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第14話 災厄の顕現

一方、世界政府直属魔法少女科日本支部は、今、蜂の巣をつついたような騒がしさに包まれていた。


A級以上のアンヴァーの到来を予知できる希少な『隔絶魔法』の使い手が、第七地区にA級アンヴァーの現界を予知したのだ。 A級――それは、過去には一つの国家が壊滅するレベルの被害を出したこともある、歩く戦略兵器。


柊部長は、自室のデスクを拳で叩きつけた。


「まずいぞ! 今、第七地区で対応できる魔法少女の戦力では、A級の侵攻を食い止めるのは不可能だ!」


「とは言え部長、第七地区は人口密集地です。防衛ラインを下げれば被害が甚大に……!」


部下が焦りの声を上げる中、柊は苦渋の決断を下す。


「くそ……! 今、向かえる魔法少女を全員出撃させろ、各国に救援要請も忘れるな。いいか、決して無理はさせるな! 住人の避難を完了させるための『時間稼ぎ』に徹するんだ!」


「命を削っている」と誤解しているあのノーマッド(才牙)を保護する計画は、このA級出現により完全に狂わされた。柊は、「自らの死を厭わないあの娘」がこの災厄に遭遇すれば、間違いなく命を燃やし尽くして心中を図るだろうと確信し、冷や汗を流していた。


「A級アンヴァーに遭遇する前に、どうにかして保護しなければ」


降臨:絶望の巨体


先ほどまで爽やかだった空気は突如として重苦しく澱み、晴天は墨を流したような暗雲に覆われた。 そして――バリバリと空間が裂ける轟音と共に、次元の裂け目からB級とは比較にならない巨躯を誇るアンヴァーが、この世界に這い出した。


その姿は、これまで才牙が倒してきた「怪物」の範疇を遥かに超えた、「災厄そのもの」。


顕現と同時に放たれた咆哮は、第七地区全域を揺るがし、避難を急ぐ住人たちの心を粉砕した。 駆けつけ、避難を誘導していた正規の魔法科の職員達ですら、その威容を前に足を止めて立ち尽くす。誰もが直感していた。この地区は、今日、地図から消えるのだと。


――そんな、絶望が支配する戦場。 空中に、その山のような怪物の眼前に、まるで豆粒ほどの大きさの銀髪の幼女が浮いていた。


才牙は、その巨大な敵を見上げて、震えていた。……だが、それは恐怖ではない。 裏社会を力で統べた喧嘩屋の闘争本能が、かつてない強敵を前にして、極限まで刺激されたのだ。


「うおー、でけー! 今までのはただの前座だったな!!」


才牙の強靭な闘志とは裏腹に、パートナーであるチーポは完全にパニックに陥っていた。


「A級やんけ!?!? 冗談やろ!? に、に、逃げるで才牙! 今すぐ逃走や!! 死ぬで!!」


チーポは目が点になり、泡を吹かんばかりに喚き散らす。


「はあ? 逃げるわけねえだろ!とっととこいつをブッ倒して、俺は母ちゃんと服買いに行くんだよ。」


逃げることしか頭にない妖精と、ブッ倒すことしか頭にない「魔法幼女」。

世界が注視する中、史上もっともミスマッチなペアによる、規格外の「決戦」が始まろうとしていた


――伝説の八岐大蛇を思わせる複数の首を持つA級アンヴァーは、その内の一つの首に急速にエネルギーをチャージし始めた。集束する魔力は周囲の空間を歪ませる。

 次の瞬間、街の数ブロックを一瞬で消滅させるほどの極太の熱線レーザーが放たれる!まともに食らえば、背後の市街地は文字通り地図から消える。 しかし、その光の濁流は、空中に浮く才牙が咄嗟に展開した「うっっっすいシャボン玉」のバリアに衝突し、霧散した。「薄くても最高性能」。チーポによる契約の加護がもたらすその絶対防御は、物理的質量だけでなく、収束された純粋エネルギーの奔流すら完全に遮断した。熱線はバリアの表面を滑るように四散し、街は無傷のまま守られた。


A級アンヴァーは、目の前の*「豆粒」*に自慢の一撃を阻まれた事実が理解できず、小首を傾げるようにして、再び別の首でチャージを開始した。その視線は、才牙ではなく、より大きな破壊対象である「街」に向けられている。


――その瞬間、才牙の血管が怒りでブチ切れた。――


(俺は、てめぇの目の前にいるだろうが……!!!!)


強制的に幼女化させられ、選択の余地なく戦場へ放り込まれ、ポイント稼ぎの道具にされている。そんな鬱憤が澱のように溜まっていた才牙にとって、真正面から喧嘩を売っている相手に無視されることこそ、最大の屈辱だった。


「……てめぇ……今、俺を無視したな?」


才牙は、怒りの咆哮と共に空中を蹴った。魔力によって極限まで強化された速度が、音速を超えてチャージ中の首へと肉薄する。


「このデカブツがぁ!!」


魔力を右拳に一点集中させ、螺旋を描くような渾身のアッパーを叩き込んだ!


ドゴォォォォンッ!!!


山が砕けるような轟音が響き、A級アンヴァーの巨大な体が、その一撃だけで数メートル浮かび上がった。物理法則を無視した圧倒的な衝撃。アンヴァーの全ての首が、同時に驚愕の悲鳴を上げる。

そして、才牙はすかさず「いつもの」戦術を展開した。 才牙の身体を中心に、凄まじい勢いでスカイブルーの薄い膜が膨れ上がる。それはアンヴァーの巨体をも瞬時に飲み込み、巨大なドーム状の壁を形成した。

災厄と、世界最強の美幼女。 その二者以外、誰も入れず、外へ衝撃を逃がすことも許されない、**絶対脱出不可能な『決戦場ケージ』**の完成。

バリアの内側で、才牙の幼い姿から放たれる声は、地を這うような怒りと闘志に満ちていた。


「さあ……タイマンの時間だ!!!」


A級アンヴァーという絶望的な災害に対し、一人きりで拳を固める魔法幼女。 苛烈な一騎打ちが、今、幕を開けた!

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