第5話:メレノラ・アクスター①
◇◆◇◆
「全く。あのまま死んでくれた方が、面倒が減ってよかったのに」
苛立たしそうに口にしたのは、メレノラだった。
場所はメレノラが暮らす離宮で、時間は夜も更けている。
「……これじゃあ、高価なお酒も美味しく楽しめないわ」
メレノラは豪奢なソファに腰掛けながらワイングラスを傾けていたが、口に含んだ瞬間に苦い顔を浮かべ、そのまま壁に投げつけた。
パリンと甲高い音が部屋に響くと、影になっている角の方から男性の声が聞こえてくる。
「いかがなさいますか、メレノラ様」
「決まっているじゃない。消すのよ」
男性の問いに対して、メレノラは一切の迷いなくそう口にした。
「絶対にバレないよう、秘密裏に消してちょうだいね」
「御意」
その後、男性の気配は消え去り、メレノラはソファに深く腰掛け直す。
「邪魔者はこれ以上、増えてほしくないのよね」
最後にそう口にしたメレノラは、そのまま瞼を閉じ、深い眠りに落ちていった。
◆◇◆◇
――俺が目覚めてから、七日が経過した。
その間、俺は侍医が決めてくれたリハビリメニューをこなすと共に、自らで考えたメニューも部屋の中でこなしている。
その中の一つが、魔力を使った筋力トレーニングだ。
寝たきりだった五年間、当然だが魔法を使う機会がなかったせいで魔力回路の成長が止まっていた。
その魔力回路を太く頑丈にするだけではなく、身体強化魔法を使って筋力トレーニングも同時に行う。
侍医のリハビリメニューも大事なのだが、彼のメニューは当然だが、俺が体を動かせないこと前提に考えられたメニューだ。
そのせいもあり、七英雄から教えを受けた俺にとっては物足りないものになっていた。
「……よし。これで、終わりにしておくか」
そう口にしながら、俺は逆立ちで行っていた腕立て伏せを終わり、足を床に付けた。
足元には顎から伝って落ちた汗が水たまりになっており、そこを軽くタオルで拭き取ると、魔法で熱風を送り乾かす。
侍医のリハビリメニュー以外のことをしているとバレたら、どやされるかもしれないからな……母さんに。
「本当に、母さんは過保護なんだよな。今も、昔も」
母さんは本当に優しい人だ。
陛下に見初められて第三妃になったのだが、元は市井で歌を披露していた平民だ。
だからだろう、王城にも母さんを下に見る人は多かったが、その中でも雑草魂と言えばいいだろうか、折れることなく、自分なりに妃を務めあげている。
ただ、なかなか子宝に恵まれることができず、第四妃が妊娠、出産をしたあとに俺を産んでくれた。
そのせいでさらに立場を追いやられることになったが、そんなことは気にせずに俺を育ててくれた。
「……だからこそ、母さんを苛めていたメレノラには、痛い目に遭ってもらわないといけないよな」
そう決意を口にしながら、俺は両手を握っては、開いてを繰り返す。
この七日間で俺は厳しいメニューを組み、こなしてきた。
剣にも魔法にも才能を見いだせなかった俺だが、七英雄との修行の末、おそらくだが今の世の中でなら五本の指に入る実力だと思っている。
師匠方からすれば一番になれと言いそうだが、五本の指に入るというのは現在での話だ。
肉体と魔力回路、その両方が実力に追いつけば、俺は誰よりも強くなれると考えている。
それだけの修行を、俺は三〇〇年間続けてきたのだ。
「そろそろ、気の流れを捉える訓練も加えていくか」
この気の流れの訓練は、ヴォン様に教えてもらった修行の一つで、『流気術』と呼ばれるものだ。
一時的に身体能力を強化することが可能となり、通常では不可能な動きを可能にしてくれる。
そして気の流れを捉えられるようになれば、魔法も強化することが可能となる。
魔力回路を気で覆うことでより頑丈にし、より強力な魔法を行使できるようになるのだ。
ヴォン様は身体能力の強化にだけ流気術を使っていたが、俺は魔力回路の方にも気を運用したいと考えている。
「これに関しては、研究に協力してくれたアルフォンス様とフェルミナ様に感謝だな」
気を魔力回路に運用したいと考えたのは俺だが、魔法に関しての知識があまりにも不足していた。
そこを補ってくれたのが、アルフォンス様とフェルミナ様だ。
二人の卓越した知識は魔力回路へとすぐに行きつき、考えた案を俺が実践することで、魔力回路を気で覆うという運用方法が完成した。
「流気術の訓練は座ってでもできるし、早速試してみるか!」
それから夕食の時間まで、俺はベッドの上で胡坐をかきながら目を閉じると、流気術の訓練を続けた。
そして、夕食後、
部屋に戻ってきた俺は、部屋の外に放っていた魔力に何かが引っ掛かったのを感じ取る。
「……目を覚ましてからまだ七日だぞ? もう来たのかよ」
俺は呆れたように呟きながらも、どれだけ実力が戻ってきたのかを試したい気持ちにもなっていた。
「……相手の実力がどんなものか分からないけど、なんとかなるだろう」
意識不明から目を覚ましたばかりの相手を暗殺するのだから、そこまでの奴ではないだろう。
きっと楽な仕事だと相手も思っているに違いない。
「早速、痛い目に遭ってもらうとしますか」
俺はそう口にしながら、表情はニヤリと笑みを浮かべていた。
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