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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第2章(アーワの森、ザワワ湖、そして王都)

元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第2章(3)レイクガーディアンとの戦い

作者: 刻田みのり

 ザワワ湖のすぐ傍で俺たちはゴートヘッドのイチたちと別れることとなった。


「この先、特別な場所、私たち、入れません」


 イチが申し訳なさそうな声を発した。笛の音みたいな声なので何だか切ない。


 俺は手を振って否定した。


「いやいや、お陰で助かった。あんたたちがいなかったらずっと森を彷徨うところだったよ」

「そうそう、あなたたちがいなければ他の魔物に襲われていたわ。さすが名前持ちは違うわよね。あなたたちと会ってから何とも遭遇しなかったし」


 そう。


 イチたちゴートヘッドは元々ランクAのやばい魔物なのだ。その上彼らは山羊一号山羊二号……と固有の名を付けられている。


 精霊や魔物は名を持つことによってより強い個体となるのだ。


 なので今のイチたちはランクAを超えた強さを得ているはずだった。そして、大抵の魔物は自分より強い存在とは戦おうとしない。それはこの森の魔物たちにも言えることだろう。


 つくづくイチたちと戦うことにならなくて良かったと思う。いやもうマジで。


 あ。


 てことはイチたちの爆発魔法を食らって生きていたあの巨大な(バンタムベア)もなかなかな強さだったんだな。


 うん、マジックパンチの一撃で倒せて良かったよ。でなければ今ごろ生きてなかったかもしれないな。


「この先に、たぶん、湖が、あります。私たちの、探知では、たぶんとしか、言えませんが、あなた方の、目的地は、そこのはず、です」


 イチたちは「特別な場所」に足を踏み入れたことがないらしい。道中聞いた話によればとてつもない魔力の塊がそこにあるそうだ。


 気になって俺がお嬢様もそこに行ったのか尋ねるとイチはこくりとうなずいた。ああ、そうなんですか。


 もうお嬢様のしたいことがわかりません。


 でも、ま、それよりクースー草の採取をしないとな。人命もかかってるし。


「どうぞ、お気を、つけて」

「ありがとう。あんたたちも元気でな」

「また会えるといいわね」


 ああ、イアナ嬢が要らんことを。


 イチが前のめりになって返してきた。


「ぜひ、そうしたい、です。次は、ポテチ、もっと食べたい、です」

「……」


 イアナ嬢が笑顔を引きつらせた。ほら言わんこっちゃない。


 俺たちはイチたちに見送られながら湖へと向かった。


 *


 なるほど、確かにどでかい魔力の反応があるな。


 俺はイチたちの姿が見えなくなってすぐに足を止めた。探知に引っかかった反応が想像以上に大きかったからだ。


「ジェイ?」


 無言で立ち止まった俺に声をかけてきたイアナ嬢にオレンジ味のウマイボーを差し出す。


 こっちは精神安定効果のあるハチミツ味と違って毒消しの効果がある。お嬢様によると前もって食べておけば一時間は効果が持続するという話だった。


「とりあえずここで食べておこう。お嬢様も森の奥で魔力反応の大きな敵と遭遇しそうになったら迷わず食べろって言っていたしな」

「湖に敵がいるってこと? それも毒持ちの?」

「さあな、敵になるか味方になるかは相手しだいだ。だが、用心にこしたことはない。お嬢様から貰った指輪は持っているな?」

「ええ」


 イアナ嬢は俺に見えるように右手をかざした。人差し指に填めた銀の指輪のサファイヤがキラリと光る。


 よし。これでイアナ嬢は毒と呪いと精神操作に対しては強い耐性持ちだ。特に毒はオレンジ味のウマイボーもあるからほぼ心配しなくていいな。


 えっ、俺?


 俺はライドナウ公爵家の元執事だぞ。状態異常になるような攻撃なんて怖いものか。


 つーか、親父のしごきで毒やら麻痺やら呪いやらとわざわざ状態異常にさせられて何回も死にかけたのを思い出すよ。


 ちょい遠い目をしつつオレンジ味のウマイボーを囓る。ついでにコーン味とチーズ味のウマイボーで体力と魔力を回復させておく。飲水で喉を潤すと再び先を急いだ。


 *


 ザワワ湖の周辺に入った途端空気に強い酒のような匂いが混じった。


 たぶんクースー草の群生地から漂っているのだろう。それにしても凄い酒臭さだ。


 イアナ嬢が眉をしかめた。


「ここにいるだけで酔っ払いそうね」

「ああ」


 そう応えたものの、匂いほど酔いそうな感じはしない。この酒臭い空気も毒としてカウントされているのかもしれなかった。敵を想定してのことだったのだがオレンジ味のウマイボーを食べておいて正解だったな。


