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工房フェアリーテイルのオシゴト事情  作者: 綴伝助


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6.工房フェアリーテイル



 『工房フェアリーテイル』


 冒険者ギルドでダンジョナー登録をした際に、渡された道具屋一覧表。

 そのうち、カレンたちの状況を聞き取った職員から勧めてもらった魔装具専門店だ。


 初夏も過ぎようかという季節にもかかわらず、石造りの店舗はひんやりとした空気で満ちていた。


 整然とした店内の壁一面に作り付けられたショーケース。見本としての魔装具が見やすくレイアウトされ、並んでいる。


 頭からつま先まで揃ったフルセットの魔装具もあり、トルソーを飾り立てていた。


 盗難防止の魔術式が組み込まれているケース自体かなり高価なはずだが、あのフルセットを三つ売ればお釣りがくるに違いない。


(我が国にはここまでの技術者は片手で足りるほどしかいない。素晴らしいわ)


 その証拠に、国のトップランカーとして最先端の魔装具や魔道具に触れる機会の多かった兄と義姉が当然のように応接セットへ座っている。


 一度に大勢の客が来ることは想定していないのだろう。椅子が二脚しか用意されていなかった。

 店主は自分用にカウンターの椅子を引っ張ってきたあと、カレンにもと椅子を探しに行こうとしたが、断る。

 

 必要ないだろうが、一応、警備も兼ねて従者然として兄たちの後ろに立つことにした。


 兄がカレンへ視線を投げてくる。けれど、カレンが反応を示さないと知ると店主へ意識を向け直していた。


(この国にはこのレベルの店がゴロゴロしてるのかしら…?)


 来る途中にも似たような店構えの魔装具店を見かけた。


 ギルド職員曰く、ハイランカーや貴族御用達の一見様お断りという店もあるとのこと。そのレベルの店は別のエリアに固まって店を構えているらしい。


(だとすると、噂は本当だったのかもしれない)


ーー東端の国・ヤマト国。小さな国にも関わらず、深いダンジョンを持つ。魔装具や魔道具の技術がやけに高く、それを駆使すれば駆け出しのダンジョナーでも食うには困らない稼ぎを得ることができるらしい


 公爵嫡男である兄とは違って、カレンは社交を期待されていない存在だ。そのため、夜会などは年に数えるほどしか出席してきていないが、必ずと言っていいほどヤマト国の噂は耳にした。


ーーヤマト国ではダンジョン攻略が人々の娯楽になっているらしい

ーーヤマト国では一般人もダンジョン攻略の様子が見れる会場があるらしい

ーーヤマト国ではダンジョナーが人気で、スポンサーは店や貴族だけではない。むしろ一般人が作った『ふぁんくらぶ』というものがダンジョナーを支える母体らしい


 カレンの国ではダンジョンに潜り攻略していくことは貴族の義務であり、嗜みだった。


 得られる力やアイテムの効果は大きいが、そのために費やす資金や時間を考えれば、貴族でなくては続かない活動であるとみなされていたからだ。


 それがこの国では、人の営みの一部として組み込まれている。

 むしろ、営みの主軸となっている人が多いのかもしれない。


 多くの人間が関われば、技術もそれだけ発達、発展していくのは自明の理。


「で、別国のお貴族様が、どうしてここに?」


 兄と義姉を前にしても特段緊張した様子もなく、男は切り出した。その肝の座りかたは、若い男がたしかにこの店の主だと言わしめているように自然体だった。

 そんな男を取り巻く薄い布のような揺らぎをカレンの右目は捉えていた。

 

(とっても整っているわ。これなら精緻な操作もお手のものでしょうね)


 兄は全身に強力な効果を発揮するオートスキル持ちだが、自分は眼だけというごく僅かな範囲。しかも、兄のような威力はない。


(あら、この方もスキル持ちね)


 オートスキル【解析】

 通常見ることができない魔力を視認することができるカレンの能力だ。属性を色、状態を動きで知覚する。

 ただし、裸眼の時のみに限られた能力で、感知した魔力に触れたりすることもはきない。 


「なぜ、私が貴族だと?」

「え?いや、さっき名乗ってましたよね、フルネーム。」

「それだけで分かったのか?」

「ええ?だって、そういう為のもんでしょう??」


ーーヤマト国の教育水準は近隣諸国の中で秀でているらしい。

ーー一般庶民ですら読み書きと四則計算は習得していて当たり前とか


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点に兄は驚いているのだが、店主には理解できていないようだった。


(あれも、弁償しなきゃね…) 


 視線の先では、店主の応急処置によりどうにか頑張っている扉。

 微かに魔力の色が見えるあたり、何かしらの術式が組み込まれているのだろう。

 つまりお高い。


 色々と高水準なこの国だ、カレンが想定しているより遥かに高スペック品であるという可能性も捨てきれない。

 つまり、お高いに決まっている。


(今の手持ちじゃ…絶対足りない)


 本国から送金してもらうか、もしもの為の宝石を売るか…カレンが後々の算段について思考を飛ばした。


 そのわずか数瞬。


 兄が、超至近距離で店長に威圧していた。店長の視界の端に入りそうなところを計算して剣も持ち上げているあたり、こなれ感を感じる。


 完全に本気(マジ)である。


「ににに、兄さん?!」

「あらあらぁ。ジーク様、いけませんわぁ。チビらせちゃいますよ〜」


 こういう時、聖女は全力全肯定で兄に付く。

 カレンは慌てて、事態の鎮静に動いたのだった。




 


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