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第三話「昆虫用ゼリーは食べないで下さい」

 ななこは浅門学園初等部に通うごく普通の少女であった。

 ある日、本荘総本山にて神秘の儀式を受け、力の源となるひもろぎの勾玉を受け継ぐ。

 街の平和を守るべし、とのひもろぎの神の特命を受けたななこの戦いが始まった!

 浅門の森公園。

 急激に市街地化している浅門町の中にある公園である。ベンチや東屋があり自治会により整備されているが、遊具はブランコと滑り台とパンダ?の乗り物くらいである。

 色々な木々が生えており、近傍の住民にとっては貴重な森林浴スポットだったりする。

 ななこ達はここ浅門の森公園に放課後に遊びに来ていた。

「まっさんは……まだ来てないみたいだなぁ」

 ベンチの方を確認してななこは呟く。いつもその辺りで転がっているはずである。

「ななこお気に入りのまっさんとやらは居ないのか」

 友人の下里あきらが辺りをきょろきょろと見回す。その後ろにいるのはあきらの幼馴染の平田ヨースケである。

 二人は公園の木を見て歩いている。

「よっしゃあ!クヌギの木がある。ここならカブトムシ来るかもしれないなっ」

 そして何やらカブトムシ捕獲作戦を話し合っている。それを横から見ているななこ。

 日焼けした肌に固い髪質のあきら。白い肌にふんわりとした髪質のヨースケ。

(この二人並ばれると性別が分からなくなるなぁ)

 などと考えて、ななこが見つめていると、二人は視線に気づく。ヨースケは顔を真っ赤にする。それを見てあきらは笑う。

「あはは、ななこ。あまり見てるからヨースケが照れてるぞ」

 彼は元々肌の色が白いので、赤面すると目立つのである。ヨースケはふいっとそっぽを向くと離れた木の方へと歩いてゆく。

「お、おい、ヨースケ、待てよー」

 あきらは慌ててヨースケの後を追う、

 そうしてしばらく二人は公園の中の木を見て回っていた。

 すると。

 公園にガラの悪い五人組が入って来た。中等部くらいであろうか。

 五人組は二人の元へとやってくる。

「おい、ガキども。誰の許可を取って公園で遊んでるんだ?」

「誰のって……公園で遊ぶのに許可なんていらないだろっ」

 あきらがそう言うと五人組の一人はため息をつく。

「はぁっ、分かってなかったか。この公園はな、俺達竹笠の一味の縄張りなんだぞ」

「竹笠……?」

 あきらは改めて連中を見る。一番奥に円錐形の竹笠を被った男がいた。リーダー格らしい。

「ここで遊びたければ俺達に場所代払いな!」

「ことわる!勝手に縄張りだなんて言われて納得できるかよっ」

 あきらの言葉に子分達は竹笠リーダーの方を見る。リーダーは指で行け、と指示を出す。

「少し痛めつけて誰が公園の主か分からせてやる必要があるようだな!」

 子分4人があきら達を取り囲む。

「相手は4人か……数の上では少し不利だが何とかなるよな?ヨースケ、ななこ」

 あきらは後ろを見るがそこにいたのはヨースケ一人でななこは居ない。

「あれ?ななこ?どこいった?……まいったな、さすがに2対4じゃ分が悪い……。」

 少し考えてあきらは平然を装ってにやりと笑ってみせる。

「ふっ、弱い奴ほど群れたがるっていうけど本当だな。一人じゃ何もできないのか~?」

「何を!お前みたいなちんちくりん、俺一人で十分だ!」

 子分の一人が前に進み出た。

(1対1のタイマンに持ち込んだところまでは計算通りだが、さて)

 あきらは腰を落として戦闘態勢に入る。

 すると子分Aはまっすぐあきらに向かって突っ込んで来る。

(相手の勢いも利用しつつ、重い打撃で一撃必殺!)