 ザワワ湖は森に囲われた大きな湖だった。周りの木々はドライカエデがほとんどでノーススギはあまり見当たらない。水辺に群生するのは見知ったナオール草の青い花、ドクキエール草の赤い花、それにツカレトレール草の黄色い花。どれもポーションの材料として有名な薬草だ。それ以外にも色とりどりの野草が花を咲かせている。


 視界の右手に淡い緑の草の群生地があった。ぽつんぽつんと二十から三十株くらいの規模で生えている。そこだけが他とは一線を引いたような特別感があった。何しろあのあたりだけが白いもやに包まれているのだ。


 おそらくあのあたりがクースー草の群生地なのだろう。


 この噎せ返りそうな酒の匂いの原因もあそこのようであった。


 俺はクースー草の群生地から湖へと目を向けた。


 ザワワ湖は綺麗な円の形を描いた湖だ。湖面は空の青さを映すほど穏やかで岸に近いほど透明度が高い。


 湖の中央に天辺が平らな岩が突き出ており、その上にうっすらと黒く染まった水晶玉のようなものがあった。玉の大きさは俺の身長より少し小さいくらいだろうか。


 あからさまに怪しいがどでかい魔力の反応はその玉ではなく湖の中だ。この湖の主か何かがいるのだろうか?


