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第92話 Join

 

「あの……」

 

 流石に会話が一つもないと言うのは気まずかったのか。

 

「はい……?」

「さっき焦ってるって言ってましたけど……もしかして、あなたも」

 

 倉世が聞いてくる。

 

「そうですね、友達と来てまして」

 

 俺が答えれば、倉世が「お互い、合流できると良いですね」と困った様な顔をしながらも笑う。

 

「……ですね」

 

 今日、この場所で三谷光正を見つけても俺は情報を吐かせるだけの手段がない。

 だから倉世のいう通り、俺には倉世と三谷光正を合流させる事と、一刻も早く篠森と合流する以外の目的がない。

 

「こっちです」

 

 道を右に曲がる。

 人はさっきまでよりは少なくなっている。このまま進めば、俺が目指している場所に着く筈だ。

 

「あ……はいっ」

 

 俺は倉世の方に顔を向ける。

 しっかりと付いてきている事を確認して、前に向き直る。

 

「あの、どこに向かってるんですか?」

「……えぇ、っと」

 

 俺は倉世の質問に答えようとして振り返る。

 

「それは」

 

 倉世の姿がない。

 またはぐれたか。お面によって視界が狭まったまま、倉世を見つけようとして顔を動かす。

 

「どうしました?」

 

 倉世は結構近くに居た為に、俺も直ぐに見つけられた。俺は倉世の方に近づくと、どうにも一人ではないらしい。幼い少年の声が響く。

 

「おかあさん……どこぉ?」

 

 心細いのか、声は自信が無さげだ。今にも泣き出してしまいそうな程に。

 

「迷子、か」

 

 俺は子供と視線を合わせる為にしゃがみ込んだ倉世を見て「本部に連れて行きますか?」と問う。

 

「あの……大丈夫、なんですか?」

 

 俺が友達と合流するのを急ぎたい、と倉世は考えたのかもしれない。

 

「はい」

 

 ただ、声をかけておいてこっちも急いでるからとさっさと行ってしまうのは、無責任にも程がある気がする。

 

「ほら、大丈夫か?」

 

 俺も倉世に倣って、男の子と目を合わせようとするもお面があるせいでしっかりと合っているのかが分からない。

 

「————ユキネコ?」

 

 俺のお面を見つめて、首を傾げながら呟く。

 

「知ってるんだ!」

 

 倉世のテンションが上がってる。

 共通の話題が見つかったから、だろうか。

 やはり、ゲームはやっているらしい。オジさんも前に一緒に遊んでいたと言っていたから。

 

「…………」

 

 倉世もこのゲームが好きだったのは覚えてる。そこは変わらなかったらしい。先程までの不安そうな表情が少し緩んだ。

 

「ほら、早い所移動しましょう」

 

 俺の声にようやく倉世が「そうですね」と子供の手を握って立ち上がり、本部に向かう。

 

「ねえ、おにーちゃん」

 

 倉世と話が盛り上がっていた筈の少年は、俺にも話しかけてくる。

 

「うん?」

「おにーちゃんもユキネコ、すきなの?」

 

 そんな質問に倉世も「私も気になってました」と同調する。

 

「だって、ずっとお面被ってましたし……」

 

 それは、まあ。

 

「……もしかして、あなたもゲームやってますか?」

 

 別にここで嘘をつく理由がない。


「まあ、やってますね」


 俺が答えれば、倉世が嬉しそうな顔をして捲し立てる様に話しかけてくる。その言葉も熱意も、俺にはちゃんと分かる。

 

「おねーちゃん……?」


 置いてけぼりを食らってしまったからか。眉を八の字にして倉世を見上げる。


「あ、ごめんね」

 

 今は子供を不安にさせない方が大事だと倉世も感じたのだろう。

 俺は二人の話し声を聞きながら本部に向かって進む。

 

「——すみませんっ! ご迷惑をお掛けして……」

 

 本部には、母親も迷子を心配して既に来ていた様で子供を連れて歩いていく。

 

「良かったですね」

 

 倉世は嬉しそうな顔をして「私たちも頑張りましょう!」と励ましてくる。

 ここで電話をしてもいいが、あまりにも騒がしすぎる。そろそろ移動しようかと、俺は倉世と一緒に本部から離れようとして。

 

「智世! 智世……っ!」

 

 声が聞こえて、振り返る。

 

「光正、さん」

 

 倉世の声が聞こえた。

 偶然にも倉世は合流出来たのだ。

 

「心配したよ」

「ご、ごめんなさい」

 

 こうして、三谷光正と対面するのは久しぶりな気がする。とはいえ、この状況で俺とこの人の間に会話らしい会話など生まれるわけもない。

 黙って俺が彼を見ていれば、彼は俺の存在に気がついたのか。

 

「ありがとう」

 

 少しだけ、苛立ちが募った。

 一言だけ感謝を告げて、三谷光正は篠森の手を取った。

 

「光正さん……?」

「迷子になるといけないだろう」

 

 二人の指が絡まる。

 倉世が俺の方に振り向いた。俺はお面に伸ばしかけていた右腕を下ろす。

 

「あ……その、ありがとうございました」

 

 倉世の言葉が、普通に話せる時間の終わりを告げる。

 

「…………」

 

 目の前で人混みに紛れていく二人の姿を見送ってから、俺は一人で移動する。

 時刻は七時四〇分過ぎ。

 後、二〇分もすれば花火が打ち上がる。隣には誰もいない。俺は早足で明かりの少ない方に向かう。

 階段を上がっていけば鳥居が見える。

 人も少ない。

 お面を取って通話を掛ける。三コールも待たずに繋がる。

 

「篠森」

『もしもし、甲斐谷……?』

 

 篠森の声が聞こえて、俺は一先ず安心する。

 

「悪い、はぐれちまって」

『ううん……それよりどうする?』

 

 篠森のどうする、と言うのはどこで合流するかという事だろう。篠森の居場所を聞いて、俺は早速移動を始める。


「篠森、一旦切るぞ」

『うん』


 通話を切る直前に『じゃあ、待ってるね』と、篠森の囁く様な声が聞こえた。


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