表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実主義者は勇者を辞めたい〜回帰嫌いで倫理観のない背徳者は好き勝手に暴れます〜  作者: 原カラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

1話 最初の始まり

 放課後の教室は、静かだ。

 窓の外では夕焼けが校舎を染め、環境音程度に聞き流せる蝉や部活に勤しむ生徒の声が遠くから響いている。

 夏休み前の7月、梅雨の時期で空気は少し湿っていて、机の上のプリントがぺたりと汗ばむ肌に貼りつく。


「……はぁ。」

「部活もバイトもないのに、なんか疲れるな。」


 伊藤龍輝はペンを置き、ノートを閉じた。

 テスト勉強のために残っていたが、集中力はもうゼロだ。


「今の時点で8〜9割は取れるだろうけど、ここからもっと詰めるのは勉強時間を考えると効率悪いよなぁ…」


 良くない癖だ。

 俺は俺自身に必要な努力は出来る。

 だがそのラインを超えると反比例してるかのようにやる気がなくなってしまう。

 努力にかける時間と伴う結果を天秤にかけ、釣り合わないと判断してしまうんだ。

 8〜9割を取っておけばそこそこの大学の推薦を貰える。


「これ以上やるのは時間の無駄…」


 そう独り言が漏れて苦笑する。

 家に帰ったっていつものようにゲームをして漫画を読んで、ベッドで惰眠を貪るのだから。

 "時間の無駄"と称しておきながら、そんな無駄そのものの毎日を送っているのだから。

 時間をお金で買える事があってもお金を惜しんで買わないほどの怠惰だ。


「報われる保証のある努力しかできないのは何もできないと同義かもな。」


 そんな憂鬱なぼやきを虚空に吐いていた瞬間だった。


 教室の空気が――揺れた。

 風でも地震でもない。

 ただ、空間そのものが“ずれる”ような感覚。

 次の瞬間、視界が白く染まる。


「……は?」


 反射的に立ち上がる暇もなく、光が視界を埋め尽くした。

 耳の奥で、何かが弾けるような音。

 そして――世界が切り替わった。


 目を開けると椅子に座ってたはずの俺は床に手をついて座り込んでいた。

 似たような床を見たことがある。

 少し高級なホテルの床。

 なんだっけか―――そうだ、大理石だ。

 先程まで見ていた馴染みのある机から、移り変わる視界に戸惑いを隠しきれないが周囲を見渡してみる


「……………」


 高い天井。

 見たこともない紋章の描かれた壁。

 各地に散りばめられているのは一目で高価だとわかる装飾。

 過去に一度だけ旅行で行ったことのある、ベルサイユ宮殿の王室礼拝堂に近いか?これは。

 周囲には、俺の周りを広く囲むようにローブを着た老人たちが立っており、鎧を着た兵士たちは各々の両手剣やハルバードを持ったまま静かに…だが確かに喜びを表している。

 そしてあからさまな玉座に座っている年老いた者と俺の目の前にいる金髪の同い年くらいの少女。


「…ここは、どこですか……?」


 俺はそれだけを言った。

 本当はわかっていた。

 俺だって漫画やアニメは人並みに好きだ。

 だからこそこんなお約束展開(テンプレ)

 今の状況を理解するには充分すぎる材料だった。


「ようこそ、勇者様!」

「あなたは神の導きによって召喚されました。この世界を救う使命を持つ、“選ばれし勇者”です!」


 金髪の少女は口を開くと高らかにそう宣言した。

 大人とそう変わらない体型だが雰囲気に幼さが残る、俺とそう歳は離れていないだろう。

 透き通るような白い肌と、宝石みたいな青い瞳、その容姿は日本人ではない。


 「状況がいまいち理解しきれないですね。」

 「もう少し詳しいことを教えて欲しいです。」

 「まず、ここはどこですか?」」


 初対面であれば敬語を使うのが丸い。

 不用意なトラブルを避けることができる。

 なにより兵士の装備を見れば最悪の場合、無礼を働けば脅かされるのは俺の命になる。


「私たちに敬語は必要ありませんよ。」

「ここは勇者様から別の次元の世界。いわゆる、異世界のようなところです」


 その様子を見て、龍輝は頭の中で状況を整理し始めた。


 ……なるほど。言葉は聞き取れるし通じてる。

 自動でかかる翻訳か何かか?

 それともテレパシー系?

 俺の服も変わってるな。

 制服じゃなくて……簡単な防具。

 皮のような素材出てきた服に胸や肩、膝肘などの大切なところのみに金属プレートが付けられている。

 召喚時に付けられたのか?