「あれ、何かしら」


 イアナ嬢が玉を見つめながら訊いてくる。


 俺は首を傾げた。


「さあ? ただ、探知で引っかかる反応はあれより湖の中の何かの方が大きいな」

「あたしたちがクースー草を採りに行ったら襲ってくると思う?」

「可能性はあるな」


 とはいえ、俺たちの目的はクースー草の採取だ。


 俺たちは早足で群生地へと向かった。


 が。


「結界だと?」


 数歩進んだところで透明な壁に阻まれた。手で押してもびくともしない。ダーティワークを発現させた拳でも壊すことができなかった。


 イアナ嬢が見えない壁をペ死ぺしと叩く。


「どうする? これじゃ近づくこともできないわよ」

「聖女の力で何とかならないのか? 対結界の解除魔法とかもあったよな?」

「んなもんとっくに試したわよ」

「……」


 おいおい、恐い目で睨むなよ。


 しかしまあ、こいつは困ったな。


 俺はため息を一つつき、湖に視線を移した。陽光を反射した湖面がきらきらと輝いている。これで魚でも跳ねたら結構風流なのだがな。残念ながら魚は一匹も見当たらない。



『ふふっ、そんな簡単にお目当ての薬草は手に入らないよ♪』



 突然、誰かの声がした。


 イアナ嬢にも聞こえたのだろう、彼女もきょろきょろと周囲を見回している。



『……って、あれ? 勇者じゃないし。勇者は一緒じゃないの?』



 声の主は女の子だろうか。それもボーイッシュな感じがする。姿が見えないので正解かどうかは不明。


 でも、とりあえず変じしてやるか。


「ここへは俺とイアナ嬢しかいないな。勇者とやらとは一緒じゃない」

「そもそも勇者が誰だかあたし知らないんだけど」


 と、イアナ嬢。


 彼女は両手を腰に当てるとフンッと鼻を鳴らした。おい、態度悪いぞ次代の聖女。


「そんなのどうでもいいからこの結界どうにかしてくれない? あたしたち急いでるんだけど」



『……』



 あーあ、黙っちゃったよ。


 イアナ嬢も相手が誰だかわからないんだからもうちょい加減して話してくれないかなぁ。



 **



『ふ、ふーんだ。何を言われたって結界は解除してあげないもんねっ』



 あ、復活した。


 俺はイアナ嬢に目で「黙ってろよ」と訴えてから声の主に訊いた。


「どうしたらこの結界を解いてくれる? 俺たちにはどうしてもクースー草が必要なんだ」



『でもそれって王族の命を救うことになるよ。それでもいいの?』



 どうやら声の主は俺たちがここに来た理由を知っているようだった。それどころか俺の事情も知っているようだ。


 イアナ嬢が俺の袖を引っ張る。


「あんたのマジックパンチをフルパワーで撃ったら結界くらい壊せるんじゃない?」

「どうかな? 正直殴った感じだと半々くらいだと思うぞ」

「なら試してみたら」

「それで結界を壊せたとしてその後にモンスターが襲って来たら? フルパワーでマジックパンチを放ったら下手すれば魔力欠乏症になってまともに動けなくなるぞ」

「ウマイボーで回復できるでしょ」

「食ってる間に襲われたらどうするんだよ」

「……」


 そこまでは考えていなかったようだ。


 唇を噛むイアナ嬢を放置して俺は中空に向かって言った。何となくその辺にいるような気がしたからだ。


「救えるかもしれない命を見捨てたら俺のお嬢様に軽蔑されるからな。それに俺自身そんな真似をしたくない」



『ふぅん』



 声の主がそう返すとしばしの沈黙が流れた。おいおい、どう転ぶにせよ対応は早くしてくれ。


 この調子だと帰るのが明日になるじゃないか。


 じりじりと焦る気持ちが膨らんでいく。一週間なんてもちろんかけるつもりはないが、少しでも早く俺はノーゼアの街に帰りたかった。


 人命のかかったクエストだから、というのもある。


 だが、やはり一番はいつでもお嬢様を守れるところにいたいってことだ。そのためにはノーゼアの街にいなくてはならない。


 イアナ嬢が「ああっ、もうっ」と怒鳴った。いきなりである。


「あたしたち急いでるのよ。ちんたらやってないでさっさとこの結界をどけなさいよっ!」

「……」


 こんなんでも一応次代の聖女である。


 でも、どこかの平民街の肝っ玉母ちゃんに見えてしまったよ。すまん。



『え、えっと』



 お?


 これ、ちょい気圧されてる?



『カ、カモン、レイクガーディアン!』



 え?


 俺はやばさを感じて探知を使う。


 ザワワ湖の湖面が激しく波打ち、水中で何かの影が急速に大きくなった。俺の探知がその影と呼応するように巨大な反応の接近を訴える。


 中性的な声がやたらはっきりと聞こえた。



『警告! 警告!』


『中ボスバトル レイクガーディアン戦を開始します』


『勝利条件 レイクガーディアンの撃退』

『完全勝利条件 レイクガーディアンの撃破』

『敗北条件 戦闘エリア内の冒険者の全滅』



「……何これ?」


 イアナ嬢がぽかんとしている。


 ああ、これは彼女にも聞こえているんだな。


 俺はこの中性的な声に聞き覚えがあった。


 ランバダと戦ったときにお嬢様から貰った腕輪に魔力を流したら同じ声がしたのだ。


 激しく飛沫を上げながら水色の巨大な蛇が湖から姿を現した。かなりの大きさのようで体の半分近くが未だ湖の中だ。


 蛇といってもただでかいだけの蛇ではない。背中に一対の黒いコウモリのような翼を生やした蛇だ。


 いや、これもう蛇じゃなく別物か?


 けどまあひとまず蛇ってことにしよう。


 俺にとっては初見のモンスターだった。冒険者ギルドの資料室でもこのモンスターについての記録は見ていない。


 ふむ、目だけでも俺の身長くらいあるな。


 俺は庇うようにイアナ嬢の前に立った。ダーティワークの黒い光のグローブが脈打つ。


 さて戦うか、と飛び出そうとしたときイアナ嬢が呼び止めた。


「ち、ちょっと、あんたどうやって戦うつもり?」

「どうって、俺の戦闘スタイルは拳でぶん殴るだが」

「いやいやいやいや、あんた相手がどこにいるかわかってるの?」

「ああ」


 イアナ嬢の言わんとしていることが理解できた。要するに湖の上でどうやって戦うのかってことか。


 それなら問題ない。


「まあ見てろ」

「あっ」


 俺はダーティワークの発現によって強化された身体能力を活かしてジャンプした。高く飛び上がった身体は重力に従って落ち始める。


 無詠唱で小さな結界を展開。足が乗る程度のサイズの結界を足場代わりにしてもう一度ジャンプする。


 きっと端から見たら空中を飛び跳ねているように見えるだろう。実際、俺は空を跳んでいた。


 鎌首を上げてこちらを凝視する巨大な蛇に俺は左拳を構える。


 腕輪に魔力を流してマジックパンチをぶっ放した。轟音を伴って左拳が蛇を真正面から捉える。


 炸裂音。


 あっけないくらい容易に巨大な蛇の頭が飛散する。いくつもの肉片が水と化して湖に落ちていった。


 え。


 俺はその手応えのなさに目を瞬いた。


 一撃って……え?


 こいつレイクガーディアンっていうモンスター名なんだろ。こんなに弱くてガーディアン(守護者)なのか?


 おいおい。


 俺が動揺していると背後で大きな水飛沫が上がった。


 振り返ると水色の尻尾がこちらに振り下ろされるところだった。樹齢数百年の巨木のように太い尻尾だ。


 俺は慌てて横飛びした。湖面すれすれに足場の結界を張り直す。


 びゅんと空気を切り裂いて尻尾が俺のいた位置を通り過ぎた。そのまま湖面を打ち据えて激しく飛沫を散らす。生じた波の大きさがその攻撃の威力を示していた。


 俺が足場に着地した瞬間、湖から数個の水球が飛んできて俺を狙う。水球はどれも拳くらいのサイズだ。飛翔速度もさして速くなかった。


 足場を作っている間は結界を盾として仕えない。人間は一度に二つまでしか魔法を発動できないからだ。俺のダーティワークは魔法ではなく能力だが発現させていることですでに一つの魔法を使っているのと同じ扱いになっていた。そして、足場用の結界はこれだけで一つ分だ。


