表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/37

26話〜2人の距離〜

26話〜2人の距離〜




俺はその場で呆然と立ち尽くしていた。

辺りはすっかり暗くなり。

月が雲に隠れてしまい辺り一面真っ暗闇となっていた。


「……」


俺は何も考えることができないまま家路についたのだった。

白石さんは帰っているだろうか?


「白石さん……」


家に入ると白石さんが居た。

彼女はテーブルの椅子に座り下を向いている。

そして……彼女は泣いていた。


「……」


無言のまま俯いて泣いている。

俺はそんな彼女の姿を見ていられなかった。

俺が悪いんだから……


「白石さん……ごめんな……俺…」

「……」


彼女は何も答えない。

ただ黙って涙を流しているだけだ。

俺はゆっくりと彼女に近づく。


「白石さん……本当にゴメン」


俺は謝る事しかできない。

俺は最低だ……


「どうして……謝るの?」


ようやく口を開いた。

しかし声は震えておりとても弱々しいものだった。


「だって……俺…白石さんの気持ちを踏み躙ったんだぞ?……傷つけて……ごめん……本当にごめん……」



「…………」

「……許してくれとは言わない。だけどこれだけは信じて欲しい。俺はお前を傷つけたくはなかった」



「…………」

「お前が俺の事を好きと言ってくれた時は凄く嬉しかった。俺なんかを好きになってくれてありがとう」



「…………」

「でも……俺はお前の事を幸せにできる自信がないんだ!……俺と付き合ったらお前が不幸になるかもしれない!……だから俺は……」



「……違う!」


白石さんは顔を上げて否定した。


「……何が?」



「あたしは黒瀬と一緒だったら幸せになれるよ!絶対!!」

「だから……」

「お願いだから振らないで」


白石さんはまた泣き始めた。

俺はそんな彼女を慰める事もできないまま立ち尽くしていた。


「……分かったよ」


白石さんは涙を拭きながら立ち上がった。

そしてそのまま家を出て行った。

一人残された俺は天井を見上げていた。

これからどうすればいいのだろう?



