16話〜村での生活〜
16話〜村での生活〜
今日は工房に篭ってひたすら作業していた。
現在の目標は金属類の武具の作成である。
金属を溶かして型に入れ冷やし固めてから削り出すという工程を繰り返し行う作業だ。
それと同時進行で別の作業も行っていた。
それは鎧の装飾に関する作業である。
以前試しに作った時はシンプル過ぎて味気なかったため少しアレンジを加えてみることにしたのだ。
まず手始めに鎧の各部に彫刻のような模様を彫ることにした。
これはデザイン的にも機能性を考えても非常に有効だと言えるだろう。
次に兜だがこちらにも細工を施すことにした。
具体的には角や羽根などを取り付ける形になるだろう。
あとは色塗りも必要になるかもしれないな。
それら全ての作業を終える頃には日が暮れていた。
「よし!今日の分はこれで終わりだな」
と言って立ち上がる俺。
白石さんのために作った鎧。早速渡しに行くことにした。
俺は白石さんを探しに村中を歩き回ることにした。
しばらく歩いていると前方から人が歩いてくるのが見えたので声を掛けてみることにした。
「こんにちは。すみませんが白石さんを見ませんでしたか?」
と尋ねると男性は答えてくれた。
「さっき畑仕事手伝っていたよ。多分向こうの方にいるんじゃないか?」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
と会話を終えると再び歩き出すことにした。
教えられた方角へ向かって進んでいくと目的の人物を発見することが出来た。
「おーい!」
と手を振りながら近づいていくと彼女もこちらに気づいたようで笑顔で迎えてくれた。
「黒瀬じゃ~ん」
と言ってきたので挨拶を返すことにした。
そして先程完成したばかりの鎧を渡すことにした。
「はい。これ」
と言って手渡すと彼女は目を輝かせながら受け取ってくれた。
「えっ!嘘!凄い綺麗!」
「気に入ってくれたかい?」
「うん!とっても素敵!」
「それは良かった。それと一応白石さん用に調整してあるからピッタリだと思うよ」
「わかった!今度試着してみるね」
「ああ」
と言ってその場を去ることにした。
(喜んでもらえてよかった)
と思いながら帰路に着いた俺は途中で村長に出会い呼び止められた。
村長の家にお邪魔すると村長はこんなことを言ってきた。
「前にも聞いたが彩音ちゃんと付き合ってないのかね?」
彩音…つまりは白石さんの事である。
「付き合ってませんけど……それがどうかしましたか?」
「いや、あんなに可愛い彩音ちゃんじゃ、村の若い衆が皆、嫁に欲しいと言っておる。黒瀬さんと同じ家で住んでいててっきり付き合ってるものかと」
「違います。友達です。ただの同居人です」
「そうなのか?じゃあワシが頂いてもいいかな?」
「どうぞ。好きにしてください」
「冗談じゃよ。ワッハハハ」
と豪快に笑う村長。この爺さん冗談キツイなと思いながら話を聞くことにした。
「しかし、あのボロ小屋に彩音ちゃんを住ませるのは心が痛い、そこでワシからの依頼じゃ立派な家を建てよ」
「家ですか?」
「うむ、我らが彩音ちゃんが住むのにふさわしい立派な家じゃ、今は同居人の友達かもしれんが、いつ恋人になり結婚して子供が産まれるかもしれんしな」
「冗談はほどほどにしてくださいよ」
「冗談じゃないんじゃがな」
「え?」
「つまり、ワシが言いたいのは彩音ちゃんを狙っている若い衆はたくさんおる、黒瀬さんには負けてほしくはないのじゃ」
「…………」
村長との会話の中で俺の鼓動は激しく動き出す。
「彩音ちゃんを誰かに奪われてもいいのかね?」
村長はニヤニヤしながら俺を見ている。
俺は村長の言葉を聞いて何も言えなくなった。
正直言えば白石さんは俺の中でかなりの存在となっているのは確実だった。それは恋愛感情なのかはわからない。
「まぁすぐには決められぬのもわかる。ゆっくり考えるといいじゃろう」
そう言って村長は話を終わらせた。
俺は家に戻り一人考える。
(俺が白石さんを独占していいのか?)
白石さんはモテる。それは俺が一番良く知っている。
白石さんは美人だしスタイルも良い。性格だって悪くない。
むしろ良い方だと思う。だからこそ、彼女には幸せになってほしいと思うのだ。
でも俺じゃ彼女を幸せにすることは出来ないんじゃないか?
俺よりも彼女に合う相手がきっと現れるはずだ。
でも……
それでも俺は彼女と一緒にいたいと思う自分もいる事に気づいた。
俺は村長に依頼されて家を作っている。
しかし俺の心は揺らいでいる。
白石さんを誰かに奪われたくないと思う反面、俺みたいな奴が彼女と一緒にいてもいいのかという葛藤があるのだ。
そんな悩みを抱えながら俺は黙々と作業を続けていた。
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