 つまり、防御を結界に頼ることはできない。


 もちろんダーティワークの黒い光のグローブで攻撃を防ぐことはできる。しかし、あくまでもグローブで受け止めているだけだ。結界による防御とは安心感も防御力も違い過ぎる。


 今回の戦いは防御より回避が重要だった。


 湖からさらに水球が発射される。


 俺は細かく足場を作りながら上下左右と避けまくった。俺に命中しなかった水球は湖に落ちては波紋を生み、別の位置から再び撃ち出された。


 攻撃は水球だけではない。


 連続して襲ってきたりはしないのだが尻尾の攻撃は地味に厄介だった。水球を避けた先に尻尾が振り下ろされると回避できてもひやっとしてしまう。


 油断できない戦いだ。


 つーか、こいつ頭を失ったんじゃないのか?


 俺が気になって蛇の首の先を見るとそこには頭があった。


 ちっ、再生してやがる。


 あれか、ランバダといいこの蛇といい最近の敵は頭を再生させるのが流行りなのか?


 などと内心愚痴ってみたり。


「ウダァッ!」


 気合いの一声とともに蛇の脳天から拳を叩き込む。


 水音を響かせて頭が爆裂し、体液と肉片が水になりながら湖へと消えていく。最初の一撃のときのように楽々と頭は破壊できた。


 だが、こいつはまだ動いている。


 足場に片足で降り立つ。


 次の足場へと跳躍しようとしたとき声がした。



『ふふっ、レイクガーディアンの恐ろしさはこんなもんじゃないよ♪』



「……」


 いや、油断こそできないが恐いとまではいかないぞ。。


 尻尾にさえ気をつければ攻撃も大したものじゃないしな。


 ま、まあ本当に尻尾にさえ気をつければだが。


 という言葉を俺が口にしないでいるとイアナ嬢が言った。


「あんたのモンスター、全っ然ジェイにまともな攻撃できてないじゃない。悔しかったら当ててみなさいよ」

「……」


 イアナ嬢。


 そういう挑発は止めてくれませんか?


 あちらもちゃんと攻撃はしているんですよ。たぶん。



『……』



 ほら、また黙っちゃったよ。


 これで「それならもう一体追加してやるもんね♪」とか言われたらどうするんだよ。すっげえ面倒くさいぞ。


 まあ、負ける気はしないがな。この程度の攻撃なら二倍になっても何とかなるだろうし。


 ……ん?


 突如、蛇の黒い翼が光りだした。発光する光が黒から黄色へと変化していく。


 俺は水球を躱しつつ新たな攻撃に警戒した。


 湖から何か出るのか。


 それとも、頭部を再生してブレスとかか?


 ああ、魔法とかもあるかもしれないな。


 左右から迫る水球を上に跳んで避ける。すかさず打ち込まれた尻尾をサイドステップで躱しながらマジックパンチで破壊した。巨大な尻尾の肉片が大量の水になりながら湖へと落ちていく。


「……」


 こいつの体、脆いんだけどすぐ水になるんだよなぁ。


 ひょっとして、いや、ひょっとしなくても水でできてるのか?


 俺は湖から放たれた水球を回避してもう一発蛇の胴体にマジックパンチを撃った。打ち抜かれた部分が水になり、空洞となった部分を補うように残った部分から水が溢れて蛇の一部となる。


 わぁ、めんどくせぇ。


 俺は何となくこの先の展開が想像できてしまい舌打ちした。


 こいつといくら戦ってもきりがない。


 おそらく本体が別にある。そいつを叩かないと駄目だ。


 蛇の翼の光が黄色から赤に変わっていく。


 ぼんやりと光の筋がザワワ湖の縁をなぞり始めた。


「……っ!」


 湖の変化に気を取られたせいで一瞬避けるのが遅れる。再生した尻尾が打ちつけようとしたのを黒い光のグローブで受け止めた。途方もない打撃に負けて俺は吹き飛ばされる。


 ダーティワークのグローブがなければただでは済まなかっただろう。しかし、それでも腕が軽いしびれでじんじんしている。


 中空に結界を張りその壁を蹴って一段高く跳ねる。


 ザワワ湖の縁を描く光の筋がぐるりと湖を囲んだ。それと共に酒臭さが強くなる。


 直感的に俺は蛇の翼を見た。発光する光が赤く点滅している。


 頭部を再生させた蛇があんぐりと口を開いた。その奥で赤く光を滲ませているのは……熱源?


