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告白されました【1】


 しばらくして、魔族の件で調査に訪れていた精鋭部隊の面々は辺境伯領へと帰還していった。

 結局のところ魔族を斃した者――つまりユートのことは特定されていない。


 彼が勇者であることを聞いた流れで、ルルは魔族を一人で葬ったのがユートであることも同時に知った。移動距離の疑問は聖剣という超常の力で解決していたと説明され、改めて勇者という存在の規格外さに驚いたものだ。


 当然ながら素性を知られたくないユートが自ら手柄を名乗り出ることはない。

 よって、この町で魔族討伐の真実を知るのはルルとユートのみである。冷静に考えるととんでもない秘密を知ってしまったわけだが、色々ひっくるめて墓場まで持っていこうとルルは固く心に誓った。


 そうして部外者が去ったことで、町もようやく日常を取り戻した。

 むしろ人々の顔には以前よりも活気がある。魔族関連の事件で誰ひとり犠牲者が出なかったというのは奇跡に等しいので、その奇跡が起きたという事実が町民たちを喜ばせた結果だろう。


 一種のお祭りムードが漂う中、しかしルルの気持ちは穏やかではなかった。

 どうしてもユートを捜しているという人物のことが頭の隅から離れないのだ。


(結局、イルゼさんにも会えず仕舞いだったし……今の私に出来ることって特にないんだよねぇ)


 せめてイルゼの知人だという人物の名前が分かれば、と臍を嚙む。

 過去の話を聞いてからというもの、ルルはユートのために何かをしてあげたかった。しかし具体的に何をすればいいかも分からず、モヤモヤばかりが募る。


 日課の畑仕事を終え、その日の午後は薬草の納品があったのでルルはひとりで町に赴いた。

 ちなみにユートは畑仕事を一緒に手伝ってくれた後、ちょっと足を伸ばして魔獣狩りに行ってしまった。この辺りは魔獣が出ないが、ひとつ山を越えれば魔獣の生息領域も複数存在している。

 聖剣の能力を使えば容易に日帰りが可能ということで、ルルに正体を明かしてからというもの、ユートはその辺りを一切隠さなくなった。


「ついでに魔族の残党も見つけたら始末しようかと思って」


 とはユートの言。

 ルルとしては危険なことはしてほしくないし、実際にそう主張もしてみたが、


「他の場所でも魔族を斃しておいた方が何かと都合が良さそうだし、何よりルルの周囲から魔族とか魔獣は徹底的に排除しておきたいし」


 と譲らなかった。ルルはとにかく安全第一を約束させ、後はユートの好きにさせている。

 そもそもルルにユートの行動を縛る権利はないわけだし。

 しかし彼の行動目的の一つがルルのためである点も踏まえると、何もできない自分がより歯がゆく思えてきてしまう。


「ねぇねぇカルトス」


 肉屋に立ち寄ったルルは、最近では珍しく店番をしていたカルトスに声をかける。

 彼はルルから注文を受けた肉を包む作業をしながら「あん?」と顔を上げた。


「男のひとって、何をすれば喜んでくれるの?」

「――ッッッ!?!? お、おま……いきなり何言ってんだ……っ!?」


 何故かめちゃくちゃ狼狽された。ルルとしてはただの世間話のつもりなのだが、こうも過剰反応されるとは。相談する相手を間違えたかなと若干後悔しつつも、他に若い男性の知り合いがいないルルは話を続ける。


「例えばカルトスなら、どんなことをして貰ったら嬉しいのかなって。ちょっと参考までに聞いてみたかっただけなんだけど」

「参考までにって……オ、オレがされて喜ぶこと……?」

「うん。何かない?」


 カルトスは作業の手を止めると真剣に悩み始めた。別にそこまで真面目に考えなくても、とは思いつつ自分から頼んだ手前、ルルは彼の返答を静かに待つ。

 やがてカルトスはひとつ頷くと、ルルの目をまっすぐに見て言った。


「オ……オレのために毎日料理を作ってほしい!」

「……カルトスって料理苦手だったっけ?」

「別に苦手じゃねぇけどよ。くそっ……やっぱりこの程度じゃ伝わらねぇのかよ!」


 何やらぶつぶつと言っているが、ルルは別のことに気を取られる。


(料理なら既に毎日作ってるから、参考にならない……)


 ユートが作ってくれることもあるが、基本的に食事の用意はルルの担当だ。

 彼は毎日「いただきます」と「ごちそうさま」、そして「美味しい」と言ってくれるので大変作り甲斐がある。そんな今日の夕飯はユートのリクエストで熱々のグラタンにする予定だ。ユートはどうもクリーム系の食べ物が好きなようなので、最近ではミルクとチーズは切らさず常備するようになった。

 そんなわけで残念ながらカルトスの案は使うことが出来ない。


「他には何かないの?」


 ルルが再度カルトスに問う。

 すると彼はグッと喉を鳴らしてから、覚悟を決めたような顔で言った。


「ルル、今から言うことを素直に聞いて欲しい」

「ん? うん、ちゃんと聞いてるけど?」

「――……オレは、オレは! お前のことが好きだ!!」


 大音声で告げられたまさかの告白にルルは目玉が飛び出そうになるほど驚いた。


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