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一緒に薬草畑へ行きました

本日2話目の更新です。ご注意くださいませ。


 二度目の貢物(鹿)に途方に暮れたのち、ルルはその日もユートに協力を要請せざるを得なかった。


 結局その日の午後は持ち帰った鹿肉と昨日の猪肉をまとめて保存食にするための作業に費やすことになり、町へ行く予定は持ち越し。その代わり新鮮な鹿肉が手に入ったということで、晩ごはんはハンバーグを作って食べた。トマトソースにちょっと奮発してチーズまで使ったハンバーグはまさに絶品で、珍しくユートもおかわりを要求したほどだった。


 ちなみに金色狼用には薄切りにして焼いた鹿肉を器いっぱいに作って昨日と同じ場所に置いておいた。その際、ダメもとで『明日は町に出るのでお肉はいらないよー』と言うだけ言っておいた。人語を理解している節のある狼だったので、伝わっていることを祈りたいところである。


 そうして次の日、空になっていた器を回収したルルは急いで支度を整えた。昨日行けなかったので、今日こそは町へ買い出しに行きたい。そのためにいつもより早起きして薬草畑の手入れを午前中に済ませてしまうことにしたのだ。

 手早く二人分の朝食も作って自分の分を胃に収めると、ルルは外套を羽織り愛用の鞄を肩にかけ、採取した薬草を入れるための籠を手に下げる。そしてモソモソと朝食を食べているユートへ声をかけた。


「じゃあユート、ちょっと薬草畑に行ってくるね! お昼前には戻るから」


 いつもならここで目線だけ返ってくるのだが、今日は違った。


「……俺も行く」

「え?」


 彼は朝食をとる速度を上げ、あっという間に食べ終えた。そして立ち上がるとさっさと玄関扉を開けてしまう。


「ほら、行くんだろ畑」

「あ、うん……うん!? え、もしかして一緒に行ってくれるの!?」


 驚き半分喜び半分で問えば、ユートは少しだけ嫌そうな表情を作った。


「勘違いすんなよ。くつろいでる時に荷物運びを手伝わされるのが面倒なだけだ」


 ぶっきらぼうな物言いだが、それが照れ隠しであることは明らかだった。ルルは嬉しくなって思わず口元を緩める。


「そっかそっか! ありがとね、ユート。とっても助かるよ!」

「っ! ……くそっ、いいから行くぞ!」


 段々と、ユートの感情の振れ幅が大きくなってきている。いい傾向だとルルは思う。

 それから二人で薬草畑へ行き、ルルはサクサクと日課を済ませていく。そして昨日の伝言が功を奏したのか、今日は金色狼からの貢物は見当たらなかった。

 そんな作業の途中、暇を持て余したのかユートがルルの作業を見ながら珍しく口を開いた。


「……それ、昨日の料理に使ってたやつか」

「ん? ああ、そうそうよく分かったね! これはタイムっていう香草だよ。いい香りでしょ?」


 肉の臭み消しにも重宝するんだよと言いながら、ルルは収穫したばかりのタイムをユートに差し出す。すると彼は意外にもこれを素直に受け取った。そしてすんと匂いを嗅いでからポツリと呟く。


「昔……おふくろが育ててたやつに似てる」

「ユートのお母さん? へぇ、ほかにはどんなものを育ててたの?」


 薬草を取り扱う身としては大変気になる。

 ルルが興味津々に聞けば、ユートは少し驚いたような表情をした後で、


「……そっちのやつとか、あとはバジルとかカモミールとか、確かそういう名前だった気がする」


 とても穏やかに答えた。

 ちなみにそっちのやつ、と言って彼が指さしたのはローズマリーである。

 どこか懐かしそうに目を細めるユートの姿は初めて見るものだ。前髪から覗く黒い瞳が神秘的で、自然と視線が吸い寄せられる。


(ユートの瞳の色って綺麗だなぁ……)


 だからこそ前髪が余計に邪魔だと感じてしまい、ルルは無意識のうちにユートの額に手を伸ばしていた。そのまま彼の前髪をそっと掻き分けると、びっくりして固まった表情に直面した。

 やはり見れば見るほど綺麗な顔立ちをしている。恵まれた体格といい、前髪を上げて町を歩けば女の子の視線を一気に集めそうだ。


「おまえ、な、なにを……」


 ユートは突然の事態に動揺しているらしく、ルルのされるがままになっている。

 それを良いことにルルは思い切って提案した。


「ねぇユート、私に髪を切らせてくれない? 今のままだと前が見づらいでしょ?」

「っ!! ……余計なお世話だ! 放っといてくれ!!」


 そう叫ぶように言って、ユートは大きく身を後ろに引いた。そこまで強く拒絶されるとは思っておらず、ルルは面食らう。が、次の瞬間には慌てて「ごめん!」と謝罪した。


「そんなに嫌がるとは思ってなかったの。ごめんね、もう言わない」

「……」

「ユート……?」


 ユートは反応を待つルルを少し気まずげに見た後、ふいっと顔を背けて少し距離をとった。そのまま彼はルルから少し距離をとると、木の下に座り込んだまま目を瞑って動かなくなる。

 そんなユートの無言の拒絶にルルは激しく後悔した。ユートが自分から歩み寄ってくれる気配を見せたのが嬉しくて、つい急速に距離を詰めようとしすぎた。


(ううっ……せっかく仲良くなる絶好の機会だったのに)


 とりあえず今後は前髪については絶対に触れないようにしようと心に決める。非常に勿体ないとは思うけど本人が嫌なのだから仕方がない。

 そこから少し気まずい気配を漂わせつつ、ルルは黙々と手を動かし続けた。


「よし、終わったー」


 ほどなく作業を終えたルルがそう言うと同時に、ユートがのそりと立ち上がった。

 ルルはそこで敢えて明るい口調で彼に話しかける。


「待たせてごめんね! 帰ったらすぐお昼ごはんにするから!」


 よいしょ、と本日の収穫物が入った籠を持って駆け寄るルルをユートは静かに見下ろす。不思議に思って首を傾げると、ユートはルルが持っていた籠をひょいっと取り上げた。


「行くぞ」

「あっ……うん! 今日は野菜も収穫したし結構重かったから助かるよ! ありがとう!」


 彼も彼なりに先ほどの空気を払しょくしたかったのだろう。

 ルルはすぐさまユートの意図に気づき、その優しさに甘えることにした。

 そうして二人並んで森をゆったりと歩く。特に会話はないが、もう気まずくはなかった。

 そんな中、


「……さっきは」


 ユートがポツリと小さな声を落とした。


「悪かった。あそこまで怒鳴るつもりはなかった」

「! ううん、私の方こそごめんねっ。……じゃあ、これで本当に仲直りってことでいい?」

「……ああ」


 軽く頷き、こちらを向いたユートはそこでぎこちなくも確かに薄く微笑んだ。

 ルルは初めて見たユートの笑顔に心臓がぎゅうっと締め付けられ、同時に熱くなるのを感じる。こんなことは今までになかった。なんだかとてもソワソワして妙に落ち着かない。でも決して嫌な気分ではなかった。むしろ――


(……ユートの笑った顔、可愛い。好きだなぁ)


 もっと彼の笑顔が見たいなと、ルルは心の底から思った。


ようやく二人に仲良くなる兆しが出てきました。

ここまでお付き合いくださり誠にありがとうございます!

もしこのお話が気に入ってくださったら、ぜひ評価やブクマ、いいねなどいただけますと幸いです! 引き続き更新の方も完結まで頑張ります!

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