Vol.8(見つけた)
ふと気がつくと辺りは真っ白だった。
見渡してわかることはここは田圃道であるということ。田んぼの中には少し育った苗が綺麗に整列している。
ということは白いのは霧か?
足元しか見えないが俺は冷静だった。
なぜか前へ進まなければそう思い足を動かした。
しばらく歩くと目の端に色が見えた。
夕方を思わせる橙色だ。
それに目を取られる。
ふよふよとこちらを招くような動きをするそれに俺は手を伸ばす。
でも、とどかない。
届かないなら近づこう。
それに向かって俺は走った。
近づいては遠のき、遠のいては近づき。
それは俺を嘲笑うかのように舞っている。
「待て。待って。」
俺はそれに手を伸ばす。
届かない。
かわされる。
届いた。
と思ってもそれは手をすり抜ける。
「なんで。なんで。待って。」
すり抜けても諦められなかった。
手を伸ばす。
届く。
すり抜ける。
すり抜ける。
すり抜ける。
「なんで。届かない。」
目が熱くなる。
涙が溢れ出す。
「やっと、見つけたのに。」
口からそんな言葉がこぼれ落ちた。
橙色のそれは立ち止まっていた。
橙色は形を変える。
さっきまでとは違う。
だんだんと大きくなって、
だんだんと人間の大きさになって、
だんだんと少女の姿になって、
こちらをじっと眺める目ができて、
口ができて、それの形が変わって。
「 」
「ありがとう?」
そう動いた気がして、俺は、地べたに座り込む。
足の力が抜けたんだ。
「やっぱり、君は〇〇なんだね。」
橙色がコクリと頷く。
「やっと見つけた。」
俺はそれに一層の笑顔を向けた。
溢れた涙が宙を舞う。
でも、それよりももっと“良かった”そんな感情が俺の中で溢れ出た。
ーーーーー
ふと気がつくとそこは普通の田圃道だった。
なんの変哲もない普通の田圃道。
少し成長した苗が綺麗に並んでいる。
俺はその道に座り込んでおり、なぜが鼻と目頭が熱くほてってている。
まるで今まで泣いていたかのようだ。
あたりを見渡すと、少し先にキラリと光る何かを見つけた。
それに手を伸ばす。
「やっと見つけた。」
それは、彼女が大切にしていたイヤリングだった。
俺が彼女に送った。最初で最後のプレゼント。
オレンジ色の石が嵌め込まれた小さなイヤリング。
あぁ、そうか。
これを教えてくれたのか。
そこは、彼女が事故に遭った近くの道路だった。