「……」


 おい、ちょい待て。


 これって……。


 嘲うように声が告げた。



『あははっ、どっかーんっ♪』



 咄嗟に俺は防御姿勢をとる。足場を失うのもやむなしと周囲に結界を張り巡らせた。無詠唱バンザイ。


 直後、蛇を中心に大爆発が起こった。



 **



 俺は大爆発を咄嗟の防御結界で凌いだ。幸いにも湖に落ちずに済んでいる。


 熱波と爆煙が消えたのを確認する暇もなく湖から水球が飛んできた。もちろんそのまま結界で防ぐ。


「……」


 攻撃が続いているということは、つまりあの大爆発は自爆というより範囲攻撃。


 俺が見た湖の縁をなぞった光の線は結界魔法の範囲指定に似ていた。


 広範囲に結界を張る場合術者を中心に魔法を発動するか点で範囲を指定するか線で範囲を選ぶかのいずれかを決めねばならない。


 この中で最も魔力消費を抑えられるのが術者を中心として発動する方法だ。逆に線で範囲を選ぶ方法が最も魔力を消耗しやすくコントロールも面倒くさい。


 ちなみに俺が空中移動に使った結界の足場や壁は点で範囲指定したものだ。実は多用すると結構疲れる。


 なお、魔道具で結界を張る場合、魔道具の魔石を術者の代わりにして中心とする方法を取るのが一般的だ。


 飛沫を上げながら湖から蛇が現れる。デザインは最初の奴と同じだ。いや、それともこいつを含めての一体なのか?


 コウモリのような翼の色は黒い。だが、一応あの範囲攻撃には注意しよう。



『むう、ノーダメージなの? それにちっとも酔っ払ってないし。あれなの? 酔わない体質なの?』



「……」


 あ、うん。


 やっぱこれ酒の匂いなんだ。


 でも俺、オレンジ味のウマイボーのおかげで毒消しの効果を得ているんだよね。そもそも毒への抵抗もあるし。ついでに腕輪の効果で全属性耐性(弱)もついてるし。酔い止め対策はばっちりです。


 ああ、そっか。


 これ、本当はここの空気に含まれる酒の成分で酔っ払った状態で蛇と戦わされるんだな。それが俺には通じなかったと。


 さらにこの空気が可燃性で蛇の大技(もしくは魔法)で大爆発を起こすんだけどそれも俺は防いでしまったと。


 ま、いいや。


 俺は尻尾にマジックパンチを浴びせて宙を舞う。


 水球をバックステップで回避しながら手首に戻ってきた左拳を構え直した。


 俺の中で「それ」が囁く。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


 その声を聞き流しつつ腕輪に魔力を注いでいく。


 蛇の攻撃を避けながら俺は探知をし直していた。


 今俺が相手をしている蛇にも強い魔力反応がある。


 しかし、それに隠れるように別の強い反応があった。


 俺は蛇の真下の湖を睨む。


 もう一つの反応は湖の中だった。より正確に言えば湖の底。湖の中心にある岩の下だ。結構縦長なんだなあの岩。


 さて、どうするかな。


 俺はちょい躊躇した。


 湖に飛び込んで水中戦をしても別に構わない。俺は泳げるし親父に鍛えられたから息継ぎなしでも少しは潜っていられる。


 ただ、お嬢様に貰ったお菓子を駄目にしてしまうのはいただけない。


 いや、そんなレベルではないな。絶対に許されない行為だ。


 うん、水中戦は止めよう。


 俺は腕輪にチャージする魔力を増やした。


 呼応するように「それ」が喚く。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


 左拳だけでなく右拳も脈打ち鼓動のようにどくんどくんと震える。


 マジックパンチに必要とする魔力はとうに満たされ余剰分が力を増幅させるように魔力を濃くした。威力が上がっていくのを感じる。


 ……て、待て。


 頼んでもいないのに「それ」が力を注ぎ足していた。両拳が激しく黒光りし、その光がそれぞれの手の甲に黒い宝石を浮かび上がらせる。


 一気に魔力が倍加した。


 自分には抱えきれない力に堪えきれず、しかしそれでも狙いをつけて俺はマジックパンチを放った。


「ウダァッ!」


 一瞬光が爆発したような眩しさがして俺は目を瞑ってしまう。


 これまでにない轟音が響き左拳が飛んでいくのを感じた。空気を、そして水を切り裂くのが感覚として伝わってくる。


 分厚い壁を貫くような重い感触が繋がってない左拳から届いてくる。


 そして。


 明らかに水でも空気でもない何かを打ち抜く感覚。


 俺が目を開けると湖の中心にある岩のあたりで湖面が盛り上がった。次の瞬間水柱が爆音とともに立ち、大量の飛沫が飛散する。


 爆発の中心から青い光の玉が現れた。


 放物線を描いて俺に向かってくる。それは迷うことなく俺の腕輪に吸着し溶け込んでいった。


 俺の身体を青い光が覆い、消える。


 中性的な声が聞こえた。



『中ボスバトル レイクガーディアン戦をクリアしました』


『完全勝利によるクリアボーナスとして「水の精霊結晶」を手に入れました』

『女神プログラムにより、水の精霊結晶がマジンガの腕輪(L)と融合します』


『能力「スプラッシュ」を獲得しました』

『この能力はマジンガの腕輪に魔力を注ぐことにより単体あるいは複数の生物の生命力を回復させることができます』

『発動時には拳から水球を発射するエフェクトがかかります。この水球が対象に当たることにより回復の効果が現れます』

『なお、「スプラッシュ」の回復効果の度合いは能力の熟練度と消費する魔力によって変化します。またこの能力を発動中は魔法を一つ発動したのと同じ扱いとなりますのでご注意ください』



「……」


 えっと。


 いろいろとつっこみたいんだけど、とりあえずレイクガーディアンとやらは倒したってことでいいんだよな?


