26話〜2人の距離〜
26話〜2人の距離〜
俺はその場で呆然と立ち尽くしていた。
辺りはすっかり暗くなり。
月が雲に隠れてしまい辺り一面真っ暗闇となっていた。
「……」
俺は何も考えることができないまま家路についたのだった。
白石さんは帰っているだろうか?
「白石さん……」
家に入ると白石さんが居た。
彼女はテーブルの椅子に座り下を向いている。
そして……彼女は泣いていた。
「……」
無言のまま俯いて泣いている。
俺はそんな彼女の姿を見ていられなかった。
俺が悪いんだから……
「白石さん……ごめんな……俺…」
「……」
彼女は何も答えない。
ただ黙って涙を流しているだけだ。
俺はゆっくりと彼女に近づく。
「白石さん……本当にゴメン」
俺は謝る事しかできない。
俺は最低だ……
「どうして……謝るの?」
ようやく口を開いた。
しかし声は震えておりとても弱々しいものだった。
「だって……俺…白石さんの気持ちを踏み躙ったんだぞ?……傷つけて……ごめん……本当にごめん……」
「…………」
「……許してくれとは言わない。だけどこれだけは信じて欲しい。俺はお前を傷つけたくはなかった」
「…………」
「お前が俺の事を好きと言ってくれた時は凄く嬉しかった。俺なんかを好きになってくれてありがとう」
「…………」
「でも……俺はお前の事を幸せにできる自信がないんだ!……俺と付き合ったらお前が不幸になるかもしれない!……だから俺は……」
「……違う!」
白石さんは顔を上げて否定した。
「……何が?」
「あたしは黒瀬と一緒だったら幸せになれるよ!絶対!!」
「だから……」
「お願いだから振らないで」
白石さんはまた泣き始めた。
俺はそんな彼女を慰める事もできないまま立ち尽くしていた。
「……分かったよ」
白石さんは涙を拭きながら立ち上がった。
そしてそのまま家を出て行った。
一人残された俺は天井を見上げていた。
これからどうすればいいのだろう?
その後、村長が俺の元へ来た。
白石さんはしばらく村長の家に住むらしく帰らないと。
そして、村長は帰り際に俺に言った。
「意気地無しの小僧じゃお前は、彩音ちゃんの事を思うのであるならば行動で示すのじゃ」
そう村長は言った。
俺はその言葉を聞き終わると膝を落として項垂れていた。
「分かってるよ!……それくらい……でも……怖いんだ……彼女を失うのが……彼女がいなくなると思うと身体が震えるんだ……どうしようもなく怖いんだ……」
俺は自分の無力さを痛感していた。
翌日の朝を迎えたが彼女は帰ってこなかった。
俺は工房に行き作業台に向かって座った。
俺は何をするべきなのか?何をすべきなのか?考える。
しかし答えが出ない……
そんな時だった。
俺はあることに気づいた。
俺は白石さんの事を何も知らないんだ。
俺が知っているのは名前と性格ぐらいだ。
もっと白石さんの事を知らないといけないのかもしれない。
そのためにはまず彼女を知る必要がある。
そう思い立った俺は彼女を探す為に動き出した。
「ここにもいないのか……」
村中探したけれど白石さんの姿は見つからない。
「やっぱり見つからない……」
仕方なく家に戻ると家の前に村長がいた。
「彩音ちゃんなら森の方へ行ったぞ」
「本当ですか!?」
「あぁ。おそらく湖に行ったんだろうな」
「ありがとうございます」
早速湖の方へ行くことにした。
湖に到着するとそこには白石さんがいた。
「白石さん……」
彼女はこちらに気付いて振り向いた。
「何しに来たの?」
冷たい口調で言われる。
「その……話し合いをしたくて……」
「嫌よ」
即答される。
「どうしてだ?」
「あんたなんかと話すことなんてないわよ!!」
彼女は怒鳴りつけてきた。
「そんな事言わないでくれ」
俺はなんとか説得しようと試みるが彼女は聞く耳を持たない。
「近寄らないで!」
彼女は俺から離れようとする。
「待ってくれ!」
俺は慌てて呼び止める。
「何よ!」
