表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/192

第98話 童貞を殺す服

「あれ、良いの?」

 

 カゴの中に入ってる服を戻していく。

 

「折角、楓ちゃん選んでくれたのに」

 

 とは言われても、だ。

 俺はコートを元あった位置に掛ける。

 

「その、それは分かってるんですけど」

 

 最終的に、俺は黒ジャケットと何枚かのシャツを買うことにした。

 

「今は財布的にこれくらいしか……」


 服も安くない。

 だから、多くは買えない。


「あ〜……そっか。学校帰りに急に誘っちゃったからってのもあるね」

 

 先輩が納得した様子で俺が戻した服を見て「こっちも良いと思ったんだけどね。コーディネーターの楓ちゃんの反応、確かにこれが一番良かったもんね」と言ってくる。

 

「ま、優希くんはそれで良いとして」

 

 俺はカゴを手にしたまま先輩の動きを目で追いかける。

 

「次はわたし達の服選ぶから、ねっ」

 

 少し離れた所で男性用の服を眺めていた篠森の腕を引いて、連れてくる。

 

「え? あのっ、金谷さん……?」

 

 突然に何だと言う表情をしていた篠森に「優希くん、買うの決まったってさ」と告げると、篠森が俺が持っているカゴの中を見てくる。

 

「ありがとな、篠森」

「うん」  

「次、遊ぶ時は早速だけどこれ着てくか」

「……う、うん」

 

 篠森の返事が聞こえて。

 

「じゃ、楓ちゃん。次はわたしたちの服だよ〜、レッツゴー……!」

 

 そう言って先輩は篠森の手を引いてグングンと男性用コーナーから遠ざかっていく。俺も、先輩と篠森に置いて行かれない様に追いかける。

 

「…………」

 

 女性用コーナーに着くと先輩が振り返った。

 

「じゃあ、今度は優希くんが楓ちゃんの服、選んであげるって言うのは……どうかな?」

 

 先輩が言った途端に篠森が俯いてしまう。

 

「篠森?」

「ぁ……じ、自分で選ぶからっ」

 

 篠森はそう言って、女性服コーナーの更に奥の方に向かっていく。俺は先輩の方を見れば意地が悪いのか、ニヤニヤとしていて。この人が何かを言ったんだろう。

 

「はぁ……金谷先輩」


 確実に、そうだろう。


「んー……?」

 

 いや。

 普通に考えて、だ。

 さっきだって、この人は答えなかったんだ。じゃあ、俺の質問は意味がない。溜息を吐き出しながら、俺は先輩を半目で見るに留める。

 

「……何でもないです」

 

 仕方ないから。

 俺が答えれば先輩は「そっか」と笑顔を浮かべながら呟く。

 

「先輩は服見なくて良いんですか?」

「そうだね。じゃあ、この辺りで見てるね」

 

 俺は篠森の方に行くってのが分かってるんだろう。どこに居るかを探しながら歩いて、セーター類の服を見てる篠森の背中を見つけて声をかける。

 

「なあ、篠森」

「あっ……甲斐谷」

 

 驚いた様な声を出し身体をビクリとさせてから、俺の方にサッと振り向いて「さっきは、ごめん」と細々とした声で謝ってくる。

 

「全然。金谷先輩に何か言われたんだろ?」

 

 俺は特に篠森の答えも聞かずに続ける。

 もう、先輩が篠森に何か言ったのは俺の中で確定しているから。


「まあ、俺が選んでも、なぁ……」

 

 それこそ俺のセンスで良いのかって話になる。服を気にしない人間が服を選ぶ、ってのは篠森に悪い気がする。

 

「ねえ甲斐谷。こう言うのは……」

 

 篠森は白色のセーターを取って自分の身体の前に持ってくる。

 

「どう、かな?」

 

 似合ってる、と思った。

 俺がそう口にしようとして「あ、二人とも〜」と先輩の声が聞こえた。

 

「ここに居たんだ」

 

 先輩の腕にはいくつかの服がある。

 

「楓ちゃん、こう言うのはどうかな?」

 

 なんて言って腕にかけていた服を篠森に見せる。白のブラウスと紺色のロングスカート。

 

「あ、そのセーターも良いね! ちょっと試着してみようよ」

 

 そう言って試着室に連れて行く。

 篠森が先輩からブラウスとロングスカートを受け取って試着室に入ったのを見てから、俺は先輩の方に視線を向ける。

 

「あの、先輩」


 先輩の腕には何もない。

 腰に両手を当てて、カーテンの閉まった試着室を見つめていた。


「え?」

「先輩の服は……?」

 

 衣服類が腕の中に見当たらない。

 自分の服を探してたんじゃないのか。

 

「探してたんだけどね〜、ブラウス見つけて楓ちゃんに似合うだろうな〜って。それで、居ても立っても居られず!」

 

 篠森が着替え終わりカーテンが開くのを待つ。

 

「きっと可愛いよ〜」

「……そりゃそうでしょ」

 

 何を分かりきった事を。

 

「だよね〜」

 

 ワクワクしてるのか、早く着替えた姿を見たいのか。目を輝かせて、今か今かと待ってる。

 

「──ど、う……ですか?」

 

 ゆっくりとカーテンが開いた。

 不安そうな顔をして、小首を傾げ篠森が聞いてきた。

 白のブラウスに黒のロングスカートは清純そうな雰囲気を漂わせている。

 

「お、おお……!」


 俺の隣から感嘆の声が聞こえた。


「わたしの目に狂いはなかったんだよ!」

 

 先輩は興奮した様子で篠森に擦り寄って「これ買おうよ、わたしもお金出すからさ……!」なんて言ってる。

 それが興奮しすぎじゃないのか、なんて思えて、俺も少しだけ笑ってしまった。

 

「篠森、似合ってる」

 

 篠森は「……セーターも着てみる」と言ってカーテンを閉める。


「え〜っと、待てよ〜……?」


 先輩の方に顔を向ければ財布を取り出して、所持金を確かめてるのが見えた。本当に払う気か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