 思考は人より速い。

 驚くよりも、先に“仕組み”を考える。

 それが伊藤龍輝という人間の特徴だった。


「それじゃ遠慮なく…ここはなんて国なんだ?」


「我らが〈リシア王国〉でございます」

 答えたのは、玉座に鎮座している初老の男――おそらく王だ。

 立派な髭をたくわえ、威厳のある声で続ける。


「勇者よ、どうか我らをお救いください。魔王が再び力を取り戻し、人々を苦しめております」


 やはり俺が予想した通りのテンプレ。

 状況は理解できた。

 焦るのは無駄だな。


「勇者様。恐れながら、お名前をお聞かせください」


「伊藤龍輝。17歳」


「そうですか…そうですか…」

「お若いのにこのような重圧のかかる役割を任せてしまって…本当に申し訳ない。」


 国王は深々と頭を下げる。

 幸い、この国は勇者に対して好意的なようだ。

 これならまずは情報収集からだな。

 立場を利用できるなら、利用する。

 それが現実的だ


「勇者様、ステータスオープンと口に出してください。」


 よくあるラノベのワンシーン。

 最早、何も言うまい。


「ステータスオープン」


そう口に出すの目の前にディスプレイのような青色で半透明の画面が出現した。


【名前:伊藤龍輝】

【職業:勇者候補】

【レベル:1】

【スキル:冷静Ⅱ/現実主義Ⅱ/戦略思考Ⅰ/損益計算Ⅰ/心理操作Ⅰ】


「勇者様、職業やスキルは見えますか…?」


「職業?スキル?あぁ、勇者でⅡのついたスキルが2つ、Ⅰのついたスキルが3つあるな。」


 そういうと周囲はざわめいた。

 最初からレベル2のスキルがあるだとか複数のスキルを持ってるだとかそんなことを言い合っている。

 この世界において最初からこれは破格の能力のようだ。


「素晴らしいです!あなたは間違いなく魔王を倒せる才能があります!」


 そんな称賛を横目に俺は考える。

 スキルに戦闘関係がない。

 いや、わかっている。

 格闘技もやったことのないただの高校生。

 本人のスペックが反映されるなら正しいだろう。

 もちろん、ここの奴らにわざわざ言わないが。

 もしこの世界がゲーム世界のようなルールで動くなら、これほどまでにない()()()()()


 そんな思考を巡らせながらこの世界でファンタジーとは思えない現実的な交渉を始める。


「まず聞きたい。」

「俺が魔王を討伐するにあたって、この国はどんな支援を俺にしてくれるんだ?」

「武器や防具、情報、金銭でもなんでもいい、リシア王国として勇者へできる最大限のサポートについて教えて欲しい。」


女王は目を丸くする。


「……ほ、報酬?」


 そこから説明が必要なのか…


「いや、戦うからには対価が必要でしょう?」

「それに魔王を早く討伐するためにも俺1人の力だけでは限度がある。」

「お互いの関係はもちろん、魔王討伐のための報酬だ。」


 先程まで歓迎ムードだった城内は一気に重苦しい雰囲気になる。

 国王が言葉に詰まり、王女が困ったように笑う。


 龍輝は本気だった。

 命を懸ける以上、合理的な契約が必要だ。

 だが周囲の反応を見るにあまりいい反応ではない。

 俺に対して協力的で丁寧な対応を見るにケチってるわけではなさそうだし……この国の財政状況はあまりよくないのかもしれない。

 それを踏まえた話し合いが必要そうだ。


「それじゃあ、ゆっくり話し合って報酬を整理したら動くよ。」


「ゆ、勇者様!お待ちを!今は一刻を争うのです!」


「いやいや、“一刻を争う”って、だいたい口癖だろ?」

「お互い譲歩し合えばすぐ終わるって。」


 龍輝は軽く笑った。

 笑いながらも、頭の中ではすでに思考を巡らせていた。

 こんな茶番に脳のリソースを割くのは勿体ない。


 勇者システム……スキル……魔王……

 この世界、テンプレにも程がある。

 まるで誰かに何か“設計”されてる匂いがする

 不自然すぎる。

 それに…勇者()()


 思考が進めていった時にふと、背筋に寒気が走った。

 ここの者たちとは違う、品定めするような視線を一瞬だけ感じた。

……なんだ? 今の。

 違和感は確かにあった。

 まるで、誰かに“観察されている”ような感覚。


 しかし、考えても答えが出ないことであるがゆえにこの事象については心の中に留めて警戒しておくことしかできないのだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます(_ _)

1〜2週間で投稿と前回言ってたのですがリアルとの兼ね合いもあってギリギリ超えてしまいました…

数話分、書き溜めておけばよかった…なんて後悔を1話時点で既にしておりますが、もう遅いですね…笑

また次回の投稿は1〜2週間後とさせていただきます。



気に入った方はブックマークや☆をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