第89話 お墓参り
周囲を見れば人が。
「…………」
墓参りに来たのは俺たちだけではない。
共同墓地という場所は、普段ほとんど人が寄り付かないと言うのに、お盆のこの時期になればそれなりに混み合う。
「優希」
俺が手持ち無沙汰に、特に何もせずにぼうっと墓石前に立っていると母さんに名前を呼ばれる。
「ん?」
何だろうか。
「ちょっと水汲んできてちょうだい」
母さんがペットボトルを俺に渡してくる。俺は母さんから受け取って、墓の前から動く。
「あ」
他の人が墓の前で色々と動いている中で、オバさんと倉世の姿が見えた。そこにはオジさんの姿は見当たらない。
「あれ……?」
オジさんはどうしたんだろうかと思いながらも、視線を逸らす。まずは母さんに頼まれた水を汲みに行かなければ。
「…………」
水を汲みに来たのは俺だけじゃ無いようで、もう何人かが並んでいる。
「お、優希くん」
今し方、用を終えたのか。
「あ、オジさん。こんにちは」
曲げていた腰を伸ばして、俺の方に近づいてくる。
「やあ」
俺の挨拶にそう短く返してから、苦笑いを浮かべた。
「まあ色々話したいんだけど……ちょっと今は、ね」
そう言って、横に逸れオジさんは「それじゃ、また後で」と。
「あ……はい」
ここで不自然に時間を使っていても、と言う物だろうか。きっと家族を待たせる事になると思ったのだろう。
俺も水を入れ終えて、父さん達のところに戻る。
「はい、母さん」
「ありがとね」
母さんにペットボトルを渡すと花立に水を注ぎ、持っていた花を入れる。墓には既に供え物の果物が乗っていて、後は……。
「優希、ほら線香」
父さんが俺に一本、線香を渡してきた。
父さんが先に線香を立てる。俺と母さんも父さんに習って線香を立て、手を合わせた。
「んじゃ、帰るか」
墓参りだから、と予定を空けたものの、実際はそこまでの時間がかかる様な物でもない。父さんが供え物を持ち上げて、墓地の外に身体を向ける。
「おーい、久しぶりー」
父さんに声がかけられる。
「あ、オジさん」
また後で、と言うのはこう言う事だったのか。
「うん、さっきぶりだね」
母さんが会釈するとオジさんもニコリと笑みを返す。
父さんは「久しぶりだな。それで、そっちは良いのか?」と確認すると「今終わったところ。智世と母さんには友達と話すからってね」と笑う。
「ちょっと待ってもらってる」
「そうか。こっちも今終わったとこでな」
「分かってる」
だからオジさんも父さんの事を呼び止めたんだろう。
「にしても最近は全然会わなかったからさ」
オジさんと父さんが会うのは半年くらいぶりだろうか。それもこれも俺と倉世の関係が影響しているのだろうが。
「……そりゃ、そうだろ」
父さんは難しそうな顔をして吐き出す。
「ああいや……ごめん」
オジさんは申し訳ないと言った様子で父さんを見る。恐らくは責めるつもりは本当に無かったんだろう。
「あ……そうだ。優希くん」
なんて考えてれば、次には俺の方に顔を向けてきた。
「頼りにしてるからね」
あの日の俺の言葉をオジさんは汲んでくれたんだろう。後少しのところまで来たという、俺の言葉を。
だから、俺は。
応えなければならない。
「はい」
母さんが俺の脇腹を肘で小突いて耳元で「何の話?」と聞いてくる。
「倉世の事だと思うけど」
母さんはそれで納得したのか「なるほどね〜……」と頷いた。
「この前、優希くんに会った時に缶コーヒー教えてあげたんだけど」
「覚えてない」
そんな話が聞こえる。
「折角、優希くんが買ってきてくれたのに?」
オジさんの言葉に「……仕方ないだろ」と父さんが投げやり気味な言葉を返す。
さっきよりは父さんも表情が柔らかくなっている様に見える。
「久しぶりに会ったからもう少し話しておきたかったんだけど……」
オジさんは「流石に、ね」と、話を切り上げる。そしてオバさんと倉世がいるだろう場所に戻って行く。
「ほら、帰ろ」
母さんに言われて、父さんと俺も母さんについて歩き出す。
「光代さんは来なかったわねー」
共同墓地を出ると、母さんが呟いた。
オジさんは父さんと話すばかりで、母さんは特に話に入っていくこともなかったからか。オバさんが居れば、それぞれで話してるなんてのもあったのだろう。
「アタシも光代さんと話したかったんだけどなあ」
父さんは母さんに対して「また後でにしとけ」と言う。
「はいはーい」
母さんの溜息混じりの返事が聞こえる。
「…………」
俺は何となくでオバさんがこっちに来なかった理由が分かってる。それは俺が原因と言っても良い。俺が倉世に嫌われているから、だからオジさんも一人で声をかけに来たんだろう。
今までなら、全員で来てたのに。
「優希、置いてくぞ」
父さんにはバレてるのか。
もしかしたら母さんも知ってるんだろうか。
「ああ……」
いや、そんなの考えても仕方ない。それにオジさんに答えた通りだ。
「ごめん」
最後には元通りになる。
その筈だ。
「……元通りに」
俺は後ろを振り返る。
姿は見えなかった。俺は前を歩いてる母さんと父さんに追いつこうと歩く速度を上げた。




