第11話:メレノラ・アクスター⑦
◆◇◆◇
どうやらメレノラは、俺がこいつに殺されたと思い込んでいたらしい。
それは、俺の顔を見たらお化けを見たような顔をするわけだ。
「どうしてと言われましても、目を覚ましたのです。五年の眠りからね」
「ふ、ふざけたことを言わないでちょうだい!」
別にふざけているわけではないんだがな。
とはいえ、メレノラからすればそう見えてしまうのだろう。
「さて、ふざけているのはどちらでしょうか?」
だが、俺としてはメレノラが行っていた行為を許すわけにはいかない。
暗殺者への指示は俺だけを狙ったものかもしれない。
しかし、場合によっては母さんにも危険が及ぶ可能性だってあったのだ。
俺は隠すことのない殺気をメレノラに向けながら、はっきりとそう口に出す。
「ひっ!?」
「これ以上、俺たちに構わないでください。別にメレノラ様たちに危害を加えようとも思っていませんし、王位争いにも興味はありません」
恐怖に思わず声を漏らしたメレノラを無視して、俺は自分の意見を口にしていく。
「こいつも、こいつの部下も、今回は殺していません。何せ俺から仕掛けたわけですからね。いわば、遊びみたいなものです」
「あ、遊びですって? ……あなたにとって、これが遊びだと言いたいの!」
「その通りです、メレノラ様」
顔を青ざめながらそう言い放ったメレノラに、俺はさらに言葉を続ける。
「メレノラ様は私を殺そうとしました。ですが、私は違います。遊びですからね」
「……く、狂っているわ。あなたは狂っている!」
「どっちが狂っているって言うんだ? それじゃあ何か? 俺を殺そうとしたあんたは狂っていないって言いたいのか?」
「ひいいいいっ!?」
メレノラの態度が気に食わず、知らず知らずのうちに殺気が溢れ出していた。
そのせいもあり、メレノラは一歩後退し、そのまま力が抜けてしまったのか尻もちをついてしまう。
「いいか、もう一度言うぞ? これ以上、俺たちに構うな。もしも何か仕掛けてくるようであれば、今度は容赦しない。第二妃だからなんだっていうんだ? 俺は俺の大事なものを守る。相手が誰であれだ。いいな?」
殺気を隠すことなく、メレノラを睨みつけながら、俺は低い声音で言い放つ。
するとメレノラはついに声すら出せなくなったのか、無言のまま、何度も首を縦に振り続ける。
「……次はないからな」
最後にそう口にした俺は、そのままメレノラの後宮をあとにした。
母さんの後宮への帰り道、俺は自分の感情を抑えきることができなかったことを反省していた。
どうにも次元の狭間から現実に帰ってきてからというもの、感情の起伏が激しくなっている気がする。
どうしてなのかを考え、すぐに答えが浮かび上がってくる。
「……そうか。次元の狭間では、俺に良くしてくれる人しかいなかったからか」
七英雄は全員が、俺の好意的だった。
いや、最初こそゼルディス様が選んだ俺に対して、本当にこいつでいいのか、という感情が見え隠れしていた人もいた。アルフォンス様がその筆頭だ。
それでもメレノラのように明確な悪意ではなく、疑心のような感じだったし、俺自身も俺でいいのかと疑問に思っていたからなんとも思わなかった。
その後、俺は努力を続けることでアルフォンス様からも及第点を頂くことができた。
しかし、現実は好意だけの世界ではない。
メレノラだけではなく、その子供たち、他にもきっと多くの思惑が絡み合って、多くの敵意が向けられることだろう。
「……感情のコントロールする術も、身に付けないといけないな」
次元の狭間では習うことのなかったことを、現実で学ばなければならない。
そうでなければ暗黒竜の討伐はおろか、道半ばで命を落とすことになるかもしれない。
……それも、同じ人間の手で。
「……はあぁぁ~。王位争い、本当に面倒だな。いっそのこと、継承権を放棄できないかな」
そんなことを考えていると、あっという間に母さんの後宮が見えてきた。
だが、どうにも様子がおかしい。
今はもう夜も更け、母さんや他の人たちも寝ている頃だろう。
それにも関わらず、後宮からは光が漏れ出しており、多く気配が動き回っているように感じられる。
「……ま、まさか!」
俺は一抹の不安を抱きながら、流気術を駆使して全速力で後宮へと駆け出した。
だが――俺の不安は杞憂に終わる。
「……レ~イ~ン~? あなた、こんな夜遅くにどこへ行っていたのかしら~」
「……あは、あはは~」
……杞憂に終わったというよりも、危機は母さんではなく、俺に訪れてしまった。
「きちんと説明、してくれるわよね~?」
「あー…………」
「レ~イ~ン~~?」
これは……逃げられない、かも?
◇◆◇◆
いったい何が起きたのか、メレノラはレインが去ったあとも思考が追いついていなかった。
それでも、目の前に転がる暗殺者のボスは実際にそこにいる。
「……化け物……あんな奴が、王位を得ていいはずがないわ!」
自分たちに構うなと、レインは言った。
しかしメレノラの中ではすでにレインの発言は頭の中から消え去っており、絶対に殺さなければならないという、自分勝手な正義が脳裏を埋め尽くしていた。
「許さないわ、レイン・アクスター! あなただけはどんな手を使ってでも、殺してやる!」
怒りのあまり握りしめたその手のひらに、メレノラの爪が食い込み、血を滲ませていた。
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