第8話:メレノラ・アクスター④
さらに三日が経ち、俺はついに行動を起こした。
流気術のおかげで筋力も先頭に耐えうるだけの強度を持たせることができたし、今以上に過剰な動きにも耐えることができるはずだ。
この前の暗殺者が実力者というわけではないだろうし、もっと強い相手がいると考えるのは容易かった。
「負けるつもりはないが、少しは楽しませてくれる相手がいてくれるといいな」
どこか戦闘狂のような発言だが、これはまごうことなき俺の本音だ。
次元の狭間での修業は、とても厳しいものがあり、結局は一度も七英雄たちから一本を取ることができなかった。
ゼルディス様も、アルフォンス様も、ヴォン様も、エリティア様も、化け物みたいな強さだったもんな。
そのせいもあってか、目を覚ましてから今日までの時間は、少しだけ物足りなさを感じていた。
「さて、行くか」
俺は黒ずくめの衣装でその身を包むだけでなく、フェルミナ様から教えてもらった幻影魔法で認識阻害を掛けていく。
メレノラの後宮には子飼いの暗殺者だけではなく、王族に使える騎士たちもいるからだ。
無駄な殺生は好まない、それがゼルディス様の教えだったからな。
「だがまあ、敵には一切の容赦はしないと教わったけどな」
そんなことを呟きながら、俺はこっそりと母さんの後宮を飛び出し、メレノラの後宮へと進んで行く。
前回の暗殺者が進んできた気の流れを覚えているので、後宮まで迷う心配もない。
「……あれか」
そこまで離れた距離でもなく、俺はすぐにメレノラの後宮を視界に入れた。
……なんだよ、あの無駄に華美な造りの後宮は。質実剛健な母さんを見習ってほしいところだよ。
「柵を超えていくこともできるけど、騒動に騎士たちを巻き込むのも面倒だな」
俺はしばしの思案のあと、騎士たちには眠っておいてもらうことにした。
そのまま足を進めていき、門が見えてくると茂みに身を潜める。
「……睡眠強制」
これもフェルミナ様から教えてもらった状態異常の魔法だ。
使い方次第では相手を癒すことにも使える魔法だが、今回は悪用させてもらおう。
「……な、なんだ?」
「急に……眠気……が……」
門を挟むようにして立っていた二人の騎士が、柱にもたれながらずるずると体を落とし、そのまま眠ってしまう。
その様子を確認した俺は茂みから姿を見せると、そのまま門を飛び越えて後宮の敷地内に侵入した。
「特別な理由がない限り、護衛の騎士も妃が暮らす後宮内には基本的に入れない。そのはずなんだけど……」
メレノラの後宮内にある気配を探ると、相当数の気配があることが分かる。
これが全て執事や侍女というわけでもないだろうことは明白だ。
何故ならその大半から、僅かだが殺気が感じられるからだ。
「こいつらが、メレノラ子飼いの暗殺者ってことだろう」
このまま認識阻害を掛けたまま後宮内を進んで行くこともできるが、それでは面白くはないし、メレノラに痛い目に遭ってもらうこともできなくなる。
ならば、やることは一つだ。
「認識阻害、解除」
後宮の入り口までやってきたところで、俺はあえて認識阻害を解除する。
するとどうだ、感じ取っていた気配が一斉に動き出す。
数人は後宮奥へと向かい、多くがこちらへと殺到してきた。
メレノラの護衛と、俺を殺しに来た奴らだな。
「いたぞ!」
「囲め!」
「絶対に殺せ! 痕跡は残すなよ!」
門にいた騎士が寝ていることを把握しているのか、暗殺者たちは姿を見られることを気にしていないような立ち回りをしてきた。
俺としてはその方が手っ取り早いから助かる。
囲んできた暗殺者は六人。その背後に潜んでいるのが三人。後宮奥へ続く廊下にもところどころに潜んでいるな。
「お前たちを圧倒的にぶっ潰せば、あいつに痛い目に遭わせてやれるか?」
「ほざけ! 痛い目に遭うのは貴様の方だ!」
六人の暗殺者は隙を見せることなく、一斉に襲い掛かってきた。
潜んでいる三人は俺の隙を見つけ、奇襲を仕掛けるつもりだろう。
真正面から叩き潰すこともできるが、それだけでは面白くない。
ならば相手が考える想定を上回る方法で叩き潰してやるとしよう。
「瞬歩」
俺は両足に気の流れを作ると、一足飛びで六人の包囲を突破する。
そのまま潜んでいた三人の背後へ回り込むと、一瞬にしてそいつらの意識を刈り取った。
「き、消えただと!」
「後ろだ!」
「な、何が起きたんだ!?」
困惑の声が暗殺者の中で広がるのを見て、練度が低いなと思わざるを得ない。
何故ならそんなことを口走っている間にもできることが多くあるからだ。
「破雷」
「「「「「「――!?」」」」」」
俺が軽く指を振ると、指先から微弱な雷を暗殺者たちへ飛ばす。
それだけではピリッと来る程度だが、俺は雷が暗殺者たちに触れたタイミングで周囲の気を流し込み、強烈な雷撃へと昇華させた。
一撃で意識を飛ばした暗殺者たちは、その場で倒れてしまう。
「さて。それじゃあ、反撃開始といきますか」
俺はニヤリと笑いながら歩き出すと、ついに後宮内へと足を踏み入れた。
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