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嫉妬しました


 怒涛の展開から明けて次の日。

 ルルは二日連続で町に赴くと開店準備をしていたカルトスを捉まえ、昨日の告白を正式に断った。

 そんなルルの背後に陣取るユートを見たカルトスは、それで凡そを悟ってくれたらしい。


「はあああぁ……お前ら、やっぱり付き合ってんのかよ!!」

「……うん」


 顔を赤らめるルルに対して、ユートは「当然だろ」というような表情をカルトスへと向ける。

 実際は昨日の今日で付き合い始めたばかりだが、それをわざわざカルトスに説明することもないだろう。結論は同じなのだから。


「――カルトス、その……好きになってくれてありがとう」


 ルルの言葉に、カルトスがどこか泣きそうに顔を歪めた。だが彼はすぐに表情を取り繕うと、わざとらしく大声を上げる。


「あーあ、見る目ねぇなぁルルは! オレを選ばなかったこと後悔しても知らねぇからな!!」


 それが彼なりの優しさなのだと理解したルルは、


「……そうかもしれないね」


 と少し困ったように笑った。

 それから店の営業の邪魔だとカルトスに追い出されたルルは、ユートと共に自宅へ戻ろうとした。

 だがその前に、ユートがルルの手を取って近くにあった建物の物陰へと連れ込む。


「ユート? んっ……!」


 不意打ちのようにキスをされて、ルルは反射的に目を瞑る。ちなみに本日既に三度目のキスである。朝起きた直後に一度、家を出る前にもう一度、そして今現在。


(ちょ、き、キスしすぎでは……っ!?)


 しかも長い。おまけに舌まで入れられて、口内を好き勝手に蹂躙されてしまう。

 それをされると頭がぼんやりとしてきてしまい、ルルは縋るようにユートの外套を弱弱しく掴む。するとますます調子づいたようにユートが攻めてくるので、ルルはそれを必死で受け止める他なかった。


 しばらくして気が済んだのか、それとも再びの酸欠を危惧してか。


 最後にちゅっとリップ音をさせたユートの顔が離れたのを感じて、ルルは薄目を開ける。

 すると眼前ではユートがぺろりと自分の唇を舌で舐めており、それがまたとてつもなく煽情的で目のやり場に困ってしまった。ルルは咄嗟に視線を逸らしつつ、小さく口を開く。


「あのさ、ユート……なんでいきなりキスするの……?」

「……嫌だった?」

「そういう聞き方はずるくない? 私が嫌だって言わないこと分かってるでしょ……」


 ぎゅっと外套を掴んだままの手を握り込めば、ユートが先ほどの強引さとは打って変わって優しく抱き寄せてくる。


「……不安なんだよ」

「不安?」

「さっき、ルルがあの野郎にお礼を言ったり笑いかけてたりしただろ?」

「うん」

「それがもう、俺からしたら凄い嫌で」

「えっ」


 それは流石に心が狭くないだろうか、とルルは目を瞬かせながらユートを仰ぎ見る。しかし彼の表情は真剣そのもので、本心なのだと訴えかけてくる。


「つまり嫉妬した。俺は常にルルを独占したいから」

「っ……そ、そんなに不安にならなくても、私はもうその、ユートのこ、恋人ですが……っ!」

「分かってる。けどそれとこれとは別だから」


 あんまり俺以外の奴と仲良くしないで、とユートが耳元で囁きかけてくる。その声があまりにも熱烈で甘すぎて。ルルは耳まで真っ赤にしながら「ぜ、善処します……」と返すのが精一杯だった。


 その後、半ば強制的に手を繋いで町の往来を歩くことになったのだが、そこでルルは自分たちに注がれている複数の視線に気づく。

 正確には自分にではなく、ユートに対してのものだ。

 目を向けているのは町の中では比較的若い部類に入る女性陣。買い物途中だったり、店先で掃除をしていたりする彼女たちは、ユートが傍を通るとぽーっと見惚れたようにその姿を目で追う。


(……ああ、今はフード被ってないからか)


 先ほどキスをした時に外れたのだろう。普段は町中でもフードを被ったままなので、彼女たちが髪を切ったユートの姿を目撃することは今までなかったはずだ。


(やっぱり私が前に言った通りになってるじゃん……)


 髪を切ってあげた直後のやり取りを思い出す。あの時は軽い気持ちで女の子の視線を独り占め、というようなことを言ってしまったが、いざその状況になると――正直、面白くない。

 あんまりユートのことを見ないで欲しい。そしてあわよくば声をかけようかソワソワしないで欲しい。


(ユートの隣は、私のものなんだから)


 無意識のうちに繋いだ手に力を込めてしまう。するとユートが「どうかした?」というような顔でこちらを覗き込んでくる。ルルは自分でもあまり可愛くないだろうなと思うむすっとした顔で、ぽそりと言った。


「今、ちょっとだけユートの気持ちが分かった気がするの」

「どういう意味?」

「……ユートはかっこいいから、他の女の子たちが近寄ってきたら不安になる……かも」


 生まれて初めて感じるこれを、おそらくひとは嫉妬と呼ぶのだろう。

 既に持て余し気味なその感情にルルがモヤモヤしていると、不意に町の往来の真ん中でユートが足を止めた。不思議に思ってルルが再びユートを見上げれば、心底嬉しそうな表情とぶつかる。


「――それじゃあ、互いのためにも見せつけておく?」


 そう言うとこちらの返事も待たずに、四度目の口づけが降って来る。今日一番の優しいそれに目を白黒させながらも、ルルはやっぱり拒むことが出来なくて。

 あちこちから悲鳴にも似た声が薄っすら聞こえてくるが、どこか遠くのもののように感じた。


 なお、この出来事は狭い町内を一瞬にして駆け巡り。

 ルルとユートは名実ともに同棲中の恋人同士(バカップル)として町の人々に認知されたのだった。


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