第98話 童貞を殺す服
「あれ、良いの?」
カゴの中に入ってる服を戻していく。
「折角、楓ちゃん選んでくれたのに」
とは言われても、だ。
俺はコートを元あった位置に掛ける。
「その、それは分かってるんですけど」
最終的に、俺は黒ジャケットと何枚かのシャツを買うことにした。
「今は財布的にこれくらいしか……」
服も安くない。
だから、多くは買えない。
「あ〜……そっか。学校帰りに急に誘っちゃったからってのもあるね」
先輩が納得した様子で俺が戻した服を見て「こっちも良いと思ったんだけどね。コーディネーターの楓ちゃんの反応、確かにこれが一番良かったもんね」と言ってくる。
「ま、優希くんはそれで良いとして」
俺はカゴを手にしたまま先輩の動きを目で追いかける。
「次はわたし達の服選ぶから、ねっ」
少し離れた所で男性用の服を眺めていた篠森の腕を引いて、連れてくる。
「え? あのっ、金谷さん……?」
突然に何だと言う表情をしていた篠森に「優希くん、買うの決まったってさ」と告げると、篠森が俺が持っているカゴの中を見てくる。
「ありがとな、篠森」
「うん」
「次、遊ぶ時は早速だけどこれ着てくか」
「……う、うん」
篠森の返事が聞こえて。
「じゃ、楓ちゃん。次はわたしたちの服だよ〜、レッツゴー……!」
そう言って先輩は篠森の手を引いてグングンと男性用コーナーから遠ざかっていく。俺も、先輩と篠森に置いて行かれない様に追いかける。
「…………」
女性用コーナーに着くと先輩が振り返った。
「じゃあ、今度は優希くんが楓ちゃんの服、選んであげるって言うのは……どうかな?」
先輩が言った途端に篠森が俯いてしまう。
「篠森?」
「ぁ……じ、自分で選ぶからっ」
篠森はそう言って、女性服コーナーの更に奥の方に向かっていく。俺は先輩の方を見れば意地が悪いのか、ニヤニヤとしていて。この人が何かを言ったんだろう。
「はぁ……金谷先輩」
確実に、そうだろう。
「んー……?」
いや。
普通に考えて、だ。
さっきだって、この人は答えなかったんだ。じゃあ、俺の質問は意味がない。溜息を吐き出しながら、俺は先輩を半目で見るに留める。
「……何でもないです」
仕方ないから。
俺が答えれば先輩は「そっか」と笑顔を浮かべながら呟く。
「先輩は服見なくて良いんですか?」
「そうだね。じゃあ、この辺りで見てるね」
俺は篠森の方に行くってのが分かってるんだろう。どこに居るかを探しながら歩いて、セーター類の服を見てる篠森の背中を見つけて声をかける。
「なあ、篠森」
「あっ……甲斐谷」
驚いた様な声を出し身体をビクリとさせてから、俺の方にサッと振り向いて「さっきは、ごめん」と細々とした声で謝ってくる。
「全然。金谷先輩に何か言われたんだろ?」
俺は特に篠森の答えも聞かずに続ける。
もう、先輩が篠森に何か言ったのは俺の中で確定しているから。
「まあ、俺が選んでも、なぁ……」
それこそ俺のセンスで良いのかって話になる。服を気にしない人間が服を選ぶ、ってのは篠森に悪い気がする。
「ねえ甲斐谷。こう言うのは……」
篠森は白色のセーターを取って自分の身体の前に持ってくる。
「どう、かな?」
似合ってる、と思った。
俺がそう口にしようとして「あ、二人とも〜」と先輩の声が聞こえた。
「ここに居たんだ」
先輩の腕にはいくつかの服がある。
「楓ちゃん、こう言うのはどうかな?」
なんて言って腕にかけていた服を篠森に見せる。白のブラウスと紺色のロングスカート。
「あ、そのセーターも良いね! ちょっと試着してみようよ」
そう言って試着室に連れて行く。
篠森が先輩からブラウスとロングスカートを受け取って試着室に入ったのを見てから、俺は先輩の方に視線を向ける。
「あの、先輩」
先輩の腕には何もない。
腰に両手を当てて、カーテンの閉まった試着室を見つめていた。
「え?」
「先輩の服は……?」
衣服類が腕の中に見当たらない。
自分の服を探してたんじゃないのか。
「探してたんだけどね〜、ブラウス見つけて楓ちゃんに似合うだろうな〜って。それで、居ても立っても居られず!」
篠森が着替え終わりカーテンが開くのを待つ。
「きっと可愛いよ〜」
「……そりゃそうでしょ」
何を分かりきった事を。
「だよね〜」
ワクワクしてるのか、早く着替えた姿を見たいのか。目を輝かせて、今か今かと待ってる。
「──ど、う……ですか?」
ゆっくりとカーテンが開いた。
不安そうな顔をして、小首を傾げ篠森が聞いてきた。
白のブラウスに黒のロングスカートは清純そうな雰囲気を漂わせている。
「お、おお……!」
俺の隣から感嘆の声が聞こえた。
「わたしの目に狂いはなかったんだよ!」
先輩は興奮した様子で篠森に擦り寄って「これ買おうよ、わたしもお金出すからさ……!」なんて言ってる。
それが興奮しすぎじゃないのか、なんて思えて、俺も少しだけ笑ってしまった。
「篠森、似合ってる」
篠森は「……セーターも着てみる」と言ってカーテンを閉める。
「え〜っと、待てよ〜……?」
先輩の方に顔を向ければ財布を取り出して、所持金を確かめてるのが見えた。本当に払う気か。




