第96話 放課後の誘い
始業式を終え、教室に戻り宿題の提出を無事に終えた俺はやる事も無くなり黒板を眺めていた。他の何人かも手持ち無沙汰でこの時間が終わるのを待っていただろう。
「…………」
時計を見て、あとどれだけでこの時間が終わるだろうかと考える。今日は始業式で午前に終わり、直ぐに帰る事が出来る。
部活もなければ、宿題で居残りをさせられる事もないから。今、せっせと腕を動かしている多くは、宿題を終えられなかった者たちと言う訳だ。
「────おい、一旦終わりだ。宿題やってる奴一旦止まれ」
時間になったのか、俺はぼうっとしていて一瞬忘れていたが、時計の針は授業の終わり時間を指していた。
「……そこまで長くやらないからな。だから落ち着け」
先生の目が細められた。
「まず、始業式お疲れ。久しぶりの学校……って、部活もあったろうから久しぶりって訳でもない奴も居るな」
全員の動きが一先ずは止まったからか、先生の目が元に戻る。
「始業式で校長先生も言ってたが、夏休み中は特に問題はなかったしな。俺からは特に何もない」
一瞬だけ教壇に立つ先生と目があった気がした。それが何となく倉世を殴ってしまった四月のことを言われている様に感じてしまう。
「…………」
今、話した以上に特に何かを話すことはないのか。
「じゃあ、これで終わりだ。宿題出したやつはもう帰っていいぞ」
先生の言葉に生徒達が立ち上がりそれぞれ行動を始める。教室に残ったのは宿題を終えてない生徒と教師くらいだ。
俺も今日持ってきていた宿題を提出した事で軽くなった鞄を持ち上げ、教室を出る。
「甲斐谷」
教室を出れば篠森が俺の事を呼ぶ。
「ん、篠森」
朝来た時には声を掛けられなかったから、これが夏休み明け最初の会話だ。
「夏祭り以来だな」
「うん」
そこまで久しぶりと言うわけでもない。それでも、何となくこうして話せるのが嬉しく感じて。
「んじゃ……まあ、帰ろうぜ」
「うん」
篠森の返事を聞いてから玄関に向かう。
俺と篠森は靴を履き替え外に出る。
「来たね……待ってたよ、二人とも」
柱に寄りかかり、先輩が腕を組んだまま俺達に言う。
「あ、金谷さん」
「楓ちゃん!」
先輩は篠森の方に笑顔で駆け寄る。
「あ、こんにちは……」
「うんうん、こんにちは! で、優希くんは朝、会ってるもんね」
金谷先輩の顔が俺の方に向く。
「そうですね」
それは良いとして、だ。
どうして先輩が玄関前に居るのだろうか。金谷先輩は今日は補講だとかは無いのか。
「あの、金谷先輩」
俺は気になって先輩の名前を呼ぶ。
「ん、どうしたの優希くん?」
「今日は補講、無いんですか?」
キョトンとしていた先輩の顔は、次の瞬間には「それがね、何とね。今日はお休みなんですね〜、これが」と答え喜色満面になった。
「そうなんですか」
「そうなんですよ〜」
それでここで待っていたと言う事は確実に息抜きに付き合えという事になるんだろう。バッティングセンターにカラオケと来て。
「あの、今日は何するんですか……?」
俺も疑問に思っていた事を篠森が先輩に尋ねると、先輩は不敵に笑って「ショッピングに行きます」と言う。
「何買うか全然決めてないけどさ」
学校から少し離れた場所にあるショッピングモール。多分、先輩が向かおうとしてるのはそこだろう。
「レストランもあるし、色々できるよ〜。映画館もあるみたいだし」
今回は映画観ないけどね、とスマホを見ていた金谷先輩が顔を上げて言う。
「着いたらご飯食べて……そうだなぁ。何しよっか、楓ちゃん」
突然に話を振られた篠森が考える様な顔をしてから「服とか、見るのは……どうですか?」と呟く。
「お、良いね! わたしも見たい! ね、優希くんもそれでいい?」
俺も一緒に回るのは決定事項らしい。
「大丈夫ですよ」
まあ、ショッピングに友人と行って勝手に一人で動き回るのも変な話か。
「ん、じゃあ荷物持ちよろしく!」
「……マジすか?」
そのためのさっきの質問だったのか。
思わず出てしまった声に、先輩は「嘘、嘘」と答える。
「冗談だって。自分のは自分で持つから。そんな自分で持てないくらい買ったら帰れないじゃん」
そう言って、先輩はケラケラと笑った。
「あ、もう少しだって」
金谷先輩が手元のスマホに目を向ける。
「いや、先輩……もう見えてますよ」
俺の視線の先には既にショッピングモールが見え始めてる。俺の言葉に先輩も顔を上げて「おお……本当だ!」と驚いた様な声を上げた。
「よーし! 行こ行こ!」
なんて言って先輩が楽しそうに先に行ってしまう。俺たちが付いてきてるかも確かめずに。
「はあ……篠森、俺たちも行こうぜ」
「うん」
先輩を追いかける為に俺たちも足を早める。ショッピングモール内に入れば、平日の昼だと言うのにそれなりに賑わっている。
マップの前で立ち止まっている先輩を見つけて声を掛けた。
「金谷さん……?」
「あ、二人とも。ちょっとレストラン何階かなって探しててね」
俺と篠森も一緒にマップを見て、レストランの場所を確かめる。
「あ、あったあった!」
先輩が見つけたらしく「じゃあ行こっか」なんて言って、また先を歩き出す。俺たちも置いて行かれない様に。




