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歴史的七英雄唯一の弟子  作者: 渡琉兎


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第21話:白狼フェリオローザ①

『何者です?』

「うおっ!?」


 突如、俺の脳内に女性の声が響いてきた。

 周囲を見渡すが人影はなく、俺は困惑しながら再び白狼へ視線を向ける。


『あなたは何者ですか?』

「んな!? ……もしかして、魔獣が?」


 どうしてそう思ったのかというと、白狼は最初の声が響いた時とは違い、真っすぐにこちらを見ながら改めて問い掛けが聞こえてきたからだ。


『その通りです。もう一度聞きます、あなたは何者ですか?』

「……俺は冒険者のレイン。この辺りの魔獣を狩りに森に来ていた。そういうあなたは何者なんだ?」


 俺は名乗ると同時に白狼が何者なのかを聞いてみた。


『レイン……レイン……そうですか、あなたが』

「何を納得しているのかは分からないが、俺の質問にも答えてくれないか? あなたは何者なんだ?」

『あぁ、失礼したわ。私はフェンリル。昔はフェリオローザと呼ばれていたわ』

「……フェンリルの、フェリオローザだって?」


 聞いたことがある。いや、正しくは伝え聞いたことがある、というべきか。

 フェンリルのフェリオローザと言えば、七英雄の逸話に何度も名前が登場していた、伝説の白狼だったと記憶している。

 まさか、目の前の白狼が、本物のフェリオローザ様だっていうのか?


『どうやら、疑っているみたいね』

「あ、えっと、それは……はい。正直、疑うと同時に、困惑しています」

『うふふ。エリティアから聞いた通り、とても素直で、誠実な青年のようね』

「……エリティア様から、聞いた?」


 まさかここで、七英雄の一人であるエリティア様の名前が出てくるとは思わなかった。

 七英雄の逸話にはフェリオローザ様の名前は出てきても、特別誰と仲が良かったのか、彼女が誰に付き従っているのか、そのあたりの話は伝わっていなかった。


「もしやあなたは、エリティア様に従い、暗黒竜と戦っていたのですか?」

『それは少し違うわ。私とエリティアは唯一無二の親友なのよ』

「親友ですか」


 どちらかに従う、従われる、そういった関係ではなかった、ということか。


「しかし、エリティア様から聞いたというのは? まさか、フェリオローザ様も俺と同じ、次元の狭間に?」

『えぇ、そうよ。短い時間だったけれど、少し前に呼ばれたわ。うふふ、とても楽しい時間を過ごさせてもらったもの』


 それはそうだろう。

 七英雄が暗黒竜を封印したのが、およそ一〇〇〇年前の話だ。

 その間、フェリオローザ様はエリティア様と別れ、もしかすると一人で生きていたのかもしれないのだから。


『そこでエリティアに聞いたのよ。レイン、あなたのことをね』

「俺のことを?」

『えぇ、そうよ。私たちの唯一の弟子であり、暗黒竜に対抗できる唯一の存在。フェリオローザが良ければ、力を貸してほしい、とね』

「……フェリオローザ様が、俺に力を?」


 これは、願ってもない助けになる。

 七英雄の悲願達成に向けて、フェリオローザ様という力をとても大きな力になるからだ。


『そうよ。でもね、私はエリティアに言ったの』

「……何をでしょうか?」

『私と共に歩めるような力を持っているのか、それを試させてもらう必要があるとね』


 そう口にしたフェリオローザ様から、突如として強烈な殺気が放たれた。

 俺は全身から汗が噴き出し、自分でも気づかないうちに右手が腰の剣を握っていた。


「……試すということは、フェリオローザ様と戦う、ということでしょうか?」

『察しがいいわね。そう、そういうことよ』


 そう口にしたフェリオローザ様は、寝そべっていた体勢から四肢に力を込めて立ち上がり、その美しくも雄々しい姿を見せつけてくれる。

 あまりの迫力に、その体が実際の二倍にも、三倍にも大きく見えてしまう。


「……本当に、戦わなければならないのですか?」

『私に認められたいのであれば、当然よ。それとも、逃げるのかしら? 七英雄に認められたというのは、エリティアの勘違いだったということね?』


 俺の言葉にフェリオローザ様は挑発に近い返しをしてきた。

 認められたのかは、正直分からない。だけど、力を貸してくれたのは確かだ。

 そして、そんな七英雄の期待を裏切るような行為を、俺がするわけにはいかない。


「……分かりました。全力でお相手させていただきます」

『安心なさい。殺しはしないわ。でもね……あなたは私を殺す気で来た方がいいわよ?』


 フェリオローザ様がそう口にした直後、その大きな体が視界から一瞬にして消えてしまう。そして――


「うおおおおおおおおっ!!」


 突如として背後から強烈な殺気を感じ、俺は自分を奮い立たせるため声を上げながら剣を抜き、振り向きざまに袈裟斬りを放つ。


 ――ガキイイイインッ!


 甲高い金属音が鳴り響き、俺はあまりの衝撃に両足で地面を削りながら吹き飛ばされてしまう。


『いい反応ね。及第点よ』

「……ありがとうございます」


 たった一度、剣と爪をぶつけ合っただけなのに、俺の両腕は痺れを感じている。

 一方でフェリオローザ様は余裕の笑みを浮かべているように見えた。

 ……それだけの力の差が、俺とフェリオローザ様の間にはあるってことだ。

 ただ、だからといって諦めるわけにはいかない。戦いはまだ始まったばかりなのだ。


「まだまだ、胸を借りさせていただきます!」

『うふふ。掛かっていらっしゃい』


 今度は俺から仕掛けてやる。

 絶対に、フェリオローザ様に認めさせてやるんだ!

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