 俺は戸惑いつつも腕輪に目をやった。


 飾り気のないシンプルなデザインだったはずの腕輪は波のような青い模様で装飾されたものへと変わっていた。あの中性的な声はマジンガの腕輪(L)と水の精霊結晶を融合させたと言っていたからこの模様は水の精霊と何か関係があるのかもしれない。


 それと、女神プログラムって何だ?


 すっきりしない気持ちになりながらも俺は湖の岸へと降り立つ。


 イアナ嬢が駆け寄って来た。


「ジェイ、勝てたみたいで良かったけど……」

「ああ」


 どうやら彼女もあの中性的な声が気になるらしい。まあ仕方ない。


 イアナ嬢はお嬢様から渡された指輪をかざした。


「これ、三種抵抗の指輪って名前だったんだけどジェイが宙ボス戦(?)をクリアしたらパーティーメンバーのあたしにもクリアボーナスっていうのが入って指輪も変化したのよね。よくわかんないんだけど」

「あ、うん」


 俺もよくわからん。


「で、今は女神の指輪だって。前属性の抵抗力増大と状態異常無効、回復系と結界系の魔法に追加ボーナス」

「……」


 何それ?


 ちょいと破格すぎやしませんか?


 俺が目を瞬いているとあのボーイッシュな声が聞こえた。



『むむむむ。こんなの、こんなのつまんない』

『だが、試練は果たした』



 お?


 誰か別の声がしたぞ。


 新手か?


 イアナ嬢にも聞こえたのか彼女は警戒心を露わにあたりを見回した。


 わぁ、すっげえ眉をしかめてるぞ。


 おい、そこの次代の聖女。その顔は聖女じゃないぞ。



『まあそんな顔をするな』



 声とともに俺たちの前に褐色の肌の男が腕組みしながら現れた。


 白い布のような物を頭に巻いている。あれは確かターバンだ。お嬢様から教わったことがあるぞ。


 男は上半身は裸で下は膝くらいの長さの黒いズボンを履いていた。それにしてもすげぇ筋肉だ。屈強な戦士や騎士でもあんなのはなかなかいない。


 あと、俺の親父みたいにごつい顔だ。やたら眉が黒くて太い。あれは絶対にドラゴンを殺したことのある奴の顔だ。それも素手で。


「モス、いくら試練を果たしたって言ってもあいつは勇者じゃないよ」


 男の隣に少女が姿を見せる。空間から滲み出るようにじんわりとだ。


 こちらは黒髪のショート。かなり可愛らしい顔立ちの少女だ。十代半ばと言っても通用しそう。でもきっともっと長生きしてそうなんだよな。


 彼女は水色の小さな布で胸と腰まわりを隠している。白い肌が眩しい。おへそ見せちゃうんですね、はい。ご馳走様です。


 身体のラインはちょい微妙。まだまだ成長途中かな?


 とか思ったら彼女から水球を投げつけられた。とりあえず回避。


「むう」


 お、可愛い顔はむっとしても可愛いか。


 もう一発、と水球を出した彼女をモスと呼ばれた男が止めた。


「ウェンディ、そのくらいにしておけ」

「だってこいつムカつく。勇者じゃない癖に」

「しかし女神の導きによる試練をこなした男だ。たとえ勇者でなくてもそこは認めねばなるまい」


 また女神か。


 俺が会話に割り込もうとするとウェンディがこちらを睨んだ。


 俺を指差して。


「水の精霊結晶は手に入ったよね? それで能力強化なり新たな能力を獲得したのならそれで僕の役目は終わってるよ。さっさとクースー草を採って帰ってね。もっとも、勇者が相手なら使命を与えるところだけど」

「使命?」


 イアナ嬢。


 嫌そうにウェンディが告げた。


「勇者じゃないなら黙ってて」

「魔王復活の阻止だ」


 モスが答えた。


「……」

「……」


 俺もイアナ嬢も固まってしまう。


 聞くんじゃなかった。


 これ、間違いなく厄介な奴だ。



 **



 魔王復活の阻止。


 あまりの重大案件に俺もイアナ嬢も固まってしまった。


 それを面白く思ったのかウェンディが意地悪そうに笑む。


「何? 魔王にびびった?」

「まあ大抵の人間なら魔王を恐れるだろうな」


 モスがうなずく。何気に胸を反らして筋肉を強調しているように見えるのだが、あれか? 筋肉を自慢したいのか?


