第19話:冒険者ギルド③
「――何事だ!!」
するとそこへ、二階から女性の怒声が響いてきた。
声の方へ視線を向けると、そこには耳の尖った金髪の女性が立っていた。
あれは……エルフ族か?
「ギ、ギルマス~!」
今度は俺の受付をしていた受付嬢が泣きそうな声でそう口にした。
なるほど、彼女が冒険者ギルド本部のギルドマスターなのか。
ギルドマスターが階段から下りてくるのが見えたからか、受付嬢も階段の方へと駆けていき、そこで事の経緯を説明している。
「……なるほどな。おい、貴様!」
呼ばれたのは、大柄な男性だった。
「は、はい!」
「ランクはなんだ!」
「お、俺はCランクで、こいつらはDランクです!」
「ならば貴様らは1ランク降格だ! もう一度精神から鍛え直すんだな!」
「……そ、そんなああああぁぁ~!?」
大柄な男性が悲鳴にも似た声を上げると、細身の男性と筋骨隆々の男性も頭を抱えている。
どうやら、ランクが下がるというのは相当に嫌なことらしい。
「そして、貴様だ! 名をなんという!」
続いて俺が指さされた。
「レインです」
「そうか、レインか。自分のしたことがどのようのことか理解しているか?」
「はい。振り払う火の粉を払ったまでです」
ここで優等生な答えをすることもできたが、それでは結局のところ、他の冒険者に舐められてしまう。
こいつらはもう突っ掛かってこないかもしれないが、他の冒険者がどうかまでは分からないからな。
「……ふ。分かっているではないか」
おや? どうやら俺の答えに間違いはなかったらしい。
このギルドマスターは、意外と頼りになる人物かもしれない。
「少し話をしたいのだが、時間をもらっても構わないか?」
「構いません。その、冒険者登録が問題なく済むのであれば、ですけど」
冒険者登録は完了したはずだが、受付嬢と話をしていたところにこいつらが絡んできた。
他にもまだ手続きがあるのであれば、それを優先させなければと思ったのだ。
「どうなのだ?」
「あ、あとはギルド証を発行して、それをお渡しするだけです!」
「ならば、ギルド証が発行でき次第、私の部屋に持ってきてもらおう」
「かしこまりました!」
どうやら話はまとまったようだな。
というわけで俺は、予想外の展開にはなったが、冒険者ギルドにやってきた初日にギルドマスターの部屋へ向かうことになった。
「二階の奥の部屋だ。ついてきてくれるか?」
「はい」
それからギルドマスターについていき、彼女が開いてくれた扉から部屋に入る。
「座ってくれ」
部屋の中は質実剛健とした家具ばかりで、なんとなく母さんと同じ種類の人なんだと、勝手に親近感を得てしまう。
そんなことを考えながら、俺は中央に置かれたテーブルセットのソファに腰掛けた。
「粗茶で悪いが、飲んで喉でも潤してくれ」
「ありがとうございます」
ギルドマスター自らがお茶を入れてくれるとは、驚きだな。
「名乗り遅れたが、私はここ王都で冒険者ギルドのギルドマスターをしている、ラクティナだ。ラクティナでも、ギルマスでも、呼びやすい方で構わない」
「先ほども名乗りましたが、レインです。それでは、ギルマスと呼ばせていただきます」
「分かった。しかし、レインはこの国の第五王子と同じ名前なのだな」
「そうなのですか? それは知りませんでした」
おっと、まさか俺のことを知っている人に早々と出会うことになるとは、驚きである。
「まあ、第五王子は表にほどんで出てきていないからな。知らないのも無理はないか」
軽い雑談のつもりなんだろうが、俺からしたらドキドキものである。
「さて、レイン。先ほどの一件、冒険者ギルドの長として謝罪させてほしい。管理不行き届きだ、誠に申し訳なかった」
そう口にしたギルマスは、ソファから立ち上がると腰が九〇度になるまで曲げ、謝罪してくれた。
「ギルマスが謝ることではありません! 悪いのはあいつらで、しっかりと罰を与えてくれたじゃないですか!」
「……そう言ってくれると、私としてはありがたいよ」
顔を上げたギルマスは苦笑を浮かべながら、再び腰を下ろした。
「あんな奴らでも、一応はCランクとDランクだ。レインの実力であれば、最初から上のランクで登録しても構わないのだが……」
「あ、それは遠慮させてください」
ギルマスの発言に、俺は即答で断りを入れた。
「む、どうしてだ? ランクが上がれば、それだけ実入りの良い依頼を受けられるのだぞ?」
「あまり目立ちたくないんですよね。……まあ、あれだけの騒動を起こしておいて言うのもなんですが」
だがまあ、あれは降りかかった火の粉を払った結果なので、仕方がないだろう。
俺から何かをしたわけじゃないからな、うん。
「そうか。だがまあ、そういうことなら致し方ないな。それに、新人がいきなりDランクやCランクに上がったりすれば、それこそあいつらのような奴らに狙われかねんか」
「そういうことです」
勿体ない、といった表情をギルマスにはされてしまったが、俺の考えが変わることはない。
暗黒竜や魔獣の活発化に対抗する仲間を早く探したい気持ちもあるが、順番を間違えてしまえば逆に遠回りになってしまうものだ。
――コンコン。
そこへ扉がノックされた。
「入れ」
ギルマスが声を掛けると、扉がゆっくりと開かれていき、登録をしてくれた受付嬢が入ってきた。
「失礼いたします。ギルド証が発行できましたので、お持ちいたしました」
「テーブルに置いておいてくれ」
「かしこまりました」
受付嬢はそう答えると、手に持っていた布の包みをテーブルに置き、その場で包みを開いてくれた。
中からは銅色のタグが現れ、中央には名前とランクが彫られていた。
「これがレインのギルド証だ。ランクが上がれば、相応の素材でタグが発行し直されるシステムになっている。まあ、タグを見ただけでランクが分かるようになっている、くらいに思ってくれたまえ」
「分かりました。ありがとうございます」
こうしてギルド証を受け取ったことで、俺は正式に冒険者の仲間入りを果たした。
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