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工房フェアリーテイルのオシゴト事情  作者: 綴伝助


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5/5

5.小さな違和感



「ふっふふ〜んふっふ〜」


 自宅の衣装部屋に備え付けてある全身鏡。映し出される自分は、鼻歌がつい溢れ出してしまうような可愛さだ。


 ミルリアが軽やかに一回転すれば、プリーツを施したスカートが一瞬遅れで、ふわりと翻った。


「え〜!超、可愛いんだけど、わたし!」


 桃色の地に濃灰のストライプを走らせた生地、ジャケットは肋骨飾りを取り入れた詰襟で、裾は燕尾にした。スカートは同じ生地にプリーツ。ふんだんにフリルをあしらった黒ペチコートが動くたびふわりと揺れる。


 ()()()()()()に合わせて、隣国の騎士(ナイト)の制服の形を取り入れたコスチュームは、ミルリアの自尊心を心地よくくすぐる出来栄えだ。


「ブーツ白にして正解っ!汚れないか心配だけど、黒より可愛い感じ出るなぁ〜」


 編み上げの白いブーツは思い切って膝上10cmのロングブーツ。インヒールも入れたので、足長効果がよく発揮されいて自分でも見惚れるスタイルに仕上がっている。


 全部が今までとは比べ物にならない程、可愛いで溢れている。


 ミルリアは自分が取った選択の完璧さに満足していた。


「ヘアもインナーカラーにピンクとか、私天才〜」


 魔装具はフルオーダメイド品だ。


 ダンジョナーという、常に戦闘を意識しなければいけない職業のための服。激しい動きに耐えられる強度と、動きを邪魔しないフィット感が重要視される。

 そして何より、魔装具に仕込まれた魔法陣を発動させる際、体と服が均一に密着していることは魔素の巡りの効率に大きく関わってくる。

 その要点を満たすためには、個々の寸法に合わせて服を作ることが必要不可欠だった。


 けれど、一昨年誕生したブランド『ミラー』はその常識を覆した。


 隣国の魔具生産技術を魔装具にも応用し、セミオーダーであっても魔装が発動する仕組みを構築。ダンジョナーの装備に革新をもたらした。量産し価格を抑えることで、これからダンジョナーになろうと考えている人や駆け出しのダンジョナーにも手を取りやすい製品が誕生したのだ。

 セミオーダーなので、既存の魔装具よりデザインは画一的だ。けれど、『自分も着てみたい』と憧れるようなデザインを打ち出すことで量産であることをむしろ強みにしていく、とはミラー創設者の談だ。


 ミルリアもミラーが出店してすぐ、そのデザインに魅せられた一人だったが、創設者が魅力として語る“同じものを着る喜び”には賛同できなかった。


ーー自分の為だけの”可愛い”じゃなきゃ、やだ!


 当時、魔素具の提供者だったファンにミラーのデザインを取り入れてはどうかと話したこともあった。


 でも、反応は、『意味ない』の一言。


 駆け出しの頃は、借金をして誂える高級品、それが魔装具だ。デザイン的に不満はあったけれど、ファンの男はタダで魔装具をくれる貴重な存在。駆け出しだったミルリアが強く言うことはできなかった。


「『あれはミルリアの戦闘スタイルに合ってない。そっちは実力的に実装できない。』とかめっちゃ言われたなぁ〜。ほんっとにウザかったっ!」


 そしてファンの偉そうな口出しに堪えること一年。ミラーがミルリアの為と思えるような企画を打ち出した。


ーー時代を担うダンジョナーとの連携企画!当工房の魔装具を宣伝してくださるダンジョナー様を募集します。審査に通過された方は、当工房作成の魔装具をプレゼント。更に、追加でカスタマイズすることも可能です(費用はダンジョナー様のご負担となります)


 頑張っている自分を神様は見ていたんだ、とミルリアは思った。迷わず応募して、3回目にしてようやく当選。企画に出会って、実際のものを手に入れるまでに一年かかった。


「はやくヘアアクセとマント来ないかな〜。マジで楽しみ〜」


 魔装具自体は無償だったものの、デザインをかなり弄ったせいでカスタマイズ費が嵩んだ。それに広告塔になるからには、頭からつま先まで気を抜くわけにはいかないと色々新調もした。

 ファンが献上してきていた頃は、靴やマントといった付属品も一緒に渡されていた。いざ購入してみると、こんなに掛かるとは知らず、今月は大きく赤字になってしまった。


 けれど、この可愛さ。後悔はない。


「ん?ちょっと、あれかなぁ…?」


 嬉しくて色々なポーズを試していると、腕周りの動きが硬いことが気になった。特に利き腕である右腕がキツいような気がする。

 魔装具の寸法もカスタマイズできたけれど、装飾品四個を付け加える値段で一箇所しか調整できなかったので、選択しなかったことを思い出す。


「まっ、着続ければ馴染むよね」

 

 着用時間が長くなって初めて気づくほどのささやかな違和感だ。大したことじゃない。

 ミルリアはそう納得して、また鏡の中の自分に夢中になった。




『命を預けることになる装備なんだ。妥協しないで調整するから、ちょっとでも変だと思ったら言ってくれ』


 最初の魔装具を作る時に伝えられていた言葉は、すっかり忘れ去られていた。 





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