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第91話 遭遇

 

 コン、と銃弾が並べられた景品に当たる。

 

「お、上手いな」

 

 篠森が放った弾が見事にお菓子を撃ち落とした。

 流石に上段に並べられている重量のある景品は簡単には落とせない様になっていて、獲得できたのはお菓子を幾つかだ。

 景品を袋に入れてもらい、篠森が受け取ったのを確認して人混みの中に入っていく。

 

「甲斐谷は行きたいトコないの?」

 

 俺は聞かれても、特に思い浮かばなく「取り敢えず、色々回ってみようぜ」と答える。目に付いた所に行ってみれば、それで良いと思う。

 去年までも特に目的もなく倉世と歩き回って、八時ごろになって花火が見える場所に行っていた。

 

「そっか」

 

 俺の隣を歩く篠森がキョロキョロと周りを見ながら言う。何があるのかが気になるのか。俺はポケットに手を入れて、篠森の様子を見る。

 

「なんかあるか?」


 篠森のお眼鏡にかなう屋台はあっただろうか。


「焼きそばとか、串焼きとか……?」


 篠森の挙げた物に、俺の口からクツクツと笑いが溢れる。


「そういや、お腹空いたな」

 

 俺は夕飯を食べてきていない。


「篠森も腹空いてるか?」


 篠森も食べてきてないんだろう。


「まあ、そうだね」


 篠森の答えに「だよな」と納得する。

 

「それで、何食べる?」

 

 折角、夏祭りに来たのだから屋台で何かしらを買って食べたい。それがお祭りの楽しみ方だと思う。

 

「そうだな……」

 

 俺もさっきの篠森の様に周囲を見回してどんな屋台があるのかと探してみる。篠森の言う通り焼きそばなんかが良いかもしれない。

 

「篠森、あっちに焼きそばある────」

 

 俺が振り向いて言えば、人ごみに埋め尽くされているからか篠森の姿が見当たらない。右肩に誰かがぶつかって、通り過ぎていく。

 

「────ぞ……って」

 

 まずい。

 俺は身体を反対側に向けて篠森とはぐれた場所に移動するが見当たらない。

 

「篠森……」

 

 そうだ、スマホ。

 スマホならすぐに連絡が取れる筈だ。ズボンのポケットに突っ込んでいた右手にスマホを持って、引き抜く。

 

「早く、早く」

 

 慌てて何度か操作を失敗しながらも、通話を試みる。

 

「……クソっ!」

 

 悪態がついて出る。

 ただ、電波の状況が悪いのか繋がらない。なら一先ずはここから離れて連絡した方が早いか。

 

「注意不足だった……!」

 

 はぐれるとは考えてなかった。

 大丈夫だと思っていた。

 倉世に見つからなければ、それで良いと。そんな事を考えていても仕方ない。電波が繋がる場所に向かって、篠森と連絡を取らなければ。

 

「早く……っ」

 

 俺が早足で歩き出して、また誰かにぶつかる。

 

「……すみませんっ」

 

 俺から見下ろせる。

 恐らくは女性。白の浴衣を着ている。柄は良く見えない。髪は茶色。

 

「あ、いえ」

 

 この声を、俺は知っている。

 たった一言でも、明確に誰かが分かる。

 忘れる訳がない。

 俺は覚えている。

 

「こちらこそ」

 

 顔を見られる訳にはいかない。俺は急いでお面を下にズラして顔を隠す。

 確かにどこかに居るだろうとは思っていた。ただ、こうして突然に目の前に現れるとは考えていなかった。

 

「あれ、光正さん……?」

 

 光正、三谷光正。

 呼び方のたった一つ、そんな事で。

 

「あの……」

 

 今更、動揺なんかしなくとも良いだろうに俺は胸の奥に痛みを覚えてしまう。

 どうせ、と何度も言っておきながらも。こんな事で何度も傷付いてしまう。

 俺は下唇を噛んで、言葉を吐き出した。

 

「誰かと来てたんですか?」

 

 知ってるのに、知らないフリ。

 俺が誰なのかが分からない様に、初対面を装って会話を。

 

「あ、はい。さっきまで一緒に居たんですけど……今、ぶつかった時にはぐれたんだと思います」


 それで人波に押し流されてしまったのか。


「……あ」

 

 こんな事になったのは、俺が焦った所為らしい。俺の焦りが齎した、想定外も想定外の事態。

 

「本当にすみません。俺も焦ってて……」

 

 俺が謝罪すれば倉世は「そんなに、謝らなくても大丈夫ですから」と困った様な顔をして言う。

 

「…………」

 

 本当に、俺が誰なのか倉世には分かっていないらしい。

 スマホを操作して、繋がらない事に不安を覚えたのか。眉を顰めて、首を傾げる。

 

「あの、連絡取れないんですよね?」

 

 倉世も俺と同じ状況になってしまったんだろう。

 

「え、あ……はい」

「なら、別の場所に移動した方が良いと思いますよ」

 

 原因はこれだけの人混みだからか。

 通話も儘ならない程になっている。

 俺がそれだけ言って、倉世から離れようとすると「待ってください!」と止められる。

 

「電波が繋がる場所、知ってるんですか?」

 

 何となく、そこなら繋がるだろうと言う場所がある。俺にも確信はないが。保証はしかねると言う思いで、おずおずと浅い頷きを返す。

 

「あの、よかったらなんですが……そこまで案内してもらえませんか?」

 

 倉世は覚えていないだろう。

 俺がこれから行こうとしている場所を。

 

「お願いします……!」

 

 俺との思い出も何も、今の倉世には存在しないのだから。

 

「……わかりました」

 

 少しだけ、思う所はあった。

 ただ、それを口にする事はしない。

 俺は倉世からのお願いを断る気にもなれなかった。断ると言う思考はなかった。

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