彼女は再びこちらに向き直る。
「話を聞いてくれ!」
「だから嫌だって言ってるでしょ!!」
「頼むから俺の話を聞いてくれ!!」
俺は必死になって訴えかける。
「どうしてそこまでして私の事を気遣うの?」
「えっ……!?」
予想外の質問に戸惑ってしまう。
「私は黒瀬にとって邪魔な存在なんでしょ!?だったら放っておけばいいじゃない!私と関わりたくないなら関わらなければいいじゃない!!」
「邪魔なんかじゃない!俺にとって大切な存在だからこそ大事にしたいと思ってる!」
俺は自分の思いを正直に伝えることにした。
「嘘つき!!」
「嘘じゃない!」
「だったら……」
白石さんは一呼吸おいてから言う。
「どうして私から逃げたの?」
「それは……」
「ほらね!やっぱり嘘つき!」
彼女は笑い出す。
俺は悔しくて拳を握り締める。
「違う!確かに逃げたかもしれない。それは認める。でもそれはお前を失いたくなかったから!好きだから……好きすぎてお前が近くにいると変になりそうで怖かったから!それで……」
「……」
白石さんは黙ってしまった。
そしてしばらく沈黙が続いた後彼女は口を開く。
「嘘じゃない?」
「あぁ……本当だ。俺はお前が好きだ!」
俺は勇気を振り絞って自分の気持ちを伝えた。
「本当に私のこと好きなの?」
彼女は涙目になって問い掛けてくる。
「ああ!大好きだ!」
「……少しだけ話しを聞いてあげる」
彼女は無表情を浮かべてた。
そして俺は抱きついた。
「ごめん……ごめんなさい……」
俺はただひたすら謝ることしかできなかった。
それから一旦小屋に戻り。
俺と白石さんはお互い向き合って椅子に座っていた。
「ねぇ?どうして私から逃げたの?」
彼女は改めて訊ねてきた。
「それは……」
俺は言葉に詰まってしまう。
すると彼女は続けて言う。
「私があなたを好きになったのが迷惑だったんでしょ?だから私の前から消えようとしたんでしょ?」
「違う!俺はお前を大切にしたかっただけで……」
「じゃあどうして!?」
俺は彼女の手を取り真剣な眼差しで彼女を見る。
「俺はお前を失いたくなかった……白石さんに告白されるなんて思わなかった。そして、そのことを考えるだけで胸が苦しくて堪らない。苦しくて泣きたくなった。でもそれ以上に辛かったのはお前を傷つけてしまう事だ!俺はお前を大切にしたいと思った……だからこそ迷った……どうすればいいかわからなかった。だからこそ俺は一度離れようとした……」
「……」
「俺は臆病なんだ。お前の気持ちを知るのが怖くて逃げたんだ。本当にごめん……」
俺は素直な心情をさらけ出した。
すると彼女は静かに微笑んだ。
「馬鹿ね……あたしも同じよ……あなたと同じように苦しんでいた……でも黒瀬を失いたくなくて……ずっと我慢してきたの……」
「そうだったのか……」
俺は胸が熱くなるのを感じた。
それと同時に涙が溢れ出てくる。
「白石さん……」
「彩音……あたしの名前は彩音よ」
彼女は優しく微笑みながら名前を呼んでほしいと頼まれる。
俺は彼女の名前を呼ぶ。
「彩音さん……」
「呼び捨てでいいわよ」
彼女は照れ臭そうにしている。
「彩音」
「なぁに?海斗?」
俺が名前を呼ぶと彼女は嬉しそうな表情を見せた。
「俺にチャンスをくれ、俺から告白をさせてくれ」
「え?」
彩音は戸惑っていた。
だが、俺はあることを決意していた。
「家を建てる……俺と彩音の2人の家を」
「家?」
「俺はこの異世界で本気で生きる、彩音と2人で。その俺なりの決意表明をしたい」
そう、俺なりのケジメである。
「彩音が好きに…大好きになるような立派な家を作る!そしたら俺に彩音に告白することを権利をくれ」
「海斗……」
「頼む!」
「あたし……待ってる」
「本当か!?」
「うん。でもね……」
彩音は少し間をおいてから言う。
「私も海斗のために何かさせて。待っているだけじゃ寂しいから……」
俺はその申し出に感謝する。
俺と彩音は新たな目標を見つけたのだった。