第16話:ライオネル・アクスター④
母さんの後宮に戻ると、入り口の方で待っている人影を見つけた。
「ただいま戻りました、母さん」
俺が陛下との謁見を行うと聞き、心配で帰りを待っていてくれたようだ。
「おかえりなさい、レイン。陛下との謁見はどうでしたか?」
「問題なく終わりました。報告もありますし、昼食がまだであれば、食事をしながらでいかがですか?」
母さんのことだから、俺を待っていてまだ昼食を取っていないのではないかと考えた。
「それもそうね。うふふ。安心したら、お腹が空いてきちゃったわ」
微笑みながらそう口にした母さんを見て、俺も笑みを浮かべる。
そのまま後宮に入り、俺と母さんは食堂へと向かう。
俺たちのやり取りを聞いていたのだろう、すぐに料理が運び込まれてきた。
「それでは失礼いたします」
料理が並べ終わると、執事と侍女たちは食堂をあとにする。
これもまた、母さんへの報告があるということで、気を利かせてくれたのだ。
本当に、母さんの後宮に勤める人たちは優秀な人ばかりだな。
「それじゃあ、いただきましょうか、レイン」
「はい」
それから俺たちは料理を堪能し、しばらくしてから謁見の内容を話していく。
「まず俺が王城出ることですが、認められました」
「そうなのね! ……うん、よかったわ」
初めに俺がそう口にすると、母さんは嬉しそうにしながらも、どこか寂しそうな表情を浮かべる。
「……ごめん、母さん。俺の我がままで、目を覚ましてから数日で出ていくことになってしまった」
俺が謝罪をすると、母さんは首を横に振り、口を開く。
「謝る必要はないわ、レイン。あなたはあなたのやるべきことのために、行動を起こしただけなのだから」
「……ありがとうございます」
「それにね、レイン。私は寂しさよりも、嬉しさの方が大きいのよ?」
そう口にした母さんは、柔和な笑みのまま言葉を続ける。
「五年間、あなたは寝たきりだった。そんなあなたがこれからどんな人生を歩むのか、それが心配でたまらなかったの。だけど、あなたは目を覚まし、自分の足で自らの道を見つけていたわ」
「自分の足というよりかは、七英雄の皆さんの悲願を達成させるためですけどね」
「だけれどその悲願も、あなたが努力を怠らずにいた結果、七英雄様が見ていてくれたのでしょ?」
「……まあ、そういうことみたいですね」
俺はゼルディス様の言葉を思い出しながら答えていく。
「あら? ということはレインは、寝たきりになる前から、自分の道を突き進む準備をしていたのかもしれないわね」
「……そうだったなら、嬉しいですね」
俺の努力が実を結ぶことはなかったと、五年前まではずっと思っていた。
どれだけ努力をしても兄姉たちには敵わず、才能のなさを痛感させられてきた。
だけど、母さんの言う通り努力を見てくれていた人が、ゼルディス様がいてくれた。
そう考えると、本当に俺は意識を失う以前から、自分の道を自分の足で進んでいたのかもしれない。
「……そうだ! それと、陛下に母さんのことを気に掛けてくれるようお願いしておきました」
「えぇっ!? ど、どうしてそんなことを?」
「どうしてって、もしかしたら誰から母さんを狙って刺客を送ってくるかもしれないだろう? だから、俺がいない間の守りを固めておいてもらおうと思ったんだ」
まあ、陛下は俺からの頼みがなくても気に掛けてくれると言っていた。
きっと、見回りや護衛の配置も気に掛けてくれるに違いない。
「全く、あなたって子は。私のことまで気に掛けなくてもいいのに」
「俺にとって、母さんが誰よりも大事なんだから、これくらいはさせてほしい」
「……ありがとう、レイン」
それからは少しの雑談を挟み、昼食の席は終わりを迎えた。
◆◇◆◇
陛下との謁見を終えてから、一〇日後。
ついに俺は王城を発つことになった。
この日までに母さんの後宮には新しい護衛騎士が配置されており、見回りも強化されていた。
メレノラから何かをされるということもなかったので、ひとまずは安心して出発できるというものだ。
「お見送りありがとうございます。母さん、それに皆さんも」
母さんの後宮の前には、母さんだけではなく、そこで働く執事や侍女たちも見送りに来てくれていた。
「必ず無事に、ここへ帰ってきてちょうだいね、レイン」
心配そうな顔で母さんがそう口にした。
「もちろんです。母さんを置いて、一人でどこか遠くへ行くようなことはしませんから」
「その言葉を信じているわ。そうそう、どうせ世界を見て回るなら、冒険者に登録してみるのはどうかしら?」
「冒険者、ですか?」
母さんの提案に、俺は首を傾げてしまう。
「冒険者になれば、様々な情報が集まってくるはずよ。確か、近衛騎士団長のレヴォルグ様も、元は冒険者だったはずだわ」
「なんと、そうだったんですね」
俺が驚きの声を上げていると、母さんの後ろに立っていた執事が笑いながら口を開く。
「何を仰いますか、レリシア様。あなた様も冒険者として活躍しているところを、陛下に見初められたのではないですか」
「えぇっ!? そうだったのですか、母さん!」
「もう。昔の話じゃないの」
……はは、それは驚きだな。
でも、母さんの知らない一面を旅立つ前に知れて、なんだか嬉しいや。
「それでは、いってまいります」
「気をつけて、いってらっしゃい」
これ以上時間を掛けると、出発するのが段々と寂しくなるかもしれない。
俺は母さんへ笑みを返し、そのまま歩き出す。
母さんや執事、侍女たちからの温かい視線を感じながらも、それ以外の視線も感じてしまう。
それは王城から注がれているが、悪意はない。どこか興味を抱いているような、そんな視線だ。
……まあ、相手が誰なのかは想像できるけどな。
母さんを守ってくれているのだ、そこだけは本当にありがたいと思う。
七英雄の悲願を達成させることができたなら、一つくらいはあなたの願いを聞いてあげてもいいかもしれないな。
そんなことを考えながら、俺は王城をあとにした。
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