 あきらは低い位置から拳を思いっきり突き出す。

 と、その時、争いを止めようとヨースケが二人の間に割って入った。

 子分Aの拳が顔面に、あきらの拳は腹部にめり込み、ヨースケはぶっ倒れる。

「うわぁ!ヨースケがぁ!」

「俺達に楯突くからこういう事になるんだ」

「よ、よくもヨースケを!お前達本当に許さーんっ!」

「そいつ殴ったのは半分お前なんだけど……。」

 完全に頭に血が上ったあきらが竹笠軍団に突っ込んでいこうとしたその時。

「ちょっと待ったぁーっ!」

 ななこが来た。一人の青年を引き連れてななこが今来た。

「な、ななこ!?援軍を呼んできてくれたのか!ひょっとしてその人が、噂のまっさん?」

 あきらの問いに青年はこう答えた。

「いかにも!」

 あきらは青年を改めて見つめる。長身で筋肉質、いわゆる細マッチョとでもいうべきか、爽やかな顔立ちと相まっていかにも異性受けしそうな好青年である。しかし、服装は作業着なのだが上着の方は脱いで腰に巻いており、Tシャツ一枚で、髪質もさらさらであるが、全く整えられておらず無造作な印象を受ける。つまり一言でいえばだらしなさが節々ににじみ出ているのだ。

 彼は手にした飲みかけのミルクコーヒーをぐっと飲干すと缶の側面をぐしゃっと潰す。それを見た竹笠軍団はどよめく。

「お、おい、あれスチール缶だよな!?片手で潰しやがったぞ!」

 それを聞いてか聞かずかまっさんは親指を缶底に、人差し指を上蓋に載せるとそのまま指二本で缶を潰して小さくしてしまった。

「なぁ、君達ここってゴミ箱あったっけ?」

 まっさんがそう言って竹笠軍団に歩み寄ろうとすると。

「うわぁぁ!」

 子分の一人が逃げだした。

「お、おい!待てよ!」「おいていくなよ!」

 最初の一人に続くように竹笠軍団は逃げていった。

「流石はまっさん、戦うまでもなく相手を散らせるとは」

 ななこは感心したようにつぶやく。

「ありがとうまっさん!そ、それよりヨースケが!」

 鼻血を吹いて地面に倒れているヨースケ。

「大変だ、手当しないと……。」

 と、一同が慌てていると、杖をつく音が近づいて来た。そう、ひいらぎ先生だ。

「うゆゆ、先生!来てくれたんだぁ!」

「この辺にアラサーでフリーターの不審者出るとか噂で聞いたから巡回してたら何か騒ぎが聞こえてきたから来てみたんだけど……。」

 ひいらぎ先生は辺りを見回すと、そこにいたのはアラサーのフリーターのまっさん。

「……。」

「……。」

 しばし見つめ合う二人。そして。

「もしかして松戸君?」

「ひいらぎちゃん?」

 驚いた様子で顔を見合わす二人。


 ヨースケはひいらぎ先生の的確な処置を受けた。

「ふーっ。これでよしっ。にしても、アラサーのフリーターの不審者って松戸君の事だったのね」

「ぬなっ!?それだったらひいらぎちゃんも同じアラサーだろ!?」

 言い合っている松戸とひいらぎを見て、ななこは率直な疑問をぶつける。

「二人って、知り合いだったのかなぁ?」

 するとひいらぎはどこか気まずそうに答える。

「あー……。松戸君とはね、浅門学園の同級生だったのよ。再会したのは本当に久しぶりだけどね。松戸君って同窓会にも顔出さないんだからまったく!ほっしーも青瀬君も会いたがってたわよ」

