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第17話 ドナドナドーナ

才牙は、勝利を叫ぶと同時に、極度の疲労からよたよたとその場にへたり込んだ。

バリアが解かれると、大蛇は光の粒へと変わって消えていく。

これで全てが終わった。後は元の姿に――


才牙は、勝利の安堵と共に、自分の体を見下ろす。

しかし、いつまで待っても変身は解除されない


(あれ……?)


才牙の身体は銀髪の幼き美少女のままだった。


「チーポ?」


才牙が焦って肩を見ると、そこには泡を吹いて気絶している、意識のないキノコの妖精がいるだけ。

契約妖精の離脱。それは、変身を解除できないという、才牙にとって最悪の現実を意味していた。

A級アンヴァーを倒した世界最強の美幼女は、今、血を流し、満身創痍の状態で、群衆の目の前に、幼女の姿のまま取り残されてしまったのだ。

変身が解除されないという最悪の現実に、声を上げそうになり、あわあわと混乱して体勢を立て直し、どこかへ隠れなければと移動しようとしたその瞬間――。


バリアが解かれたことで、外側で待機していた葵と刹那が、一気に加速して才牙の元へ飛んできた。

柊部長からの指令は*「保護」*。

血を流し、へたり込んでいる幼女の姿を見た葵は、悲劇の魔法少女という誤解を確信し、優しく抱きしめるように才牙を確保した。


「はい、確保ー」


才牙は、見知らぬ(しかも女子高生ぐらいの)女性に突然抱きしめられた事と、不意を突かれた驚きで、最高に情けない悲鳴を上げた。


「うひゃあー!!」


その悲鳴は、A級アンヴァー討伐者のそれではなく、ただの小さな女の子のものだった。

刹那は、満身創痍の才牙の頬を流れる血と、その情けない悲鳴を見て、複雑な感情を露わにした。


「なんちゅー悲鳴だよ」


「イカれた戦い方をする度胸があるくせに、これか」という苛立ちと、[やはりただの幼い少女ではないか」という庇護欲の板挟み。刹那は目を逸らしながらも、才牙が逃げないように、そっと手を添えた。

葵は才牙の柔らかな声と小さな体温に、その美しさと儚さを確信していた。


「声も可愛いなぁ」


最強の喧嘩屋・辰宮才牙。 国家規模の脅威を退けた直後、彼は「魔法幼女」の姿のまま、魔法少女たちの腕の中に完全捕獲されるという、人生最大のピンチ(羞恥的な意味で)に直面したのである。

 葵に優しく、しかし逃げられないほど密着して抱きしめられた才牙は、抵抗する気力も、そして幼女の小さな腕では振り払うこともできず、なすがままになっていた。やがて、葵と刹那という見知らぬ二人の女子高生魔法少女に、左右からその小さな手をしっかりと握られ、強制的な「お手繋ぎ」状態で歩かされ始めた。

才牙のパニックは、すでに臨界点を超えていた。 A級アンヴァーをぶち殺した直後、見知らぬ女子に手を握られ、幼稚園児のように引率されている。

これこそが、才牙が人生最大の危機だと認識する状況だった。背筋を凍らせるアンヴァーの咆哮よりも、隣から漂うシャンプーの香りと、握られた手の柔らかさの方が、彼の理性を粉々に粉砕していく。


(あばあばあばあば……助けて助けて助けて助けて……誰か、誰でもいいから!!ち、チーポおおおお!!!!)


頭の中で無限ループする悲鳴。しかし、そんな彼のSOSに応える者はいない。

――チーポは、魂が抜けたような顔で気絶したまま、誰にも気付かれずにその辺に転がっていた


「さぁ、こっちだよー。もう怖くないからね、」


葵が聖母のような微笑みで優しく声をかける。一方、反対側で手を引く刹那は、前を向いたまま、無意識に自分の掌に収まる才牙の手を観察していた。


(……なんだよ、この小さくて柔らかい手。……ちっ、確かに、めっちゃ可愛いなこいつ。反則だろ)


刹那の握る力が、知らず知らずのうちに「逃がさないため」ではなく「壊さないため」の優しさに変わっていく。

変身解除という唯一の脱出手段を絶たれた才牙。 彼はもはや、アスファルトの上を歩く自分の小さな足音を聞きながら、完全な絶望と共に、魔法少女科の巨大な施設へと連れ去られていく。

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