第95話 新学期
最終話まで後、半分です。
「優希、起きなくて良いの〜?」
階下から響く母さんの声に俺はゆっくりと目蓋を開く。はっきりとしない思考、階段を降りて行く中で今日から学校が始まるのだという事を思い出して行く。
「おはよ……」
俺がリビングに入ると父さんと母さんは既に食事を始めている。テレビの画面を見て、俺もようやく今が何時か理解した。
「今日から学校でしょ?」
確かにその通りだ。俺は「顔洗ってくる……」と上手く動かない口で言ってから、洗面所に向かう。
「ぷはっ……」
夏休みは昨日まで。
俺は鏡を見る。寝癖がついてる。こっちも登校する前には直しておこう。
顔を洗った事で気持ちがスッキリとする。口を二回すすいで、リビングに戻る。
「優希、宿題終わったのか」
夏休み明けに聞く事ではないだろう。聞くにしても、もう少し前に聞く話だと思う。父さんの質問に「終わったよ」と答えながら、俺も食卓につく。
「ご飯にする? パンにする?」
母さんの質問に「パン」と答えると、袋に入ったクロワッサンが渡される。
「いただきます」
俺も早速と開いて口にし始めると、父さんが立ち上がった。
「…………」
もうそんな時間か。
父さんが「行ってきます」と言ってからリビングを出る。
「いってらっしゃい」
俺はそれを見送って呟く。
クロワッサンを食べ終えて、俺は一度二階に戻る。二階で、今度は母さんが「もう行くから、鍵閉めて行ってね」と残して階段を降りていった。
「……タオル、タオルっと」
寝癖を直さないと。
あと、歯磨き。
俺はスマホで時間を確認してから、階段を下りる。
「これで、いいか」
最低限に身だしなみは整える。見苦しさはないだろう、鏡を見る限りだと。使ったタオルを洗濯機に入れ、荷物を取りに自室に向かう。
最後に夏休みの宿題がしっかりと入っている事を確認して鞄を持ち。
「────いってきます」
一番、最後に家を出るのは俺だけど何となく、挨拶をしてから玄関を出る。鍵を閉めて、学校に行くかと身体の向きを変えて、倉世が立っていた。
「あ」
思わず、そんな声が出た。
夏休み明け初日、完全に倉世の登校のタイミングを失念していた。俺としては気不味いという程度であるが、倉世からしたら朝一番に嫌いな相手の顔を見てしまったと言うものだろう。
それは不愉快に思っても仕方ない。
「おはよ」
なんて、挨拶をしてみるが返ってこない。それはまあ、分かっていた事だ。仕方ないと歩き出す。
しばらく歩いた先で、倉世が三谷光正と合流した。
「…………」
俺はそれを見つめて。
少しの間、足を止めた。
「そうだな」
別の道から行くか。
俺は体を左に向けて、少し遠回りな道を行く。
「おっはよー!」
背中に軽く衝撃が走る。
俺は数歩進んだ所で振り返る。
「おはようございます、先輩」
どうにも金谷先輩が俺にタックルをしてきたみたいだ。
「一緒に学校行こうぜ、優希くん」
「……良いですけど」
俺が先輩に「遠回りしますよ」と言えば、「問題ない!」と笑って答える。
「そだそだ。お祭り大変だったね」
大変だった、というのは確かにその通りだったのだが。先輩は何を指して大変だったと言っているのか。
「楓ちゃんとはぐれるなんて……わたし的にはその想定なかったな〜」
「……俺もですよ」
想定してなかったから、ああしてはぐれるなんて事になってしまった訳だ。
「でも、ちゃんと合流できたから良かったよ。ま、優希くん居なかったお陰で楓ちゃんとも話せたんだけどね」
「はい……?」
俺が居なかったからって。
「どう言うことですか?」
「んぇ……? ああいや、大した意味は無いからね。あんま気にしないでよ」
そう言われても、気になってしまうのだからなんて思って先輩を見るも、話す気はないのだろう。
少し適当に思えるような感じに返してくる。
「本当、本当」
なら、俺も納得するしかない。
「そう言えば」
そこから話を変える様に先輩は切り出した。
「優希くん……お面付けてたよね? ユキネコの。ユキネコ、可愛いよね〜」
流石に先輩も知ってるか。
「そうですね」
「で、あれが優希くんの言ってたやつ?」
俺が頷くと、先輩は「確かにお面被られると直ぐには分かんないな〜」なんて笑う。
「と言っても篠森には、直ぐにバレたんですけどね」
苦笑いを浮かべて言う。
「それは優希くんと楓ちゃんの仲だからじゃない?」
そう言う物なんだろうか。
そんな疑問を抱きながらも、先輩と歩いてると「次こっちであってる?」と俺の方に振り向いて確認してくる。
「はい、大丈夫です」
「りょうか〜い」
先輩が道を覚えてないのに少し先を歩く。
「いつも通らないからな〜、この道」
俺は足早に追いかける。
「遅刻したら優希くんの所為だぞ〜?」
「……先輩が一緒に行こうって言ったんじゃないですか」
俺が言い返せば金谷先輩は「うっ、確かに」と、演技臭く狼狽える。
「でも、ほら」
先輩の目にも学校は見えたのか腕を組み、得意げな顔をする。
「フッ、わたしは初めから信じてたよ?」
校門前に着くと、先輩は「じゃ、またね」と走っていってしまった。俺はスマホを見て時間を確認する。そこまでギリギリという訳でもない。