「いやぁ、しばらく家に帰ってなかった時期があってさ、同窓会のお知らせ見たの、終わって半年くらい経ってからだったんだよ。みんな元気だった?あはは」

「肝心な時に連絡つかないとか何なのよまったく……。」

 二人の距離感の近さを見て、何となくななこは気になったことを口にする。

「二人って、本当にただの同級生?」

 すると松戸はにやりとして答えた。

「んー。バレちゃったかぁ。実は俺、ひいらぎちゃんの元カレなんだ」

「う、うゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーっ!?」

 驚くななこにひいらぎは慌てて口をはさむ。

「息をするようにいいかげんな事を言うなっ!まったく!」

「うゆ?ほんとは違うの?」

 ななこの問いにひいらぎは真っ赤な顔で俯いてぼそぼそと答える。

「……昔、一度デートしただけだし」

「ひいらぎちゃん、あの頃より更に可愛くなってるし、今からでも俺とやり直さない?」

「松戸君は相変わらず軽すぎる!そーいうところが無理なのよっ!」

 ひいらぎの言葉を受けて、松戸は苦笑しながらななこに振り返る。

「こんな感じでフラれたんだけどね、あはは」

「あー、二人ってそういう」

 何となく二人の関係性を理解したような気がしたななこであった。


 その後、松戸は町工場のバイトがあると言って去って行った。

 気を失ったままのヨースケを運ぶためにひいらぎはタクシーを手配し、ななことあきらはそれに便乗した。ひいらぎは料金を先払いすると巡回を続けるといい杖をついて歩いて行った。

「タクシーいいなぁ!何か何か、特別感がある!」

「うゆ。そうだねぇ。タクシーなんてめったに乗れないからねぇ」

 まもなくタクシーは浅門駅近くのアパートに到着した。

 浅門メゾン。築数十年は経つ古びた2階建のアパートである。1階に7部屋、2階に7部屋ある。全室間取りはほぼ同じで2LDKの物件といえば聞こえは良いが、肝心なリビングダイニングキッチンスペースが狭めという欠点がある。しかし駅が近くにある上に家賃が格安であるので、空室が出てもすぐに新たな入居者が入り、常にほぼ全室埋まっている状態である。

「あ、ここで止めて。ありがとー。ななこ、ヨースケ運ぶぞ。足持ってくれ」

「うん。分かった。よいしょっと」

 あきらが上半身、ななこが下半身を持ってヨースケを運ぶ。

 道路からアパートの共用通路へと入って、各部屋への入り口を横目に奥へと進む。

 六番目の扉の前まで来た。部屋番号は107号室と書かれている。104号室が存在しないので一つ番号がずれているのだ。

「ここが平田君のお家?」

 ななこが聞くとあきらは首を横に振る。

「いんや?こっちはあたしの家。ヨースケは隣の108号室。」

「そういえばお隣同士だったんだっけ」

「ああ。今日はヨースケのかーちゃん夜勤で帰って来ないから元々あたしの家に泊まる予定だったんだ」

「わぁ、本当に仲良しさんだねぇ」

 と言ってる間にあきらは鍵を開けて扉を開く。

「ただいまーっと。ななこも上がってよ。ヨースケ部屋まで運ぶのもう少し手伝って」

「うん。おじゃまします」

 様々なサイズの複数の靴が乱雑に氾濫している玄関のわずかな隙間に靴を脱ぐとななこは部屋の中に上がる。

 上がるといきなり狭めのリビングダイニングキッチン的スペースであった。玄関のすぐ横に狭いキッチンが備え付けられている。スペースの真ん中には食卓に用いられる4人掛けのちょっと大きめのテーブルが鎮座している。テーブルの上には調味料やらティッシュ箱やら何かのリモコンやら数日分の新聞が乱雑に積み上げられている。奥の壁側には数少ないリビング的要素としてテレビが置かれている。

(私の家も広い方じゃないけど、あきちゃんの家は更に狭いなぁ)

 そんな事を考えながら部屋の中を見回していると、テレビの横に小さな仏壇があるのに気づく。仏壇にはあきらをそのまま成長させたかのような女性が底抜けに明るい笑顔で映っている写真が飾られていた。