「安心しろ、別にお前たちに使命を押し付けるつもりはない」

「そもそも僕にはその気もないしね」


 ウェンディには相当嫌われたようだ。


 イアナ嬢が復帰し、やや上擦った声で訊いた。


「ま、魔王が復活って……本当なの?」

「俺が嘘をついていると?」

「……」


 ギロリと音がしそうなモスの睨みにイアナ嬢が口を噤む。ワォ、あのイアナ嬢を一発で黙らせたぞ。


「魔王の復活は本当だよ。ていうか正確にはすでに復活しているみたいなものかな。分身が暗躍しちゃってるしね」

「どういうことだ?」


 ああ、関わりたくないのに訊いてしまう自分が情けない。


 けどなぁ、魔王案件なら放置できないからなぁ。事実ならギルドに報告しないといけないし。


 でも、俺はわざわざ魔王討伐に向かったりはしないからな。そういうのはどうせノーゼアから離れた場所なんだろ? 俺は遠出なんてしないぞ。


 ウェンディがぷいっと横を向いた。


「勇者じゃない奴には教えてあげない」

「魔王は前の勇者に討たれたときに自分の分身をこの世界に残していた」


 モス。


「そいつは極めて卑小でそれ自体では何もできない無害な存在だ。しかし、そいつは長い時間をかけてゆっくりと力を吸収していった。そればかりかそいつはある物に目を付けた」

「ある物?」

「浄化の宝玉だ」


 俺の質問にモスが湖の中心に目をやりながら答えた。


 そこにあるのは天辺が平たい岩の上に載った大きな水晶玉のような玉だ。レイクガーディアンと戦う前より黒みが濃くなったように見えるのは気のせいだろうか。


「あれは大気中の穢れた魔力を吸収する。そして、浄化のプロセスを経た後に清浄な魔力として還元している。ここはそういった機能を持った聖域なのだ。故に常人は踏み入ることすらできない」


 空気中の魔力は実はただ魔力がある訳ではない。置きっぱなしの靴が埃を被るように時間経過とともに穢れていくのだ。


 穢れは決して人間だけから生じるものではない。しかし、圧倒的に穢れを撒き散らしているのは人間だった。


 物欲、憤怒、虚栄、淫欲、嫉妬……様々な負の心や感情がこの世界には溢れている。モスの説明によればそうしたものは自然と大気中の魔力に取り込まれるらしい。


 そして、ザワワ湖の宝玉のような機能のある聖域が世界に数カ所あり、そこで穢れを浄化して清浄な魔力に変えているのだそうだ。


「ただし、この浄化には限界がある」


 モスがむん、とポーズをとって腕の筋肉を強調した。あ、うん。素晴らしい筋肉ですね。


 どうでもいいがさっきからこいつポーズを変えながら説明しているんだよなぁ。地味にうざい。


 もちろんそんなこと口にしないが。


「宝玉はいわば濾過器のような物だ。どうしても残りカスが出るし、そのカスは蓄積されていく。残念なことに宝玉は溜まっていく物を無限に保管できるようには作られていない」

「限度を超えたらどうなるんだ?」

「宝玉は破裂する」

「……」


 おい。


 それってかなりやばくないか?


 言葉にはしなかったが俺の疑問は通じたらしい。モスはポージングを止めて最初の腕組み姿勢に戻った。


「宝玉から外に漏れたカスは邪悪の塊のような物だ。それらは聖域をも汚し、さらに森へと溢れる。全ての存在を変容させるだろうな。精霊は狂い、獣は魔物化する。そしてそれらは……」

「スタンピード」


 イアナ嬢がつぶやいた。


 モスが肩眉を上げる。


 話を途中で止められたことに腹を立てるでもなくモスは続けた。


「そうだ。過去のスタンピードはそうして発生した。前のときは木こりの集落が飲み込まれたな。付近の街に被害がなかったのは単に聖女の浄化のおかげだ。あれは結構優秀な人間だぞ」

「お堅いおばちゃんだけどね」


 ウェンディ。


「僕、あのおばちゃん苦手」

「あーうん、わかるわかる」


 こくこくとうなずく次代の聖女。おい。


「聖女のおかげでそのときのスタンピードは終わった。だが、彼女はそこに魔王の分身がいたことに気づかなかった。あまりにも魔力の濃度が濃くて魔王とそれ以外の区別がつかなくなっていたというのもあるかもしれんがな」

「いや待て」


 モスが「仕方ない」と言わんばかりに肩をすくめたので俺はつっこんだ。


「スタンピードの起きた場所ならとてつもない濃度の魔力があるんじゃないか? 魔王の一部とはいえそいつがそこで魔力を吸収したら」

「そうだな、相当の回復をしただろうな」

「……」


 おいおいおいおい。


 やばいだろ、それ。


「俺もウェンディも魔王には手を出せない。それが俺たちに組み込まれたルールだ。だから魔王のことはお前たち人間に任せるしかない」

「僕は勇者にその役目を果たして欲しいけどね。それが本来の運命(シナリオ)な訳だし」

「……」


 なら俺は不参加でいいかな?


