36話〜悪夢〜
36話〜悪夢〜
異世界へ召喚された日。
そしてクラスメイト達に裏切られた日。
俺はあの日の事を夢を見ていた。
「クラフト?ハズレスキルじゃん」
クラスメイトから言われた一言。
ハズレスキル。
俺は勇者候補として、異世界召喚された、クラスメイト達はほとんど戦闘に役に立つスキルを持っていた。
だが、俺のスキルはクラフト。
戦闘には関係ないスキルだった。
「黒瀬海斗。君は戦闘に向いていない、よってこの城から追放する」
王様から冷たい声で告げられた言葉。
俺は目の前が真っ暗になった。
夢の中ではなぜか彩音はクラスメイト達に加担していて、俺を蔑むような視線を向けている。
クラスメイト達と一緒に笑っている。
そんな夢だった。
嫌な夢だ。
俺は夢の中で泣いていた。
俺は汗びっしょりになりながら目覚めた。
俺は夢だと悟る。
「あれ……」
そして自分が泣いていることに気づいた。
(久しぶりに見たな……この手の夢)
俺は布団を被って泣いた。
(もう昔のことじゃないか……)
そう言い聞かせても涙が溢れて止まらない。
俺はあの時のトラウマで未だに元クラスメイトと接するのが怖いのだ。
(ダメだな……俺は……)
そんな時寝室に彩音がやって来た。
「どうしたの?大丈夫?」
彼女は優しく声をかけてくれた。
「ああ……大丈夫だ……」
俺は平静を保とうとしたが無理だった。
「嘘!何があったの!?」
彩音は心配そうに尋ねる。
「少し昔のことを思い出しただけだよ……」
俺は無理やり笑顔を作ろうとしたが上手くいかなかったようだ。
「本当に?」
彩音は疑うような目を向けている。
「ああ……本当に何でもないよ……」
俺は強がってしまう。
「あたしには話せないことなの?」
彩音は悲しそうに訊ねてくる。
「……」
俺は答えに詰まる。
「ごめんね……無神経だったね……」
彩音は謝ってくれる。
「いや……違うんだ……」
俺は必死になって弁解する。
「何があったのか教えてほしいな……」
彩音は真剣な眼差しで見つめてくる。
「……」
俺はしばらく沈黙していた。
「あたしじゃダメ?」
彩音は不安げに訊ねる。
「そんなことはない……ただ……」
俺は口籠る。
「ただ?」
彩音は続きを促す。
「恥ずかしいんだよ……」
俺は小声で呟く。
「どうして?」
彩音は不思議そうな表情をしている。
「昔の話をすると……」
俺は言葉を選ぶように話す。
「過去の話をするのが恥ずかしい?」
彩音は確認するように復唱する。
「そういうわけじゃないんだけど……」
俺は曖昧に返事をする。
「じゃあどうして?」
彩音はなおも追求する。
「……彩音も知ってるだろう?この異世界に召喚された時の事。久しぶりに悪夢を見たよ、クラスメイトから役立たずのハズレスキルだと罵られたのを」
俺はそう言ったあと
「ごめん。やっぱり忘れてくれ」
俺は立ち上がって外に出ようとする。
「待って!行かないで!」
彩音が呼び止める。
「ごめん……今は一人にさせてくれ……」
俺は振り返らずに告げる。
「あたしはどこにも行かないよ……だってずっと側にいるって約束したよね?」
彩音は後ろから抱きしめてきた。
俺は抵抗せずにそのままの状態でいることにした。
「ありがとう……でも本当に大丈夫だから……」
俺は弱々しい声で答える。
「嘘つき……」
彩音は拗ねたように呟く。
「嘘なんてついてない……」
俺は否定する。
「嘘だよ……だって震えてるよ……」
彩音は指摘してきた。
「そっか……」
俺は自嘲気味に笑う。
「怖いんでしょう?あたしがいなくなることが……」
彩音は核心を突く質問をする。
「…………」
俺は沈黙する。
「図星みたいね……」
彩音は微笑む。
「……そうだよ……」
俺は観念したように認める。
「やっぱりそうなんだ……」
彩音は嬉しそうにする。
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
俺は疑問に思う。
「だってあたしと同じ気持ちだってわかったから」
彩音は理由を述べる。
「どういう意味?」
俺は理解できない。
「そのままの意味よ……」
彩音は言い切る。
「よくわからないな……」
俺は困惑する。
「わかんなくていいよ……今はね……」
彩音は謎めいたセリフを言う。
「そうなのか……」
俺は納得する。
「それよりもこっち向いてくれる?」
彩音はお願いする。
「ああ……」
俺はゆっくりと向き合う。
「海斗……怖がらなくても大丈夫よ……あたしはずっとあなたのそばにいるから……」
彩音は優しく語りかける。
「彩音……ありがとう……」
俺は感謝の言葉を伝える。
「海斗が落ち着くまでこうしてあげるね……」
彩音は頭を撫でてくれた。
「彩音の手暖かい……」
俺は呟く。
「ふふっ……そうでしょ?」
彩音は得意げにする。
「なんか落ち着くよ……」
俺はリラックスする。
「それならよかった……」
彩音は安堵のため息をつく。
「彩音のおかげだよ……」
俺はお礼を言う。
「どういたしまして……」
彩音は控えめに笑う。
俺と彩音はその後、たまには村の外で散歩でもしようと2人で手を繋いで歩きだした。
だが、俺達は後悔する。
まさか会いたくない奴らと会うことになるなんて。