「おい、ななこ。こっちな」

 あきらは奥にのびる細い廊下を指す。ななことあきらはヨースケを抱えて廊下へと進んでゆく。暗く細い廊下を進むと左側に二つ、突き当りに一つの扉が見えた。正面の扉は収納スペースらしく半開きの扉から生活雑貨やら何が入っているのか分からない謎の段ボールやらが覗いていた。

「手前があたしととーちゃんの部屋な。とりあえずこっちに寝かせよう」

 あきらが左側の手前の扉を指すと、奥の扉の方が開いた。そして背の高い青年が出てきた。

「何だ、あきら。ヨースケ君来たのか?……って、死体隠匿でもしてるんかお前ら」

 あきらが上半身、ななこが下半身を持ってぐったりしたヨースケを運んでいる様子は、まるで死体の運び屋のようであった。

「いやいや、これは違くて。話せば長くなることながら……。」

 あきらは青年に簡単に今までの経緯を説明する。

「うわぁ……ヨースケ君災難だったな。ところでそっちの子がもしかして、ななこちゃん?」

「うゆ。あきちゃんの同級生の長嶺ななこといいます」

「やっぱり!あきらから話を聞いてるよ。料理得意なんだってね。あ、俺、あきらの兄のコージ。浅門学園の高等部にいるよ。よろしくね」

「よろしくお願いします」


 あきらの部屋は窓の無い狭い四畳半であった。布団を敷くとヨースケを寝かせる。

「これでよし。」

「平田君って、二人がかりとはいえ私でも運べるくらい軽いんだぁ」

「ヨースケって、男にしては華奢なんだよなぁ。それにしてもこれじゃ今夜は無理か」

 眠り続けるヨースケを見つつ、呟くあきら。

「無理って、何が?」

「ななこ、今夜時間あるか?」

「うゆ?」



 その頃、浅門の森公園。

 木の上で考え込む一匹のけだものがいた。

 そう、妖怪変化ももんがである。

「勾玉を持っているとはいえ、名も無き少女たった一人を相手にここまで苦戦するとは」

 ももんがはどんぐりをかりかりとかじって考える。

「そもそも僕の能力は後方支援型だから、やはり前衛型の協力者が要るよなぁ」

『力が欲しいか?』

「?」

 声がした方向を見ると、そこには一匹のカブトムシ。

「もしかして今の声は、君か?」

『そうだ、力といえば我であろう』

「僕に力を貸してくれるのか!」

『同じ森の仲間であるしな。互い様さ』

「ありがたい!僕の理想郷創造の暁には君に勲章をあげよう!」

『どうせくれるなら食い物がいいが……。ともあれ力は貸すぞ』

「それでは僕の黒勾玉を貸すから、君は僕にその力を貸してくれ!」

 ももんがは黒勾玉をカブトムシの角の根本にはめこむ。

 すると、カブトムシは黒い光に包まれた!


 その夜の浅門の森公園。

 ななこはあきらに連れられて再びここに来ていた。

「わぁ、カブトムシとかいっぱいいるなぁ」

「よっしゃあ!あたしの見立て通りだったぜっ」

 公園には頼りない外灯が2つ、離れた位置に存在するだけである。

 外灯の影になっているが木の樹液にはカブトムシやクワガタムシ、カナブンなどが集まっているのが確認できた。

(そういえばあきちゃん、平田君とカブトムシ捕獲作戦とか話してたなぁ)

