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君には到底、聞かせられない【ユート視点】

今回そこそこヤンデレ思考してますので苦手な方はご注意ください。


 欲望というものは際限がないのだと、ユートはルルと暮らしてから初めて理解した。

 この世界の何もかもに絶望した自分を拾い上げた唯一の存在。

 執着するなという方が無理な話で、彼女に依存している自分にもとっくに気づいていた――たぶん、あの雨の夜よりも前に。


 それでも最初の頃はただ、傍にいてくれさえすればいいと本気で思っていた。

 彼女は自らユートの帰る場所になりたいと言ってくれたから。

 その約束さえあればいいのだと。


(そんなの、ただの綺麗ごとだったな)


 自室のベッドで天井を見上げながら、ユートは先ほど行なった己自身の暴挙を顧みる。

 あまりにも唐突で強引な口づけ。

 理性では止めるべきだと分かっていたのに、身体が勝手に動いていた。許せなかったのだ。彼女が少しでも、自分以外の男のことに思考を割くこと自体が。自分以外の男を選ぶという可能性自体が。堪らなく不愉快だった。


 振り向かせたい。自分だけを見て欲しい。他の誰かのことなんか考えないで。

 そんな衝動のままに触れた彼女の唇はひどく柔らかくて、一度その味を知ってしまえば後戻りはできなかった。


 欲しい。もっと、もっと、全部が欲しい。

 ルルという存在の何もかもを手に入れたい。抱き寄せた小さな身体が愛おしくて、苦しそうにしている表情にすら昏い喜びを覚えてしまう。でもこれだけでは到底足りない。もっともっと、己の存在を刻みつけたい。埋め尽くしたい。他が入る余地なんて一片も残さないくらいに。

 自分の中にこんなにも凶暴な感情があることを、その時になってようやく自覚した。


(……もしルルが許してくれなかったら、俺はどうしてたんだろう)


 手放すという選択肢は端からない。だからおそらく彼女をこの家に閉じ込めて、絆されてくれるまでグズグズに甘やかしたり、泣いて縋ったりしたのではないだろうか。情に厚い彼女が許してくれるまで。自分を受け入れてくれるまで。

 そして最終的には心身ともにユートなしでは生きられないようにする。


(それはそれで楽しそうではある……なんて考えてる時点で、俺も相当狂ってるな)


 もともとルルが自分を憎からず思ってくれている自信はあった。

 しかしユートが口にする『好き』と、彼女が口にする『好き』には明確な温度差があることにも気づいていた。彼女の好きはどこか博愛的なものだ。煮え滾るような激情とは程遠い。


 一緒にいると約束した以上、彼女の方からそれを違えるとは思っていなかった。

 だがユートに恋愛感情を抱いてくれるかという話はそれとは別問題だ。人間関係には様々な形がある。恋情や肉欲が絡まない家族関係をルルが求める可能性は十分にあった。

 

(まぁ、いずれはどっかで破綻してただろうけど)


 そういう意味では、今回の件はいい機会だったのかもしれない。

 結果的にルルから特別な『好き』を引き出せたのだから。もう彼女は名実ともに自分のモノだ。

 今後は家の外でも中でも遠慮せずにルルに触れられる。その権利が今の自分にはある。


(本当は誰の目も届かない場所に閉じ込めたいって言ったら、ルルはどんな顔するかな)


 ルルがユートと同じだけの気持ちを返してくれることは、おそらく永遠に来ない。

 それはルルの気持ちが軽いとかそういう次元の話ではなく。

 単純にユートが抱える感情に問題があるのだ。


 本人には何度も伝えているが、もうこの先、ユートはルル以外すべて本当にどうでもいい。

 彼女が生きているから自分も生きているし、彼女が死んだら自分も死ぬだろう。

 とても健全な思考とは言えない。おそらくルル本人が知ったら怒られるし改心するよう説得される気がする。


 ふいに真っ赤になって涙目で怒るルルの姿を幻視して、ユートはふっと小さく笑う。

 想像の中でも彼女は常に可愛くて困る。もちろん本物には勝てないが。


(あー……くそ、もっかいキスしておけばよかった)


 まるで遅れてきた思春期のようだ。自分で自分に呆れてしまう。

 そして本音を言えばキスだけでどこまで踏みとどまれるかも怪しい。

 なにせユートは健全な二十歳の男なので。


(とりあえず、朝起きたらキスはしよう。というか毎日して慣れさせよう)


 今日みたいに怖がらせるのは本意ではないので、なるべく優しくしたい。

 最後に少しだけそんな良心的なことを考えた自分に苦笑しながら、ユートは目を閉じて眠気の訪れを待った。


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