 俺はギルドへの報告だけしておくことにした。あくまでも俺の使命はお嬢様を守ることだ。そのために必要なら魔王だってぶん殴るが、そうでないならわざわざ首を突っ込んだりはしない。


「ねぇ」


 イアナ嬢。


「宝玉が破裂して、その後のスタンピードも終わったら次はどうなるの? 宝玉は仕えなくなるのよね?」

「しばらくしたら再生する」


 モス。


「限界まで機能を維持して破裂、一定期間の休止の後再生、そしてまた限界まで機能を維持……これを繰り返しているのが浄化の宝玉だ」

「破裂までの期間がどのくらいかは穢れの量にもよるけどね」


 ウェンディがニヤリとした。とても悪い笑みだ。


「たぶん人間が栄えれば栄えるほどペースは速まるんじゃないかな。でもしょうがないよね? 人間は穢れを持つ存在だし人間から完全に穢れを無くする方法もないんだからさ」

「ウェンディは人間が嫌いだからな」

「うん。でも例外がない訳じゃないよ」


 ちら、と彼女は俺を見た。


「エミリア様のお気に入りなのになーんか残念。でも、まあ命を重く思っているようなのは感心かな」

「「エミリア様?」」


 つい、声が裏返ってしまった。


 つーかイアナ嬢まで声を裏返すなよ。こんなハモり方嫌だよ。恥ずい。


「そそそ、そもそもあなたたち何者? 人間じゃないのよね?」


 今さらな質問である。


 だがイアナ嬢、それは俺も知りたい。


 ウェンディが吃驚したように目をぱちぱちさせた。モスは腕組みしたままふんぞり返っている。はいはい偉そうですね。


「え、それ今になって訊くの?」

「察するくらいできそうなものなのだがな」

「……」


 あ、うん。


 いくつか候補はあるよ。


 ただ、お嬢様の名前が出た時点でいろいろ吹っ飛んだけど。


 ウェンディの口が弧を描く。


「そっかぁ、わかんないかぁ。でも、教えてあげなーい♪」

「俺たちは精霊だ」

「……」


 ウェンディが意地悪しようとしたらしいがあっけなくモスにばらされる。


 あーあ、可哀想に固まっちゃったよ。


 けど、そうか精霊か。


 俺はモスとウェンディを見る。


 ほとんどの精霊はとても不安定な存在だ。意思らしい意思もなくただそこにいるかふわふわと漂っている。しばらくすれば消えてしまうか消えなくてもちょっとしたことで変容してしまうような脆弱な存在だ。


 はっきりと形を成すようになれば長く存在できるようになるし力も強くなる。シュナに加護を与えたおばちゃん精霊(雷の精霊のラ・ムー)のように形だけでなく名前まで持てばさらにその存在力や精霊としての格も上がる。


 今、俺の目の前にいるモスとウェンディはどれだけ高位の精霊なのか。少なくともあのおばちゃん精霊より上に思えるのだが。


 つーか、神格持ち?


 あっ、とイアナ嬢が声を発した。何か思い当たったという感じだ。


「モスとウェンディ、だとすればマクドとファスト、リアとロッテもいる……とか?」

「イアナ嬢?」


 ええーっ、と叫びそうな表情で彼女はモスとウェンディを交互に見つめた。動揺がすごいな。


「精霊王、いえウィル教的に言うと十天使? 嘘っ、まさか実際に会えるだなんて」

「ああ、そういやウィル教じゃ高位の精霊を天使として扱うんだよな」

「その中でも十指に入る最高位精霊を十天使と呼ぶのよ。伝承とかだと精霊王って言われたりするけどね」


 その土地や時代によっても呼び方は変わるだろう。


 ただ、教会としては高位の精霊を天使として認識させたいらしい。このあたりは教会の都合だな。


「僕としては十天使じゃなく名前で呼んで欲しいけどね。でなければ水の精霊? 仰々しいのは嫌い」

「俺もただのモスで十分だ。せっかくエミリア様が俺たちに付けてくれた名前だしな」

「あれ、モスは大地の精霊って呼ばれるのは駄目なの?」

「どうしてもそう呼びたいなら許す。だが、まあやはりエミリア様が付けてくれた名前が一番だな」

「「……」」


 おいおいおいおい。


 てことはこいつら水の精霊王と大地の精霊王かよ。


 あーあ、驚き過ぎてイアナ嬢の口から魂が抜けかけてるじゃないか。これどうするんだよ。


 あと、さらっと爆弾発言を放り込むのは止めてください。


 ええっと、こいつらの名付け親がお嬢様って……?

 

 

 


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