「これだけいれば、ちょっと売ってお金持ちになれるかもなぁ。ななこ、何か買いたいものとかあるか?」

「えーっと、ちょっと高いけどおいしいお菓子とか買いたいなぁ」

「スケール小さいなぁ。まぁお菓子おいしいもんなぁ。あ、ななこもゼリー食う?黒蜜とバナナ味あるけど」

 そう言ってあきらはポケットから昆虫用ゼリーを取り出す。

「あきちゃん……とうとう知性も味覚も昆虫並みに……。」

 二人がそんなやりとりをしていると。

 木の陰の大きな何かが動いた気がした。

「うゆ……?」

 ななこ達が目を凝らすと、軽自動車並みの大きさのそれはゆっくりと前に進み出る。

 それは、巨大なカブトムシだった。

「うゆゆゆゆゆゆーーーーー!?」

「おいおいおいおいおい!あんなでかいのまでいるのか!捕まえたら億万長者だぞ!」

「あ、あきちゃん、そんな事言ってる場合じゃない。何か様子がおかしいよ」

 巨大カブトムシは二人の事をじーっと見ている。

『勾玉の気配を感じて来たら……我々を乱獲しようとしているのは貴様らか』

「「きぇぇぇしゃべったぁぁぁ!」」

『我々を乱獲する不届き者は腐植土の原料にしてくれるわ!ついでに勾玉もいただいて一石二鳥!』

「「またしゃべったぁ!」」

 などと驚いていた二人だが。

「あきちゃん、あのカブトムシ、私の勾玉が目当てみたい……って、あれー?」

 見るとあきらも首にかけてた勾玉の首飾りを服の中から取り出していた。

「勾玉ってこれのこと……?って、何でななこも同じ勾玉持ってるんだ?」

「私は、その、神社でもらって……あきちゃんはどうして??」

「これさ、かーちゃんの形見なんだ。とーちゃんがお守り代わりに持っておけって。でも何でこんな勾玉をカブトムシが欲しがるんだ?」

『勾玉が二つ……?面倒だ、どちらも奪い取って一石三鳥!冥途の土産に教えてやろう!カブトムシの力は自重の八倍だ!圧倒的な力をくらえーっ!』

 カブトムシは二人に向かって勢いよく進んで来る。

 二人は慌てて逃げだす。が、目の前には木、二人は左右逆側に逃げる。追ってきたカブトムシはどちらを追うか迷っていたが、やがて真ん中の木に激突した。大きな音が響く。

「あいつでかくてもやっぱりカブトムシだ!あんまり頭よくない!」

「今のうちに、勾玉の力で……!」

 ななこは勾玉を握るとドレンチェリーを生成しようとする。

が。次の瞬間、物凄い音を立てて木がななこの方に倒れて来た。生成に集中していたななこは反応が遅れて逃げそびれてしまった。ななこは木の下敷きとなる!

「な、ななこーーーっ!」

 流石のななこも気を失ってしまったらしく、何の反応もしない。

『まずは勾玉一つ入手、と。』

 カブトムシはななこから勾玉を奪い取ると自らの額にはめ込んだ。

 ななこの勾玉は白く光り、黒勾玉は黒く光り、まるで陰陽太極図のような様相を見せた。

『これが神の力か……!』

 カブトムシの身体が光を帯びて一回り大きくなった。

「ま、まずい!これ以上強くなられたら本当に勝てなくなる!どうしたらいいどうしたら!……この勾玉にあんな力があるのか?このかーちゃんの勾玉にも力が?……かーちゃん、あるんだったらあたしに力を貸してくれっ!」

 あきらは勾玉を右手に握りしめて祈る。

 すると、勾玉が光り始める。

「やっぱりそうだ!この勾玉には何か不思議な力があるんだ!」

 勾玉の光はそのまま右手に移る。

「この光が何かよく分からないけど……うりゃあーっ!」

 あきらはそのままカブトムシに向かってチョップを振り下ろす!が、野生の勘か、カブトムシは後ろに退いて避ける。あきらの手の光はそのまま当たった木を真っ二つにした。

「す、すげぇ!この勾玉の光……まるでまさかりだ!」

 あきらは田舎の祖父の家の薪割りを思い出してそう言った。

 カブトムシは本格的に危険を感じて一旦退却しようと羽を広げて宙に飛び立つ。

「いけない!逃げられる!……逃がすかよ!くらえっ!」

 あきらは光る右の手を空中のカブトムシに向かって振り下ろす!すると光が手から離れて飛んでゆき、カブトムシの身体を真っ二つにした!

