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第12話:メレノラ・アクスター⑧

 ◆◇◆◇


 俺は母さんの後宮に帰ってくると、すぐに母さんに捕まって懇々と説教をされてしまった。

 遅くまで続くと思われた説教だったが、言いたいことを言ったのか、思いのほか早く解放してくれた。

 まさか俺が出ていったのを気づかれると思っていなかったが……もしかして、母さんは俺が何をしてきたのか、全てを知っているのではないだろうか。

 だからこそ心配し、帰ってきた時は安堵し、それでも言うべきことは伝え、そして解放してくれたのではないか。

 そう考えると、やはり母さんにだけは早いうちに俺の全てを伝える必要があるかもしれない。

 それで少しでも母さんが安心してくれるなら、絶対にそうするべきだ。


「……だけど、今はゆっくり休みたい、かな」


 現実に戻ってきて、初めての本格的な戦闘だった。

 まあ、相手はザコだったし、そこまで疲れるようなことはなかったんだけど、流気術を長く使い続けたせいで疲労が溜まってしまったのだ。

 軽く体を流してからベッドへ横になると、俺は一瞬で深い眠りに落ちていった。


 ◆◇◆◇


 翌日となり、俺は王城がどのような対応をするのか気になっていた。

 というのも、ここでメレノラが自分に都合の良い報告をしていたのであれば、何かしら操作が開始されるはずだからだ。

 朝食を母さんと食べながら談笑をしていたものの、その間も特に王城からの連絡などはなく、いつも通りの時間が過ぎていった。


「……どうやら、メレノラは隠ぺいしたみたいだな」


 部屋に戻った俺は、そんなことを考えていた。

 まあ、そうなるように暗殺者も誰一人として殺さず、都合の良い報告ができないよう立ち回ったんだけどな。

 ここで全員を殺しでもしていたら、死体を簡単に処理されていただろうけど、全員が生きていたなら話は変わってくる。

 殺されたくないと騒ぐ者も出てくるだろうし、そうなれば話を合わせるようなことも難しくなるだろう。

 ならばメレノラがどうするのかと考えれば、何もなかったとする以外に選択肢はないのだ。


「予定通りに事は進んだけど、まだ完全に安全ってわけじゃないんだよな」


 脅してきたものの、メレノラの性格を考えると、それだけで引き下がるような人ではない。俺はそのことを十分に理解している。

 それほどに、メレノラは王位へと執着が強いのだ。

 第三王子のヴァイドはどうでもいい。あいつは俺やライル兄さん、エナ姉さんをいたぶることしか考えていないからだ。

 問題は、第二王子のゲイル兄様だろう。

 メレノラもヴァイドのことも可愛がっているが、最も可愛がっているのがゲイル兄様なのだ。

 剣と魔法、両方に才能を発揮しており、二〇代半ばで既に剣術はマスター級、魔法もハイランカー級の実力を有している。


「メレノラが次に何かを仕掛けてくるとすれば、ゲイル兄様に絡めた何かだろう。その前に王城を離れることができれば、少しは落ち着いてくれると思うんだけどな」


 王位争いに興味がない俺が王城にいても時間の無駄だ。

 それならば、七英雄の悲願を叶えるべく、行動を起こした方がいいに決まっている。

 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。


『――レイン、いるかしら?』

「はい、少々お待ちください」


 母さんの声が聞こえ、俺はすぐに扉の方へ向かい、開いた。


「どうしたんですか?」

「昨日のことを聞きたいの。いいかしら?」


 うっ!? ……でもまあ、これはいい機会かもしれない。

 昨日のことを話すのもそうだが、俺のことを伝える、いい機会だ。


「……分かりました。中へどうぞ」

「ありがとう、レイン」


 俺は母さんを部屋の中に促すと、椅子を引いて座るよう勧めた。

 そして、自らお茶を入れてテーブルに置くと、母さんの向かいの椅子に腰掛けた。


「……昨日のこともそうなんだけど、他にも母さんに伝えておかないといけないことがあるんだ」

「他にも? ……いったい、どんな悪いことをしたのかしら?」

「わ、悪いことじゃないから! いいこと、いいことだから!」


 なんだから俺が悪ガキみたいな言い方をされてしまい、大慌てで否定した。


「うふふ。冗談よ」

「……母さん」

「ごめんなさいね。なんだか目を覚ましてからのレインは、大人っぽくてね。子供っぽい姿を見たかったのよ」


 それは……確かに、その通りだ。

 現実の俺は一五歳という年齢だが、その実は次元の狭間で三〇〇年という長すぎる年月を過ごしてきた。

 精神的には大人を超えた年齢かもしれず、言葉遣いや態度は大人っぽく映ったかもしれない。


「……それじゃあさ、母さん。昨日のことにも繋がることだから、他のことから母さんに伝えたいと思うんだ。長くなるかもしれないけど、いいかな?」

「えぇ、もちろんよ。レインとの会話なら、いくら長くなっても構わないもの」

「ありがとうございます」


 そうお礼を口にした俺は、ついに現実での空白の五年間に何が起きていたのか、その説明を始めていく。

 雷に打たれたあと、俺の精神は次元の狭間という場所へ向かい、歴史に名を残している七英雄の弟子となり、修行を受けていたこと。

 そこでは時間の流れが現実とは異なり、次元の狭間での一時間は、現実世界だと一分しか進んでおらず、実質俺は三〇〇年もの年月を過ごしていたこと。

 そして最後に、七英雄の悲願でもある暗黒竜討伐を成すべく、現実世界に帰ってきたことを。


「……それは、本当なの、レイン?」

「本当です、母さん。だけど、すぐには信じられませんよね」


 当然、母さんは驚きの声を漏らした。

 すぐに信じてもらおうとは思っていない。だけどいずれは信じてほしいと思っている。

 だからなのか、俺は思わず苦笑しながらそう返した。


「……だから、それだけの雰囲気を纏えるようになったのね」

「え?」

「信じるわ、レイン。私はあなたの言葉を、全て信じます」


 ……まさか、すぐに信じてもらえるなんて、思いもしなかった。

 俺が呆けていると、母さんは微笑みながら言葉を続ける。


「あなたは隠しているつもりなんでしょうけど、滲み出る強者の雰囲気は隠せていないわよ?」

「き、強者って……」

「だからこそ、メレノラ様の後宮まで行ってきたんでしょう?」

「えぇっ!? な、なんで知っているんですか、母さん!!」


 まさか母さんの口からメレノラの後宮へ行ったことが話されるとは思わず、大声を上げてしまった。


「これでも陰謀はびこる王室で生きてきたのよ? 私の情報網を甘く見ないでちょうだいね?」

「……ごもっともで」


 メレノラの後宮での出来事をある程度把握していたのか、昨日の説明はあっさりと終わり、俺は自分の秘密を母さんに話すことができたからか、思いのほか気持ちがスッキリしていた。

 とはいえ、無茶をし過ぎだと怒られてしまい、今後は勝手に行動しないことを約束されてしまったのだった。

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