32話〜彩音先生〜
32話〜彩音先生〜
白衣の天使は朝食を作ってくれていた。
もちろん彩音である。
「海斗おはよー!」
俺は夢の余韻から目が覚めて正気に戻る。
彩音が料理をしている姿を見て胸の奥底から湧き上がる感情に支配される。
俺は彩音に近づく。
「海斗?どうしたの?」
彩音は不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「抱き締めたい」
俺は彩音に言う。
「え?いきなり?」
「ダメか?」
「ううん……良いよ!」
俺は彩音を強く抱き締めると唇を奪う。
彩音は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに受け入れてくれた。
「……もう……朝っぱらから〜!」
彩音は顔を真っ赤にして抗議する。
「悪い……なんか急に我慢出来なくなったんだよ……」
俺は彩音に謝罪する。
「しょうがないな……許してあげる」
彩音は頬を膨らませて拗ねる演技をする。
俺は彩音にキスをする。
「ちょっ!もう!」
彩音は再び怒った顔になる。
「ごめんごめん」
俺は謝る。
「もう!朝ご飯冷めちゃうでしょ!」
彩音は怒っているが満更でもないようだ。
「わかったよ……いただきます」
俺は彩音の手料理を食べる。
食事を終えると俺は彩音に質問をする。
「彩音はさ……俺にどうしてほしい?」
「どうしてほしいってどういう意味?」
「例えばさ……俺と夫婦みたいに暮らしたいとか……そういう希望があるんじゃないかと思ってな」
俺は彩音に尋ねる。
「うーん……特にないかな」
「そうなのか?」
「うん。海斗と一緒に居られるだけで幸せだから」
「そっか……。でも将来はどうするつもりなんだ?」
「えっと……まだ考えてないけど……とりあえず今の生活を続けたいと思ってるよ」
「わかった……。まあ焦らずゆっくり考えていけば良いよな」
「そうだね!」
俺は彩音の頭を撫でる。
彩音は気持ち良さそうに目を細める。
俺は彩音に一つ聞き忘れていたことがあったのでそれを聞くことにした。
「一つ聞いてもいいか?」
「なに?」
「なんで俺の事を好きになったんだ?」
「前も言ったけど秘密〜って言っても理由なんてないよ。ただ好きになったんだもん!」
「そうなのか……」
「うん!それに海斗が優しかったし……カッコよかったから……」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
俺は彩音を抱き寄せる。
彩音は顔を赤くして俯いている。
「あっそうだ!海斗に見せたいものがあるの!」
「見せたいもの?」
「うん!ちょっと待っててね!」
そう言うと彩音は寝室の方へと消えて行った。少しして戻ってきた彩音は手に何か持っていた。
「はいこれ!プレゼント!」
俺は彩音から受け取った物を見てみるとそれは小さな箱だった。
「開けてもいいか?」
「もちろん!」
俺は包装紙を開けると中にはネックレスが入っていた。銀色のチェーンの先端には丸い金属製の輪っかが付いている。
「これは?」
「えっと……私が作ったんだ。海斗に似合うと思って……」
「ありがとう。大事にするよ」
俺は彩音を抱きしめる。
こんな素敵な日々俺にはもったいない。
それから、俺は工房へと向かい白衣の作製の続きを始める。
彩音のサイズ測定のおかげで完璧な仕上がりになりそうだ。
俺は彩音のために最高の服を作ると決意して作業を続けていた。
「海斗ー?まだかかりそうなのー?」
「あともう少しだから待っててくれ!」
「はーい」
彩音の声が聞こえる。
俺は集中力を高めて最後の工程に取りかかる。
俺は完成したばかりの服にアイロンをかけて皺を伸ばすと畳んで袋に入れるとリビングへ持っていった。
「お待たせしました」
「わあ!すごい!さすがあたしの彼氏様!」
「喜んでくれたら幸いだよ」
「うん!最高だよ!早速着てみていい?」
「ああ……」
「じゃあ着替えてくるね」
彩音は嬉しそうにスキップしながら寝室へ入っていく。
俺は紅茶を淹れるとソファに座りながら彩音を待つことにした。
しばらくして彩音が出て来る。
「どうかな……?」
彩音は恥ずかしそうに聞いてくる。
「すごく似合ってるぞ!可愛らしいよ」
「本当!?やったぁ~!!」
彩音は飛び跳ねて喜んでいる。
「海斗ー!」
彩音がこちらに来て抱きつく。
白衣を着た彩音は凄く似合っていた。
「それではお医者さんごっこを始めます」
彩音は真剣な表情で俺を患者に見立てて診察をする。俺は彩音の迫真の演技にドキドキしながら見守っている。
「それでは……問診を始めます……」
彩音は俺の服を脱がしていく。
「ちょっ!?彩音!?」
「静かにしてください……」
彩音は有無を言わせず俺の服を剥ぎ取る。
そして上半身裸になった俺に対して診察を続ける。
「脈拍正常……血圧良好……体温三十六度二分……異常なしですね……」
コスプレスキルのおかげであろうかまるで彩音はお医者さんのようになっていた。
「少し太りましたね」
「幸せ太りだ」
「ちゃんと食べて運動しないといけませんよ!」
彩音は俺のお腹を摘む。
「ひゃっ!そこ触っちゃダメだろ!」
「次は……聴診器はないので耳を使います……失礼します……」
彩音は俺の胸板に耳を当てる。
「海斗の鼓動を感じます……ドクンドクンって……私のも聞こえますか?」
彩音の心臓の音が聞こえる気がした。
「うん……わかるよ……」
「よかった……。それでは胸部の音を聴かせてもらいます……」
彩音は俺の心臓の上に当ててきた。
そしてそのままじっとしている。
「海斗の胸……暖かい……」
彩音は俺の胸に頬擦りをしてくる。
俺はそんな彩音が愛おしくて頭を撫でてやる。
彩音は満足したのか俺から離れると今度は俺の額に手を当てる。
「熱はありませんね……」
「当たり前だ」
俺は呆れながら答える。
「最後に海斗の口の中を見せて下さい……」
「こうか?」
俺は大きく口を開ける。
「海斗の舌を見ててね……」
彩音は俺の口に指を入れてきた。
「んっ!?」
突然の事に戸惑っていると彩音は俺の舌を弄くり回す。
俺はあまりのくすぐったさに悶え苦しむ。
「ふぇぇ〜……」
彩音は俺の口から手を抜くと唾液まみれになった指を舐める。
「海斗の味……」
彩音は妖艶な笑みを浮かべる。
俺は背筋がゾワゾワとした。
「ふぅー、ごめ〜ん!コスプレしてみたけどお医者さんになるのは無理みたい〜」
「だろうな」
「でも楽しかったよ!またやってくれる?」
「気が向いたらな……」
俺は彩音の頭をポンポンと軽く叩く。
彩音は俺の胸に顔を埋める。
「ねえ海斗……」
「なんだ?」
「キスしたいな〜」
彩音は上目遣いで俺を見上げてくる。
俺は彩音を抱き寄せて唇を重ねるのだった。