「妖精にもそんな明確な格とかあんのな」


刹那の言葉に、リンコは齧っていた林檎を「プッ」と吹き出して笑った。


「そだよ〜。私の知ってる一番の『底辺』なんて、バリアしか魔法が使えないんだから! 笑っちゃうわ〜、くすくす!」

「バリアだって便利だろ? 防御は基本だしよ」


刹那の至極全うな反論に、リンコは馬鹿にしたように肩をすくめて見せる。


「えー、だってバリアなんて魔法少女なら誰でも使えるわよ。刹那だって敵の攻撃をガードする時、無意識に展開するでしょ? あれよ、あれ。……あれ『しか』できないの。ただの透明な壁を出すだけ。それしか能がないなんて、妖精失格よ〜」

「え!? あれだけかよ……。予備動作無しで出せるとはいえ、流石にそれだけじゃあな……」


刹那は呆れ果て、天を仰いだ。 魔法少女にとって「バリア」は、あくまで基礎中の基礎。呼吸をするように使う、あって当然の補助手段。それ一点しか得意分野がないというのは、戦場では致命的な欠陥である。


「どうしようもねーな。そんな『外れ妖精』引いちまったら、一生雑魚確定じゃねーか。アンヴァーに食われるのを待つだけだな」

「そうでしょ〜? だからサイカちゃんのパートナーは、絶対にそんな雑魚じゃないわよ。あんな複雑な幾何学模様の結界を張るんだもん。きっと、光の精霊か何かなんだわ〜」



――無事魔法少女科から脱出した才牙は、無事家に帰った

「ただいまー……」


才牙が恐る恐るリビングの扉を開けると、そこには仁王立ちで腕を組み、額に青筋を浮かべた母・龍華が待ち構えていた。


「あんた……一体今までどこで何してたんだい!!」


裏社会の猛者たちを震え上がらせる「伝説の喧嘩屋」も、母の涙混じりの説教には形無しである。 「ごめん、悪かったよ」と小さくなって謝り続け、たっぷり一時間、正座で説教を食らう羽目になった。

ようやく解放された才牙は、風呂に飛び込み、鏡に映る自分の「ゴツい体」を改めて確認して深く安堵した。

風呂上がり、母が用意してくれた山盛りの唐揚げと白米を胃袋に叩き込み、自分の部屋のベッドに倒れ込む。

何故か枕元でくしゃみを連発するチーポを無視し、才牙は意識を手放した。


次の日の朝、才牙がもそもそと起きてくると、才牙の母・龍華は、お玉で味噌汁をよそいながらも、テレビ画面の中を舞う「銀髪の天使」に釘付けになっていた。


「すごいわねぇ。この子のおかげで、私たちの住む第七地区は無事だったのよね……。見てなさいよ、この小さくて細い体で。……本当に立派だわぁ」


龍華の瞳には、一人の都民としての深い感謝と、純粋な憧れが宿っていた。 一方、食卓についた才牙は、気まずそうに顔を伏せ、トーストの端を無言で齧っていた。

自分の「幼女姿」の活躍を、実の母親が尊敬の眼差しで見守り、絶賛している。その事実が、耐えがたい羞恥心となって彼を襲っていた。


「はぁ……本当。あんたみたいな目つきの悪い、粗暴な息子だけじゃなくて――あんな可愛い娘が、うちの家族になってくれないかしらねぇ」

「ぶーっ!!!!!!!!」


才牙は、口に含んでいた牛乳を盛大に吹き出した。


「もー!! 汚いわねぇ!! 何してんのよ、あんた!!」

「わ、悪い……ちょっと、変なとこ入って……」


才牙は、震える手で残った牛乳を飲み干すと、逃げるようにカバンを掴んで立ち上がった。


「学校、行ってくる!」

「ちょっと、本当に朝から騒がしい奴だねぇ。いってらっしゃーい!」

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