「よっしゃあ!仕留めたぜっ!」


 あきらは勾玉の力を利用して木を切断して下敷きになっていたななこを助け出した。

「おい、ななこ。無事か?」

「うゆぅ……今回私いいとこ無しだよぉ……。」

「しかしだななこ。この勾玉って一体何なんだ?」

「私もよく分からないんだけど……私の勾玉はひもろぎの力、だったかなぁ」

『左様。そなたの勾玉はひもろぎの勾玉じゃ』

「その声はひもろぎ様?ってうゆぁぁぁぁっ!?」

 振り向くと手のひらサイズの小さな巫女のちびキャラが浮いていた。

『姿がないといめぇじしにくいと思っての。どうじゃ、可愛かろう?』

 よく見ると半透明で実体は無いようである。

「な、何だこいつは……。」

「あきちゃんにも見えるの?この子、私にこの勾玉をくれたひもろぎの神様なんだよ」

「神様ぁ?手のひらサイズの神様ねぇ。で、ひもろぎ様?あたしのこの勾玉は何なんだ?」

『どれ、見せてみよ。……ふむ、分かったぞ。それは我がひもろぎの枝葉勾玉じゃの』

「枝葉?」

 あきらの疑問に答えるようにひもろぎ神は説明する。


 太古より存在するひもろぎ神とその力のシンボルであるひもろぎの勾玉。それを崇める人々によって自然発生した古神道が本荘総本山の起源である。

 ひもろぎの勾玉は本荘総本山の宮司巫女に代々受け継がれ、奇跡を起こして来た。ひもろぎ神を崇める氏子や嫡流ではない本荘一族の分家のために、本荘総本山が祝福を以って作り上げた複製勾玉を贈っていた。オリジナルであるひもろぎの勾玉を持つ本荘総本山を大木の根幹とすれば、氏子や分家は枝葉にあたるとして、その複製勾玉の事を枝葉勾玉と呼んでいた。


『あきら、と言ったか。そなたの母上の一族は本荘神社の氏子……いや、我が本荘一族の分家筋であったのだろう。でなければいきなり勾玉をあそこまで使いこなせるはずがない』

「かーちゃんが、本荘神社の一族だった……?」

『ここ100年分家は出ておらん。おおかた2、300年前辺りの分家筋であろう。よく見ればその黒髪と赤い瞳、本荘一族の特徴を受け継いでおる。分家筋とはいえ、よう本荘の血筋を受け継いで生まれてきてくれたのう。嬉しいぞ、我が末裔よ』

「ひもろぎ様はあたしの遠い遠いご先祖ってわけか……何だか不思議な感覚だな」

「でも心強いなぁ。あきちゃんも勾玉の力の持ち主だなんて」

「ななこの勾玉にも不思議な力があるのか?」

「うんっ。私の勾玉の力は、爆裂ドレンチェリー!」

 ななこはカブトムシから取り返した勾玉を持ってポーズを決める。

「何か格好いいな。あたしもこの勾玉の力に名前をつけるか。あたしの力はまさかりのようだから、ええと……まさかりマスター!」

 あきらは自身の勾玉を見ながら力にそう名付けた。

「それにしても、ひもろぎ様。勾玉の力って結局、何なんですか?」

『……可能性じゃ』

「……可能性?」

『その者の持つ可能性を具現化することが出来る……それこそが勾玉の力なのじゃ』

「私の、可能性……。」

 ななこは勾玉を見つめる。勾玉は透き通った光を湛えるだけであった。



*色々と再構成の必要を感じまして、リメイクというかリテイクというか、仕切り直しします。

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