その後、村長が俺の元へ来た。

白石さんはしばらく村長の家に住むらしく帰らないと。


そして、村長は帰り際に俺に言った。


「意気地無しの小僧じゃお前は、彩音ちゃんの事を思うのであるならば行動で示すのじゃ」


そう村長は言った。


俺はその言葉を聞き終わると膝を落として項垂れていた。


「分かってるよ!……それくらい……でも……怖いんだ……彼女を失うのが……彼女がいなくなると思うと身体が震えるんだ……どうしようもなく怖いんだ……」


俺は自分の無力さを痛感していた。


翌日の朝を迎えたが彼女は帰ってこなかった。


俺は工房に行き作業台に向かって座った。


俺は何をするべきなのか?何をすべきなのか?考える。


しかし答えが出ない……


そんな時だった。


俺はあることに気づいた。


俺は白石さんの事を何も知らないんだ。


俺が知っているのは名前と性格ぐらいだ。


もっと白石さんの事を知らないといけないのかもしれない。


そのためにはまず彼女を知る必要がある。


そう思い立った俺は彼女を探す為に動き出した。




「ここにもいないのか……」


村中探したけれど白石さんの姿は見つからない。


「やっぱり見つからない……」


仕方なく家に戻ると家の前に村長がいた。


「彩音ちゃんなら森の方へ行ったぞ」



「本当ですか!?」



「あぁ。おそらく湖に行ったんだろうな」



「ありがとうございます」


早速湖の方へ行くことにした。


湖に到着するとそこには白石さんがいた。


「白石さん……」


彼女はこちらに気付いて振り向いた。


「何しに来たの?」


冷たい口調で言われる。


「その……話し合いをしたくて……」



「嫌よ」


即答される。


「どうしてだ?」



「あんたなんかと話すことなんてないわよ!!」


彼女は怒鳴りつけてきた。


「そんな事言わないでくれ」


俺はなんとか説得しようと試みるが彼女は聞く耳を持たない。


「近寄らないで!」


彼女は俺から離れようとする。


「待ってくれ!」


俺は慌てて呼び止める。


「何よ!」


彼女は再びこちらに向き直る。


「話を聞いてくれ!」



「だから嫌だって言ってるでしょ!!」



「頼むから俺の話を聞いてくれ!!」


俺は必死になって訴えかける。


「どうしてそこまでして私の事を気遣うの?」



「えっ……!?」


予想外の質問に戸惑ってしまう。


「私は黒瀬にとって邪魔な存在なんでしょ!?だったら放っておけばいいじゃない!私と関わりたくないなら関わらなければいいじゃない!!」

「邪魔なんかじゃない!俺にとって大切な存在だからこそ大事にしたいと思ってる!」


俺は自分の思いを正直に伝えることにした。


「嘘つき!!」


「嘘じゃない!」

「だったら……」


白石さんは一呼吸おいてから言う。


「どうして私から逃げたの?」

「それは……」

「ほらね!やっぱり嘘つき!」


彼女は笑い出す。

俺は悔しくて拳を握り締める。


「違う!確かに逃げたかもしれない。それは認める。でもそれはお前を失いたくなかったから!好きだから……好きすぎてお前が近くにいると変になりそうで怖かったから!それで……」

「……」


白石さんは黙ってしまった。

そしてしばらく沈黙が続いた後彼女は口を開く。


「嘘じゃない?」

「あぁ……本当だ。俺はお前が好きだ!」


俺は勇気を振り絞って自分の気持ちを伝えた。


「本当に私のこと好きなの?」


彼女は涙目になって問い掛けてくる。


「ああ!大好きだ!」

「……少しだけ話しを聞いてあげる」


彼女は無表情を浮かべてた。

そして俺は抱きついた。


「ごめん……ごめんなさい……」


俺はただひたすら謝ることしかできなかった。



それから一旦小屋に戻り。

俺と白石さんはお互い向き合って椅子に座っていた。


「ねぇ?どうして私から逃げたの?」


彼女は改めて訊ねてきた。


「それは……」


俺は言葉に詰まってしまう。

すると彼女は続けて言う。


「私があなたを好きになったのが迷惑だったんでしょ?だから私の前から消えようとしたんでしょ?」



「違う!俺はお前を大切にしたかっただけで……」



「じゃあどうして!?」



俺は彼女の手を取り真剣な眼差しで彼女を見る。


「俺はお前を失いたくなかった……白石さんに告白されるなんて思わなかった。そして、そのことを考えるだけで胸が苦しくて堪らない。苦しくて泣きたくなった。でもそれ以上に辛かったのはお前を傷つけてしまう事だ!俺はお前を大切にしたいと思った……だからこそ迷った……どうすればいいかわからなかった。だからこそ俺は一度離れようとした……」



「……」



「俺は臆病なんだ。お前の気持ちを知るのが怖くて逃げたんだ。本当にごめん……」


俺は素直な心情をさらけ出した。

すると彼女は静かに微笑んだ。


「馬鹿ね……あたしも同じよ……あなたと同じように苦しんでいた……でも黒瀬を失いたくなくて……ずっと我慢してきたの……」

「そうだったのか……」


俺は胸が熱くなるのを感じた。

それと同時に涙が溢れ出てくる。


「白石さん……」



「彩音……あたしの名前は彩音よ」


彼女は優しく微笑みながら名前を呼んでほしいと頼まれる。

俺は彼女の名前を呼ぶ。


「彩音さん……」


「呼び捨てでいいわよ」


彼女は照れ臭そうにしている。


「彩音」

「なぁに?海斗?」

俺が名前を呼ぶと彼女は嬉しそうな表情を見せた。



「俺にチャンスをくれ、俺から告白をさせてくれ」


「え?」


彩音は戸惑っていた。

だが、俺はあることを決意していた。


「家を建てる……俺と彩音の2人の家を」


「家?」


「俺はこの異世界で本気で生きる、彩音と2人で。その俺なりの決意表明をしたい」


そう、俺なりのケジメである。


「彩音が好きに…大好きになるような立派な家を作る!そしたら俺に彩音に告白することを権利をくれ」



「海斗……」

「頼む!」

「あたし……待ってる」

「本当か!?」

「うん。でもね……」


彩音は少し間をおいてから言う。


「私も海斗のために何かさせて。待っているだけじゃ寂しいから……」


俺はその申し出に感謝する。

俺と彩音は新たな目標を見つけたのだった。

 





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