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第12話 お昼の情報番組

才牙が自室の布団にくるまり、「もう明日から学校行けねぇ……退学届ってどうやって書くんだ……」と絶望の淵を彷徨っている裏で。 世間は良くも悪くも、『謎の魔法幼女』の話題で持ちきりだった。


昼の情報番組――主婦層やリタイア世代が視聴するお茶の間のゴールデンタイム。そこでは才牙の戦闘動画が延々とループ再生され、コメンテーターたちがさも知った風な顔で議論を交わしていた。


「それにしても、綺麗な娘ですよねぇ! 見てください、この銀髪。風にたなびく姿が本当に儚くて……。衣装もボロボロだし、なんだか胸が締め付けられます。護ってあげたいですよね。実際は、彼女に護られたわけですけど……」


女性キャスターが感極まった様子でモニターを見上げる。その瞳には、すでに才牙(の中身が喧嘩番長であることなど露ほども知らない)に対する「聖女」への憧憬が宿っていた。

だが、議論はすぐに「倫理」という名の泥沼へと引きずり込まれる。


「しかしですね、問題はそこじゃないんですよ。魔法科によれば彼女は未登録の『ノーマッド』だ。こんな幼い子に命懸けの戦闘を強いる妖精界の倫理観は、一体どうなってるんでしょうか? 私は断固として、妖精界と妖精達に、このような無責任な契約に抗議したいですね!」


視聴者の代弁者として鼻息を荒くする男性コメンテーター。その隣にゲストとして座っていた、頭部が星のようなシルエットをした妖精コメンテーターは、どこか他人事のようにケラケラと笑い声を上げた。

「はっはっは! 妖精にとって契約者は、何万光年の孤独の果てに出会う『⭐️運命の相手⭐️』なんだ。一度見つけたら、性別も年齢も関係なくロックオン! 誰にも止められないのさ⭐️」

「あなたねぇ……! 運命だなんだと、誘拐犯みたいな理屈で子供を戦場に送るなと言っているんだ!」

「いやー、熱いねぇ。でも、 魔法は『ディスティニー』なんだよ⭐️」

「なんなんですか!まったく、もっとマシな妖精は呼ばなかったんですか?」

「……ははは(乾いた笑い)妖精のコメンテーターを募集して、ちゃんと時間通りに来たのが、<ホッシミー>さんだけだったんですよ。…まあお二方そこまでにして頂いて!」


キャスターの引きつった笑みが画面を支配する。世間は才牙を「守られるべき悲劇の美少女」として勝手に祭り上げ、その一方で、「力の源である妖精界」に対して、拭い難い不信感と怒りを募らせていく。

 番組の議論は、現代社会を生きる市民なら誰もが知る基礎知識へと移っていた。


「でもでもー! 魔法少女って変身してるんでしょ? 本当は正体、おばさんかも! 何なら男性のおじちゃんだったりして!? 正体不明のノーマッドならありえるかも!」


お馬鹿担当の女性タレントが、バラエティ特有のノリで的外れな憶測を投げかける。スタジオに失笑が漏れる中、常識派の男性コメンテーターが、メガネのブリッジを押し上げながら冷ややかに否定した。


「これだから教養のない人は困る……。いいですか、魔法少女の変身は『魔力によるポテンシャルの発現』であって、『別の個体への作り変え』ではない。変身後も実際の少女と姿形は大きく変わらない。これは魔法科学の基礎中の基礎ですよ? ねえ、妖精さん?」


話を振られた星型の妖精は、視聴者に「世界の理」を再確認させるように、短い手足をパタパタと動かした。


「そだねー! “僕たち妖精”にそんな力はないからね! だって、大幅に姿形を変えるなんて、どれだけ莫大な魔力をロスすると思ってるんだい? 骨格から作り直すなんて、力の無駄だよ⭐️」


それは、すべての妖精、そして全ての人類が共有する揺るぎない常識だった。 魔法少女とは、少女が「戦うための装束」を纏い、「身体機能を底上げ」された状態に過ぎない。美しさは魔力の影響で多少磨かれることはあっても、身長や骨格、ましてや性別そのものを反転させるなど、魔法理論の範疇を超えた領域の話なのだ。


「おじさんを美少女になんて面白いことが出来たら、そこらじゅうの妖精がやってるよ⭐️ 僕だって、そんな面白い事ができたら、そこら中のおじさんを美少女にしちゃうよ!!」

「うぅ、悪夢です……やめてください><」


お馬鹿タレントが肩をすくめ、スタジオはドッと笑いに包まれる。 テレビの向こう側で繰り広げられる「常識」の確認。それは、この世界の理だった


「ではCMの後は、今をときめく魔法少女とアイドルの二足の草鞋、*天音遥あまねはるか*さんに密着です! 彼女の華麗な変身シーンもたっぷりお見せしますよ!」


テレビの中の話題は、軽快な音楽と共に番組はCMへ切り替わった。

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